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折々の絵はがき(43)

◆絵はがき〈婦人風俗十二ヶ月 雛祭〉勝川春章◆

勝川春章 1781-1801年 千葉市美術館蔵

 遠くから聞こえてくる話し声。耳をすませば、おや?なんだか楽しそうだぞ。この絵の作者、勝川春章がそんなことを思いながら、足をしのばせ、声のする方へ近づく姿が思い浮かびました。手を止めず、口も動かす女性たちを盗み見ながら、春章はきっと口元をほころばせていただろうなとつい想像がふくらみます。衝立の向こうでは女性が三人、ひな祭りの準備をしています。何枚も重ねた薄葉紙や桐箱をそっと開けば、姿を現すのは一年間静かに眠っていた美しい人形や道具の数々。毎年こうして手に取る品々はまるで久しぶりに会う友人のようで、たとえそれが自分のものではなくとも彼女らの心を和ませてくれたでしょう。一つ飾るたび、部屋は少しずつ春めいていきます。暦の行事の楽しみは、当日はもとよりこうした準備にこそあるのかもしれません。

 勝川春章は江戸中期の浮世絵師で、勝川派の租として知られています。葛飾北斎の師であった彼は、人気の歌舞伎役者や力士たちを「似顔絵」を用いた写実的な作風で描き、一世を風靡しました。晩年には肉筆画に専念し、緻密な美人画を数多く残しています。

 この「婦人風俗十二ヶ月図」のほか、月々の風俗を扱った「婦女風俗十二ヶ月図」も描いた春章。いずれの作品からも感じられるのは、暮らしの中で女性たちの立ち居振る舞いをそっと見つめ続けた彼の視線です。その彼のとなりに並ぶような気持ちで眺めてみれば、仕事に精を出しつつ、楽しむことや気を抜くことも忘れない彼女たちの姿が今の私たちと重なり合い、時代も時間も飛び越えた先にいる仲間のように見えてくるのです。

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