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『変わらない店 僕らが尊敬する昭和 東京編』井川直子

心にずしっとくる言葉が多くて、もう一度ふせんを貼りながらさらっと読もうと思ったら、用意していたふせんがなくなるほどだった。この本は若手料理人が敬愛する昭和の店を紹介する本。紹介されている昭和の店で行ったことがあるのは、渋谷の名曲喫茶ライオンと四ツ谷の支那そば屋 こうや。タピオカミルクとかインスタ映えのようなファッショナブルさはないけれど、絶対に決まった味と雰囲気があって、期待を裏切らないお店。私はメンタルにダメージを食らったときに美味しいものを食べて、いい接客を受けて復活しようと思うのだけれど、うっかりおいしくなかったり対応が今一つだったりすると追い打ちをくらってしまう。でもこういう昭和の店なら大丈夫、裏切ったりしない。 

洋菓子にパイナップルやミカンの缶詰を使っていた時代に、本場フランスで修行をした人。フランスで使っているおろし金が手に入らないから角砂糖の角で削った、そのお砂糖でレモンクリームを作った・・・なんていう話もあれば、親の焼き肉屋を継いだ。まずいものを出したら、近所で恥ずかしいという人。先代と同じ味を出したら「腕が落ちた」と言われるから2割増しにおいしくしなければ、とも。若い人に技を公開して、抜かされるなら自分はそれだけの腕前だという人。

毎日毎日お店を隅々まで掃除して、人の口に入るものを自分の手で作り続ける人。雨の日も晴れの日も、景気がいいときも悪いときも。自分の体調や機嫌が良い時も悪い時も、積み重ねてより良いものを生み出そうとしている人たちの、言葉の重さ。

私は一人暮らしで、人に料理を作ることに慣れていないし、自信もない。人にご飯を出すときは「おいしいかな?おなか壊したりしないかな?」と心配になる。「家族にご飯を食べさせるお母さん・お父さん」もそうだけれど、そんな小さなことを気にしないで、誰かにご飯を食べさせている人を本当にすごいなと思う。

ちなみにこの本は、Iターンしてお菓子屋さんを始めようとしている友人が勧めてくれた。この本を勧めてくる彼女はきっと素敵なお店を作る。

97 変わらない店


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