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海外の日本食レストランはどこまでおいしくなるか

The Global Japanese Restaurant:
Mobilities, Imaginaries, and Politics

「世界の日本食レストラン」
Edited by James Farrer and David L. Wank
May 2023 (University of Hawai'i Press)

海外滞在中、現地の日本食レストランに行ったことのある人は多いのだろうか。

私の場合は、ウン十年前、ロンドンでホームステイしているとき、丼もののテイクアウト(イギリスではテイクアウェイね)をしている店に行ったことがある。

その当時も、スーパーなどで巻物の寿司は売られていたが、買って食べた日本人に聞くと「イマイチ」とのことだったので、買うことはなかった。
その丼ものの店は、「まあまあ」という評価で、じゃあ行ってみようかということになった。

なにを頼んだのかよく覚えていないが、店の人に「チリソース入れる?」ときかれて、驚いたのはおぼえている。見ると東南アジア系のエスニックな料理によく使われるような、赤くてちょっとドロっとした液体だった。

でもそこで「No thank you(けっこうです)」と言っていたのは、私と、いっしょに来ていた日本人の友人2人だけで、ほかの人たちはほとんどがチリソースを入れていたのが印象的だった。

味はそんなにまずくはなかった、と思う。あまり自信がないのは、久しぶりに日本食を食べたので、それだけで評価があがっていた可能性があるから。

それが証拠に、日本に帰ってきた直後は、なにを食べてもおいしかった。コンビニのざるそばですらおいしくて感動した。帰国後わりとすぐに、友人に呼ばれて和食のおいしい居酒屋に行き、ほたるいかの沖漬けを食べて、あまりのおいしさに「なにこれ?う、うまいー」と言って感動のあまり嗚咽してしまい、友人に笑われた。

それはさておき、ロンドンで丼ものを食べてから数年後、ハワイに行ったときは、うどん屋に入った。ハワイ初日の夜だった。日本を発つときから胃の調子がよくなくて、ハワイについてもいまひとつだったので、和食の店を見つけたのをこれ幸いと、うどんをすすることにした。

まあね。出汁(だし)がきいてないのはなんとなく覚悟していた。でも、うどんのコシはあっておいしかったので、それなりに食べられた。

その10年後ぐらいに、今度はフランクフルトでうどんを食べた。社会人になってけっこう経つのに、それが初めての海外出張だったのだ。いい年をして緊張しすぎて、胃がまったく食べものを受けつけない。2日ぐらいはほぼほぼ絶食状態。3日目の夜は、接待のために和食レストランを予約して、取引先を招待する。申し訳ないが、私は昼間のミーティングをこなすので気力体力を使い果たし、接待のときはまったくの役立たず。いっしょに行った上司にすべてお任せである。情けないけど末席で特別につくってもらったうどんを悲しい気持ちですすっていた。しかし。このうどんは記憶に残るぐらいイマイチだった。もちろん出汁はきいてない。しょうゆをお湯でうすめただけ。そのしょうゆもそんなに新しくないやつだ。そして塩からい。うどんはコシがない。ネギも何も入っていない。こんなに素材で勝負しちゃいけないうどんなら、せめてごまかしのために何か入っててほしかった。
食べものを残すのはきらいなのに、そのうどんは全部食べられなかった。

それから何年たっただろう。再びロンドンに行ったとき。同僚からWasabiという寿司のテイクアウトがあると事前に聞いていたので、買ってみた。
おおっ!! けっこうイケる。というか、日本のちょっといいスーパーとかで売ってる寿司ぐらいのクオリティーはある。いったいいつの間にこれだけうまくなったんだ?!

というわけで、私の貧弱な海外日本食体験ではよくわからないかもしれないが、それでもここ10年ぐらいは、かくじつにクオリティーがあがっている。

そこで本書である。

この本によると、いまや日本食レストランは世界中で12万軒もある。まさにグローバルである。それというのも、日本人を含めさまざまな人種の移民たちが起業家、労働者、あるいは資金源となって、国境を越えて活発に移動するようになったからだ。わかりやすく言うと、ヒト、モノ、カネがグローバルに行き来するようになったということだ。

6大陸の、現地語で書かれた一次資料を豊富に参照している本書は、まずは20世紀前半の日本人移民の物語に焦点をあてている。その後、日本人以外の外国人経営者、シェフが、日本食レストランをどのように世界に広げていったかを紹介している。

おもしろいのは、日本食レストラン拡大の要因を探るのに西洋ではなく、アジアの近隣諸国に注目した点である。日本は、第二次世界大戦でアジアの近隣諸国を侵略したという重い過去がある。それでも、日本食レストランが拡大するときに、アジア諸国の人たちが力になったのだとしたら、ソフトパワーの好例といってもいいのではではないか。

フィールドワークとアーカイブ研究の融合した本書は、学術書だけど料理やレストランが題材なだけに、読み物としてもおもしろそう。

会社の経営が思わしくなくて、ここ何年も海外出張には連れていってもらえていない。そこにコロナ禍。そして今は航空運賃の高騰と円安である。海外は遠くになりにけり、だ。
でも、次に海外に行くことになったら、日本食レストランに行ってみたい。どれだけ進化しているか、今からたのしみだ。

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