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相変異体という、羽の生えた存在について

アブラムシは数が増えると羽が生えて別の植物に移動する
これは相変異と呼ばれる現象の1つだ。

相変異とは、
動物や昆虫は、生活条件の変化に応じて姿かたちを変化させる事。
例えば、条件が悪いと体が小さくなるなどがわかりやすいと思う。

この相変異という現象は、時に昆虫において質的に大きな変化を生む
質的に大きな変化とは、前に上げた羽が生えるなどである

昆虫では個体群密度と相変異は大きく関りを持つ
1つの植物にて量的に多くなってしまったアブラムシが、
羽をはやして別の植物へ飛翔して移動するという点を考えれば、
個体群密度の上昇により相異体が出現する事は、生物の生存上 理にかなっている。

この相変異において有名な話はバッタやイナゴの大量発生だろう。
通常長距離移動に適した羽を持たないイナゴだが、
個体群密度が上昇して過密状態に置かれる事で
長距離移動が可能な羽をもつ個体が徐々に増えていく。

相変異の中でもこのように同種の個体に形態的な差が生じる事を
多型現象と呼び、中でも羽が生える変化の事を翅多型(はねたけい)と呼ぶ。

個体群密度翅多型が密接に関わっていることから、
翅多型は生物群の分散化システムだという事が予想される。
すなわち、定着して増殖する群と新しい生息地を探す冒険者群だ。

ここで疑問に思うのが、なぜ短期間で個体数を爆発的に増やす事が可能なのかという点だが、アブラムシの大量発生にはさらに興味深い相変異体が存在する。
それが単為生殖個体、つまりクローン出産個体の出現だ。
通常雌雄の交配によって子孫を残す場合、減数分裂により染色体数が半分になる。
この半分になった染色体数を交配相手の染色体で補い、次世代の個体が発生する。
しかしアブラムシは、通常は雌雄の交配によって産卵するが、特定の条件下においてはメスの遺伝子を100%受け継いだクローンの出産を行う。
この事により、交尾や受精、オスと出会うための時間と労力が不要となり個体数を爆発的に増加させる事ができるのだ。

加えて、メスがクローンベイビーを身ごもった時、まだ出産前の雌の体内にいる子供世代のクローンは、既にお腹の中にさらに次の世代を身ごもっている。
お母さんのお腹の中に、子供を身ごもった赤ちゃんが入っているのだ。
これでは交尾や受精を必要とする個体では太刀打ちできないスピードで繁殖する。
この繁殖スピードと、翅多型による冒険者群の出現が、個体としては極めて弱いアブラムシが大量に存在する背景だ。

このように昆虫では顕著な相変異だが、動物においても存在する。
身体構造が複雑化した哺乳類では、さすがに羽が生えるとまではいかないが
個体群密度が上昇した場合、相変異体が出現する可能性は否定できない。

今サピエンス種が地球上にかつてない程反映し、個体群密度が急上昇している。乱暴な考えだが、サピエンス種の相変異体が誕生してもおかしくないのではないだろうか。

個体群密度の上昇により出現した冒険者グループは挑戦者精神が強いだけでなく、集団内で共食いをするなど気性が荒くなるといった特徴を持つらしい。

この100年、南極や深海、宇宙へと飛び立とうと挑戦し続ける一方、戦争から社内政治まで、大小さまざまな闘争が存在する世の中を、アブラムシの大量発生した植物に見てしまうのは私だけだろうか。


【参考文献】
Genome Sequence of the Pea Aphid : the Overview and the Future Direction of Aphid Biology
https://ci.nii.ac.jp/naid/40019191800


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