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【食エッセイ】4人で貸切になる国分寺の名店イタリアン「BuOno!(ボーノ)」

 先日、私の誕生日祝いで前々から行きたかったお店に行ってきた。国分寺にあるイタリアン「BuOno!(ボーノ)」だ。ずーっと気になっていて、やっと伺うことができた。

 路面店のこちらはガラス張りで、スモークがかかっているとはいえ外から店内がよく見える。スタッフはオーナーと思われる一人のみで、来客もいつも少人数。「ここ、本当に儲かっているのかな?」と余計なお世話を抱いていた。それと同時に、少人数でも成り立つイタリアンとはよっぽど腕に自信があり、お値段もお高いのではと思い、勝手に敷居が高いイメージを持っていた。これまた勝手なイメージで、顔はよく見えないが白髪でシュッとしたオーナーをツンケンした人だと思っていた。

 誕生日の1ヵ月ほど前、どこで食べようかと彼と話しているときに同店の名をあげた。彼も気になっていたのですぐさま決まり、彼に予約を取ってもらった。

 満を持して迎えたディナー当日。入店すると、そこには穏やかな表情のオーナーがいた。「あれ、こんな柔らかい感じの人なんだ」と驚く。彼が予約を取ってきた日、「あのオーナー、めちゃいい人だったよ。楽しくおしゃべりできそう」と言っていて意外だったが、確かに人の良さが滲み出ていた。

 私の経験上、イタリアンのちゃんとしたコース料理は少ないように思う。私の中でコース料理といえばフレンチ、和食、中華。飲み放題とかパーティーコースとは違うワンランク上のイタリアンコースはこれまで一回のみ。そんなちょっと格が高いイタリアンのコースを食べられるのは、イタリアン好きとしては胸が高鳴る。

 気になるコースはイタリアの水牛モッツァレラの前菜から始まった。

 このモッツァレアが甘み・旨みが凝縮されていて、一口食べて選りすぐりのものと感じた。ドライトマトとの相性も抜群。乾杯のスパークリングがすすむすすむ。

 次に出てきたアスパラガスの卵かけはトリュフを添えて。このトリュフが素晴らしく、まだ削っていないのに瓶の蓋を開けただけで香りが辺りに漂う。芳醇な香りに酔いしれていると、火を通す前のアスパラガスを出してくれた(写真上)。シャキッとしつつも柔らかく、甘みもある。そんなアスパラガスに火を入れると優しい柔らかさになって、噛むとジュワッと甘みが広がる。トロトロの卵とトリュフとの素晴らしき三重奏にこれまた酔いしれた。

 続いて出てきたのは、私の大好物のホタルイカと菜の花のパスタ。スミの苦味が菜の花とよく合い、噛めば噛むほど旨みが広がる。パスタは自家製麺。もちもちの平面で噛むほどにホタルイカの旨みと絡み合って美味美味。

 ナスの甘味が口に広がるカポナータ。一口食べると「え、ラタトゥイユ?」と思った。調べてみると、ラタトゥイユはフレンチ、カポナータはイタリアンとのこと。大きな違いは作り方にある。前者は一気に全食材を炒め煮するが、後者は食材を一つずつ加えながら炒める。だからなのか、ナスの甘味がこれまで食べたトマト煮と比べてしっかり溢れ出ていた。

 フォアグラはパプリカソースを添えて。お恥ずかしながら、フォアグラはイタリアンでも出ることを初めて知った。トロッと柔らかいフォアグラと想像以上に甘味があるパプリカソースは相性抜群。味はもちろんだが、見た目の美しさにうっとりする。

 こちらもオーナーお手製のパスタ。キノコとクリームとパスタが織りなすコクのある味。美味しくないわけがない。噛みごたえもあり、一口噛みしめるごとに旨みが広がり満腹中枢も刺激される。前述したホタルイカのパスタも美味しくて、本来の私ならそれぞれもう一回食べられた。いや、食べたかった。

 ちなみにオーナーによると、修行先のイタリア人シェフに「パスタは個性が出る。お店をするなら手作りでないと」と言われ、お手製を貫いているらしい。もちろん乾麺も旨いがそれは当たり前で、お店の個性でありウリになるのがパスタだから作るべき、と教わったとのこと。今目の前にあるパスタにそのような背景があると知ると美味しさが百倍になった。

 大好きな鹿のジビエも食した。絶妙な弾力、レア加減。見た目も美しくて、こんなにアーティスティックな姿になったなら鹿も天国で満足しているだろう。まさか、この国分寺で鹿を味わえるとは思わなかった。私にとって鹿は前々から特別なときに食べるもの。30代ラストイヤー最初のディナーで味わえるとは至福も至福だ。

 最後にサプライズで素敵なプレートを出してくださった。デザートは、確かクリームチーズとショコラだったような…このときすでに酔い心地の上機嫌だったのでなんだったのか忘れた。しかし、美味しくてあっという間にペロリした。

 この日は19時に入店し、閉店する23時までいた。おひとりでやっていることに加え、もう一組いらっしゃったこともあり、料理が出るのはスローペースだ。「うちはゆっくりなので、ゆっくりでも大丈夫な人が来てくださるんです」と優しくオーナーは語る。そりゃそうですよねと彼と頷く。目の前で丁寧に作りながら、時折優しく食材やお酒のアレコレを話してくれるのだから、そんなにパッパと出るわけがない。ついでに言うと、こちらのワインは全てイタリアワイン。品揃えもたくさんあり、ワイン好きも間違いなく楽しめるはずだ。

 このゆるりとした時間の流れも心地よいと感じる人がリピーターになっているようで、「皆さん良い人ばかりなんですよ」とオーナーは微笑む。そりゃそうですよ、だってオーナー素敵だもん! 私は元来せっかちだが、オーナーの人柄が素敵すぎて、スローペースでも全く苦ではなかった。待つ間に彼とじっくり話せるしお酒も進むし、文句を言うところがない。

 このような切り盛りによって、当日来店・予約を含め店内に4人いたらもうお断りするそうだ。実際にこの日も新たな人はお断りしていた。本当に料理が好きで、楽しんで作っていて、大切にこのお店を営んでいるのが伝わってきた。良い意味で商売っ気を感じなかった。

 祝われた身の私が言うのもいやらしいが、この麗しいコースで価格はなんと1万円(飲み物は別)。都心に行ったらどんなに安くても1.5万円、一般的に考えれば2万円だろう。しかも、このコースが一番お高い。どこまで人の良い方なのかと彼と驚く。

 アラカルトがあるのでコース以外でも入店可能とのこと。実際に一人でサクッと飲みに来る方も多いらしい。我が家から近いので一人で飲みたいときはまた伺おうと心に誓った。

 こちらで過ごすときは時間に余裕があり、ゆったりした気持ちで行くことが鉄則。行ってみたい方はこれを必ず守ってほしい。心の余裕と余白の時間を存分に感じられるのもこちらの魅力だ。

BuOno!
042-329-5560
東京都国分寺市本町2-3-9
https://tabelog.com/tokyo/A1325/A132502/13209668/

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