⑫札幌のお笑い市場の現状と課題【5.3.5 今後の札幌と自身の活動について】

5.3.5 今後の札幌と自身の活動について

 最後に札幌お笑い界の今後や自身の活動について尋ねた。
 札幌も自身の出身地でありお笑い文化が発展している福岡のようになって欲しいかは微妙であるという。理由を尋ねると、札幌と福岡では「種類が違う」のだという。当時福岡が博多華丸・大吉の力によってお笑いブームという名の“爆発”が起きたような時代とは違い、今はそのような爆発が起きにくくなっているのである。現代はYouTubeやSNSなど視聴者に向けて発信できる媒体が増えきており、テレビだけの時代ではない。そのため、過去に福岡で起きたような爆発は起きにくくなっているだろうとのことである。一方で、今里氏は「俺たちが華大さんみたいに昼の3時間やれよって言われたらなにか起きるかもしれない」「なにも起きないかもしれない」とも述べていた。ただ、どちらにせよ北海道という地の大きさは障壁になるだろう。物理的な広さゆえに人気やブームも爆発的には広がりにくいのである。

 札幌芸人の今後を考えるにあたって、先述した札幌の問題点に加えて札幌の芸人に足りないものを尋ねると今里氏は「すべて」だと述べた。具体的には「必死さ」や「ポテンシャル」などが挙げられた。また、他の芸人については「単純につまらない」という。そもそも圧倒的に面白ければ周囲の者は皆食いついてくるだろう考え方があるようだ。ただ、この面白さの定義については先述の通り、やはり「刺さるもの」を基準にしているという。
 これらの問題点を今後解消していくすべとして、今里氏は「もう才能のある者が出てくるしかない」と答えた。また、地方で有名になる人は「社長的なマインド」が必要であり、「自己プロデュース」をしていくべきだと語った。ネタやトークだけではなく、自分自身をどう売り込むかが要であるという。テレビ局が作っているものに関して正直何が面白いのかがわからないものもあるというが、自身を売り込むためには関係者などに直接会っていくしかないのではないかと述べた。

 常設の劇場に関しての所見を尋ねると、あったほうがいいが現状では経営が難しいと思うとのこと。現状の集客のままではとにかく客が少ないため経営が成り立たないのだ。
 また、今里氏は北海道ならではの「雪」についても言及した。冬場は外に出るのが億劫でなかなかライブに来たがらないのではないかというのだ。そこで、今里氏はライブを生配信で代用するのはどうだろうかと考えているという。その場合は有料配信ではなく、無料での配信にすることで一旦窓口を広げ、どれぐらいの新規客が興味を示してくれるのかを試したいのだという。しかし、同時に知らない人に知ってもらうことの難しさも語っていた。いくらライブや配信を行ったところで客側に興味がなければすべてスルーされてしまう。その中で、新規客にどのように最初の一歩を踏ませるかが問題だという。特に現代はYouTubeがあるためそちらに興味を持っていかれる。YouTubeは自分を売り込むためのツールでもあるが、一方でライバルとしての脅威でもあるようだ。また、同時に客はテレビなどで火がつけば自然に増えていくだろうとも答えた。今里氏は「何かで火がつけと思っている」と述べた。
 そのような状況下でセンチメンタルも2020年にコンビとしてのYouTubeの公式チャンネルを開設している。今里氏曰く、始めた理由は「名刺代わり」だという。つまり、YouTubeの力を使って新規客への認知を狙っているわけではないのだ。彼自身には「全世代に認知されたい」「全メディアに首を突っ込みたい」という思いがあり、そこで一番が取れたら本当の一番。すべてにおいての一番を目指しているのだという。

 ここからはセンチメンタル2人の活動について着目する。
 まずは、出演した番組について尋ねた。
 これまで、細かなテレビ出演はいくつかあるものの、彼らが持つレギュラー番組というと週1回放送されているラジオ番組の『コメディアン・ラプソディ』(STVラジオ)が挙げられる。センチメンタルはこの番組内で、同じく太田プロ札幌所属の「36号線」とともに週替りでのパーソナリティを務めている。この番組に関して今里氏に感じていることを尋ねると出演が決まったときは嬉しかったものの、放送開始から約1年半が過ぎた今でも不安のほうが大きいのだという。もともとラジオっ子である相方に対してあまりラジオを聞かないという今里氏は常にこれでいいのかわからずフワフワとした心境であるという。また、今後の目標としては、現在は隔週で担当を行っているラジオを単独でも行えるようになりたいと述べていた。
 一方、相方の伊藤氏は2018年4月頃には夕方のワイドショーである『どさんこワイド』(STV)の1コーナー『どんどんめぐり旅』が、2019年4月頃にはラジオ番組の『ごきげんようじ』(STVラジオ)などへの参加が決定し、レギュラーとして出演していた 。相方だけ立て続けに番組出演が決まったことに関しての率直な感想を尋ねたが、あまり悔しいという思いはなかったという。むしろ札幌行きの背中を押し、相方をここまで連れてきた身として「いいことがあってよかった」という気持ちだったという。

 すでに述べた通り、そもそもセンチメンタルの2人が札幌に来ることになった原因は外因的要因によるものである。今里氏が表現した通り、現在の札幌は「お笑い発展途上国」である。当初は東京というチャンスに恵まれた環境で活動していたところが一変して不利な環境に置かれることになったのは間違いない。今後の活動を考えると正直東京に居たほうが良かったと思っているのではないだろうか。このことについて率直な意見を尋ねると、今里氏は「(そもそも)そういう考え方ではない」と返答した。「自分が頑張ればどこでもうまくいく。(環境は)多少の関係はあるとは思うが、それを乗り越えるぐらい努力をすればいい」のだという。
 一方で今里氏は札幌で活動する他の芸人を見て、「ほとんど環境のせいにしている」「下火だからしょうがないっていう空気すらないかもしれない」と感じているのだという。しかし、このように述べていく中でも“一部の頑張っている者”としていくつかの芸人の名前が挙がった。今里氏曰く、「芽が出る人と出ない人はこれから差が出てくるのではないか」とのことである。
 将来的な目標としては「2人でテレビとラジオの番組を持つこと」だという。相方は「テレビに出たい人」であるというが、今里氏は「俺はなんでもいい」と答えた。とにかく「作る人になりたい」という思いがあるのだそうだ。実際に今里氏は得意の絵をSNSで披露したり、ギターを使った演奏をネタやラジオで使用したりと多彩な才能を発揮している。そのような自身の能力を使って今後は音楽や絵、映像に至るまでさまざま事柄に挑戦してみたいのだという。そして、その終点としてすべての活動が「お笑い」にたどり着けばいいのだと述べた。先述した田井氏のインタビュー内では「現代の芸人はいわゆる“横道に逸れる”ことを恐れる場合が多い」という意見も挙がっていた。そこで今里氏本人に率直にネタ以外のことに手を出すことへの抵抗感を尋ねると、即座に「ない」「(逆に)全部できるのは芸人しかいない」という返答が返ってきた。彼にとってこれらのような活動は“横道に逸れる”ではなく、むしろ“さまざまなことができる芸人らしいもの”であると認識しているようだ。

 最後に、今現時点で計画していることを尋ねた。現在は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で表立った活動が満足にできないため、YouTubeやネタのレベル上げからしていきたいとのこと。実際、現在行っているYouTubeでは一部の動画の編集も任されているという。2020年11月現在彼らのYouTubeには動画が毎日投稿されている(2020年12月7日からは週に2回、2021年1月からは週1回投稿に改定(73))ため、それに間に合わせるためには相当大変な日々を送っているのではないかと尋ねたところ、「(大変だが)でも楽しい」「作るの好きだから。いろいろやりたい。24時間じゃ足りない」という返答が返ってきた。

(73) Twitter「センチメンタル 伊藤祐輔(@yusukeit)」、2020年12月7日、https://twitter.com/yusukeit/status/1335888656687456257?s=20(2020年12月12日閲覧)。

 また、今里氏は演劇への参加意欲も見せた。ただし、条件は終着点がお笑いであることであり、コメディ要素は必須であるという。中でも他者の書いた脚本に沿うのは少々苦手であるため、「アドリブでこの時間になにかやれ」というような形式のほうがまだなにかできそうだとのことである。役者など他の畑の者たちが自身のフィールドに土足で来るのならば、逆に自分も土足で踏み込んでしまおうと考えているようだ。
大切なのは「芸人どうこうではなく生き方」だという。今里氏はこれからの活動方針として、「肩書はどうでもいい。いろいろやっていきたい」という言葉を残した。
 今里氏にもインタビューの終盤に先述した大学生のアンケート結果を見てもらったところ、彼の口から出てきたのは「驚いたというより『だろうな』を再確認した」という言葉だった。
 また、彼も横澤氏と同じくライブの価格を考えるのは難しいと考えていることがわかった。通常お笑いライブのチケット代は1,000円程度だが、単独ライブとなると2,500円ぐらい取りたいと思っているのだという。理由としては単純にライブを開催するためのコストがかかっているというのもあるが、なにより客には自分たち“だけ”のライブを見に来ているという点に強い価値観を感じてほしいのだという。
 今里氏は最後に「現状が変わればいいとは思うけど束にならないと無理だろう」「文化を変えるより自分たちが有名になればいい」「NACSが売れたからって演劇界が潤ったかと言えばそうではないから」といった、これまでのインタビューを総括するような言葉を残した。

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