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「ほんの少しの修正だから」無料でやってと言われたら?〜海外翻訳会社とフリーランス翻訳者のやりとりの結果

「エンドクライアントから修正が入りました。
ほんの少しです。修正をお願いできたら助かるのですが…」
毎月、依頼してくれる海外の翻訳会社からメールが届きました。
内容は、先日わたしが担当した翻訳の原文に修正が入り、単語10個分だった一文が8個になっていました。確かに短い文章です。
いつもお世話になってるし、と即対応して返信したのですが、どうやら「仕事外」だったらしいのです。

再度、自分の理解したことを確認するためメールしてみると、
「このような修正は、どの翻訳者からも無料で対応してもらっています。」
という返事。
モヤモヤしてきたものの、「いつもお世話になっている」「他の翻訳者は無料で対応した」という点から、お金!お金!言うのもどうなのかな?と思い始めました。
もう一度、最初のメールを読み返してみると、確かに(周りくどい表現と感じてしまいましたが)仕事”外”というような表現がありました。
「あ、これはわたしの確認不足だから自業自得なのかも?」「いや、でも相手は仕事に付随したものを、自分は給料の発生している時間内で依頼してきている」とやはりモヤモヤして、どんな返事を書いたらいいか結論が出ませんでした。
その返信は保留し、(すでに日本時間で夜遅かったこともあり)一晩置きました。

原文が短くても長くても手間はかかる

この会社との、いつもの依頼手順は以下の通り。

1) Project Manager(PM)から案件が発生する前にスケジュール確認のメールが届きます。

2) メールで Purchase Order (PO)とプラットフォームへのリンクが届きます。(仕事が正式に依頼される)この時点で、会社からアカウントを与えられているクラウド版CATツールにログインができるようになります。

3) プラットフォームを確認し、原稿データをダウンロードします。(翻訳の際に参考になる資料が添付されていることもあります。)

4) ダウンロードしたデータを、デスクトップ版の CATツール(Aとします)で開きます。

5) 翻訳作業開始(調べ物をする時間も含みます)

6) 訳文に間違いがないか確認作業

7) 確認作業が終わると、クラウド版の CATツールA でも確認します。デスクトップ版と同期してるので、クラウド版でも同じデータが表示されています。念のため、抜け・漏れ・違いがないか確認し、クラウド版の画面で「完了」ボタンを押します。

8) デスクトップ版のデータをダウンロードし、プラットフォームに貼付して、そこでも完了の手続きを行います。

9) PMに作業が終わったことを伝えるメールを送ります。

通常は、上記のような手順で行うのですが、今回は PO なしでワード形式のファイルがメールで送られてきただけでした。。
とはいえ、訳す手間は変わらないし、なんなら CATツール上でできなかったから以前訳していたものを調べられません。確かに単語の数は、「少しだけ」なのかもしれないけれど、基本的な手間は単語が多かろうが少なかろうが変わらないんです。(翻訳している時間自体は、やっぱり量にも左右されますが)
しかも、原文で "Please refer to the file XXX." のように refer が出てくるとその表現は数多くあり、他の文章と揃えないと全体に違和感が出たりします。例えば、「ご覧ください」なのか「ご参照ください」なのか、はたまた「参照してください」「確認してください」なのかこの微妙に違うところを

わかってんのかーー!!!

と叫びたくなりました。

結局どうしたか

「確認させてください。次の依頼に、今回の料金を足してもらうこともできないということでしょうか?」
とメールを送りました。
(この時は、まだ叫んでません 笑)

結果:ミニマム チャージ*を支払ってもらいました!

PMが、「どの翻訳者からも無料で対応してもらっています。」という内容を返信してきた時に、以前のわたしの担当者(Hさん、多分PMの上司)にもccが入っていたのがよかったようです。
一連のやり取りを見ていたHさんが、ミニマムチャージを支払うことを決定したとメールで返信してくれ、そこには PO が添付してありました。(プラットフォーム上にも登録を確認できたので、次の支払日に支払われることが確定です。)

よかった!!!!!

お金払ってもらってめでたしめでたし…ではありませんでした。
わたしは、「このくらい」は「無料で」やってもらっているという発言が見逃せませんでした。たぶん相手に悪気はないし(何も考えてないだけ)、受けた翻訳者も良かれと思ってやっているはず。でも、こちとら難解な日本語を仕事にしてんだぞ!?そして、”たかだか”数単語の英語を訳すために、血眼になって辞書や資料を探し、今までも膨大な時間をかけて勉強したり準備したりしてきて今の仕事に向かっているんだぞ!?という気持ちは治まりませんでした。

そして、メールしました(とても流せなかった)。
そして書いたのは次のようなことです。これを理解してくれないなら、一緒に仕事をしていくのは難しいと感じましたし、これで仕事がこなくなるようであれば、そこまでだろうと覚悟の上です。
ただし、トーンはあくまで冷静に、「こちらはこう感じた、こう考えている、次からはこうしてほしい」という書き方です。

  • 無料で他の翻訳者に依頼していると知って、翻訳の仕事の価値を評価してもらえていないと感じた。

  • フリーランス翻訳者の仕事はフリー(無料)ではない。

  • これで生活している。どんな小さな仕事に対しても適切に支払いを行ってほしい。

  • どれだけ単語の数が少なくても、仕事の手順の数は変わらない。

  • 他の文章との単語の統一性がとれなくなるから、単語の数に関わらずCATツールを通して仕事させてほしい。

  • 日本語は英語から最も遠い言語の一つ。単純に言葉の置き換えができる言語ではない → もちろん日本語だけではないですが

この内容については、PMは謝ってくれました。翻訳者やその仕事を評価していないつもりではなかったし、言ってもらってよかった、今後は量に関わらずPO発行してCATツールを通して依頼する、と合意してくれたようです。

そして、先日また仕事の依頼がありました。いつも通りの文面に、少しだけホッとしましたが、これまでの仕事をしていた環境(例えば企業や団体など)では、多くの場合、いち従業員であったわたしが我慢することで仕事が進んでいくことも多かったことにも改めて気づきました。(それが多すぎて…以下略)

フリーランスや個人事業主であれば、自分で身を守る(お財布も)術が必要になりますが、自分の意見や考えを伝えることで仕事がより良くなっていく場面も多くあります。これからも、口を出す翻訳者としてやっていきます!



*ミニマム チャージ:Minimum charge、minimum fee、最低料金などといい、案件1件につき最低これだけはいただきますよという金額のこと。
例えば、ミニマム チャージを5000円に設定しておくと、実際は1件分として単独で3000円分の仕事が来た場合でも5000円が支払われる。固定額のこともあれば、時間給の場合もある。


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