見出し画像

『注文の多い注文書』小川洋子 クラフト・エヴィング商會

ええ、この本には見たことのない異国のチケットが挟まっていたのですよ。英語ではないようなのですが、$700と書いてあって。米ドルだとしたら日本円でおよそ7万円でしょう?7万円も出して一体どこに入るのかしら?・・・と書き出したくなるようなあるチケットが挟まっていたのだけど、それはまた後で。

『クラフト・エヴィング商會』は不思議なお店。なんでもあって、ないものだってあるらしい。そこには本にまつわる、普通の店では見つからない依頼とともにクライアントが訪れる。例えば、川端康成の絶筆『たんぽぽ』にちなむ「人体欠視症治療薬」、サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』からは「バナナフィッシュの耳石」。クラフト・エヴィング商會は世界中から依頼品を手に入れる。

クライアントによる依頼エピソード「注文書」と後日談「受領書」は小川洋子さんが執筆。入手エピソードと作品作成(人体欠視症治療薬の実物パッケージが写真で見られるんですよ!)からなる「納品書」はクラフト・エヴィング商會(二人組のデザイナー・著作家)が担当。クライアントとエージェント(といいましょうか)の不思議なやりとり。ほの暗くって、ほこりっぽくて、よくわからないものが出てくる、そして無事出てこれるかわからなそうなクラフト・エヴィング商會、ちょっと足を踏み入れてみたい。

さて、最初に触れたチケットの話をさせてください。図書館で吸い寄せられたこの本。背表紙には『注文の多い料理店』ではなく、『注文の多い注文書』。本棚から取り出して見る表紙は蠱惑的。実は以前にも見たことがある気がするけれど、内容が思い出せないので借りてみた。1話目の「人体欠視症治療薬」のエピソードは「やっぱり読んだことある」と思ってめくった2話目のところにそのチケットが挟まっていた。写真のこちら。英語ではないようだが通貨はドル?一体どういうこと?"Parque Nacional Iguazú"、Parqueは確かスペイン語で「公園」だったはず。(かつて日西ハーフのかわいい男の子から聞いたことがあります。) NacionalはNationalでしょうから国立公園。Iguazúはちょっとわからないので、ここでGoogle検索を。イグアスの滝で有名なアルゼンチンのイグアス国立公園のチケットでした。地球の反対側のアルゼンチンのチケットが東京に。アルゼンチンの大自然に囲まれた人の持ち物が、この不思議な本に挟まれて私のもとに。私も本のしおりとして、展覧会のチケットなんかを挟むけれど、これまでに二度、司書さんから呼び止められて返却されたことがある。もしかしたらイグアス国立公園のチケットを残してくれたのは司書さんの粋な気遣いもあったんじゃないかなあと。うれしい。

99 注文の多い注文書


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?