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「ウェルビーイングな学校をつくるーー子どもが毎日行きたい、先生が働きたいと思える学校へ」

 令和5年度からの教育振興基本計画で、柱の1つとなっている「ウェルビーイング」。その実現に向けた方法はさまざまです。本書は、著者の中島晴美先生が「ウェルビーイング」の考えを取り入れ、勤務校の全ての教職員の理解のもと、一丸となって実践されてきた学校づくりの記録です。

 本書「はじめに」より、ウェルビーイングな学校づくりに込められた思い、そしてその実践による子どもたち・先生たちの変化の一端をご紹介します。


なぜ、「ウェルビーイングの考え方」を取り入れたのか?

 私がウェルビーイングの考え方を学校経営に取り入れたいと考えたのは、次のような思いからです。

  1. 先生方に幸せでいてほしい(幸せに働いてほしい。幸せな人生を築いていってほしい)。

  2. 子どもたちに幸せでいてほしい。幸せに生きる力を身につけて育ってほしい。

  3. 学校が、幸せで笑顔いっぱいで、誰もが安心して学び、自分の力を伸び伸びと発揮することができる場所であってほしい(教職員も子どもたちも)。

  4. 学校のウェルビーイングを実現することで、学校現場が抱えるさまざまな課題を少しでも改善の方向へ導きたい。教職の本当の魅力を再現したい。

  5. 保護者、地域へもウェルビーイングの考えが広がり、多くの人が人として幸せな人生を歩んでほしい。

待っているだけでなく、現場だからこそできることをまず実行する

 今、教育現場は、多様な課題を抱えています。教職員の離職・病気休職者の増加、人員不足の深刻化、そして貧困、虐待、ヤングケアラーの問題等、子どもたちを取り巻く環境も厳しくなっています。このような大変な状況の中で、学校では、教職員も子どもたちも頑張っています。今までと同じようにずっと頑張っているのです。

 このまま頑張り続けることは可能でしょうか? このままでは、何も変わらず、抱えている課題が大きく膨らみ、明るい未来は見えないのではないかと危機感を覚えます。「変えなければ!」と強く思うのです。

 教職員の定数を増やすことや教員の仕事内容の見直し、学校運営に必要な予算の確保等、行政の動きや物理的な改善はもちろん必須です。それらについて心から早期の改善を望みます。しかし、他者の動きだけにすべてを委ね待っているのではなく、この危機を乗り越えるために、現場にいる私たちだからこそできることを実行していく必要があります。ウェルビーイングに向かいポジティブな発想と行動をしていくこと、その小さな一歩が積み重なり大きな一歩となるはずです。

「ウェルビーイングに関する学術的な知見」を共有することから

 私は、かねてより自身で学んできた「ウェルビーイングに関する学術的な知見」を学校現場で共有し、実践していくことが、その第一歩であることを確信し踏み出しました。

 「ウェルビーイング」とは「よいあり方」、そこから「持続的な幸せ」を意味します。「よりよいあり方をとおして幸せな状態である」ということです。「ウェルビーイングに関する学術的な知見」とは、さまざまな学問や科学的研究によるエビデンスが証明した「こうすればよりウェルビーイング(幸せ)になる」という知見です。

 「幸せ」には、瞬間的に感じられる幸福感もあります。また、今苦しいとしても「自分は正しく生きている」という確信に支えられている幸福感もあれば、長い人生を振り返って、「私の人生は総じて見れば幸せだった」と感じる幸福感もあります。この多様な幸福感につながる「Being=ありかた」の学びが、ウェルビーイングの学びです。

 この知見を、個人のウェルビーイングから組織(学校)さらには、保護者や地域のウェルビーイングへと広げることで、前述した5つの願いが実現されると考え、全教職員・学校運営協議会委員(保護者・地域・学識経験者からなるコミュニティ・スクールの核となる組織)との共通理解を図り、「ウェルビーイングな学校づくり」にチャレンジしています。

幸せな大人の姿を見て、幸せになる力をもった子どもが育つ

 私は管理職として、ウェルビーイングを体現し、学校全体と教職員一人一人のウェルビーイングを高める方法を思案・実行し、教職員は自身のウェルビーイングを高めるとともに、担当するクラスと子どもたち一人一人のウェルビーイングを高めることをめざしています。

 幸せな大人の姿(Being)を見て、幸せになる力をもった子どもが育ちます。まずは、教職員や保護者が幸せであることが、とても大切なのです。

取り組み開始から2年半での変化

 令和2年度からのチャレンジにより、勤務校ではさまざまなエビデンスが確認できてきました。
 詳細は本書終章で述べていますが、取り組み開始から約2年半で次のような効果が出ています。

・児童生活アンケートで「学校が楽しい」と回答した児童が98%
・県の学力・学習状況調査の結果、学力を伸ばした児童が増加
・児童の欠席率が劇的に改善
・教職員のウェルビーイングが向上
・2年連続で異動希望者ゼロ
・職員の健康診断結果が劇的に良化
・地域とのつながりが促進

 次期教育振興基本計画の策定に向けた議論のなかで、「ウェルビーイング」が柱のひとつとなりました。これからは、教育もウェルビーイングの実現をめざそうとしています。このことは、VUCAの時代を乗り越え、幸せな日本、世界を築き上げるために、人々の向かうべき道であることを示しています。

 そのような中で、今後、「日本型ウェルビーイング」の研究が広がっていくことと思います。本校の取り組みがその先駆けとなり、その考え方と実践を丁寧にお伝えすることで、未来をつくる子どもたち、学校に関わるすべての方々の真の「ウェルビーイング」へとつながることを願っています。

 本書を手にとってくださった皆様ご自身、そして所属されている組織(学校や職場、地域のコミュニティ、家庭等)のウェルビーイングが高まり、皆様が今まで以上に幸せな日々を過ごされることを願い、本校の実践の一部をお伝えしていきます。


【本書の目次】

はじめに

序章 なぜ学校にウェルビーイングの考えが必要なのか?──学術的な理論をもとに、「幸せ」な学校づくりを考える
●「SPIRE理論」「幸福4因子モデル」「心理的安全性」
(1) タル・ベン・シャハー博士のハピネススタディ/(2) 前野隆司教授の幸せの4因子/(3) 心理的安全性
●子どもたちのSPIREについて、教職員・保護者と共通理解を図る
●教員の現況をSPIREにあてはめて考えてみると
●現状を打開するための「ウェルビーイングな学校づくり」のビジョン
●ウェルビーイングな学校づくり12法則

1章 Whole-being ──総合的なウェルビーイング(持続可能な幸せ)
W1 SPIRE・幸福4因子・心理的安全性
(1) ウェルビーイングの共通理解を図る/(2) 学校キャラクター「ひらっきーのひみつ」/(3) 学校教育目標・学校経営方針・重点課題の策定方法の変更
W2 ウェルビーイング・リーダーシップ
(1) ダニエル・ゴールマンのリーダーシップ論/(2) トランスフォーメーショナル・リーダーシップ/(3) サーバント・リーダーシップ/(4) オーセンティック・リーダーシップ/(5) ファシリーダーシップ

2章 Spiritual Well-being ──精神性を高める
S1 自然と触れ合う環境づくり
(1) 自然の整備──立入禁止の森を「遊べる森」に変えるまで・日々の手入れ/(2) 自然を体験し、味わう/(3) 実りを味わう/(4) 自然を保護する
S2 強みと意義
(1) 学校自己評価をもとに、来年度の重点課題を教職員全員が自らとらえ、目標を立てる/(2) 重点課題と校務分掌をリンクさせ全員が参画できる場づくりをする/(3) 校長室だよりで教職員の強みを紹介する/(4) 自己評価シートを効果的に活用する

3章 Physical Well-being ──心身ともに健康である
P1 運動・睡眠・栄養をしっかりと
(1) 計画年休取得の推進(計画年休取得キャンペーン)/(2) 教職員の自主性を尊重する
P2 業務改善「微差は大差」──効率は丁寧さと柔軟性から
(1) 紙面カエル会議の実施/(2) 登校時刻の変更/(3) 動線の短縮/(4) 記載内容の精選による作業負荷軽減/(5) オンライン化による作業負荷軽減/(6) 整理による作業時間短縮/(7) 設備投資による作業負担軽減/(8) スクールサポートスタッフ(SSS)の効果的な活用/(9) 行事の見直し/(10) 平日計画年休キャンペーンの実施

4章 Intellectual Well-being ──好奇心をもって探求する
I1 好奇心を育む教育
(1) ICTの積極的活用・早期導入/(2) 学校課題研究への注力/(3) 先端・広範な教育情報の収集と提供/(4) 好奇心に働きかける外部講師の招聘
I2 積極性・主体性を重視
(1) 教室訪問と称賛/(2) 重点課題目標と校務分掌をリンクさせ、全員が参画できる場づくりをする/(3) 校長室だよりで個々の教職員の強みを紹介する/(4) 「見合い、高めあい」活動の実施/(5) スモールステップの提案と対話で主体性を引き出す

5章 Relational Well-being ──よい人間関係を保つ
R1 心理的安全性の高いチーム
(1) 「心理的安全性」についての共通理解/(2) 対話、積極的にチームメンバーの話を聞くR2 感謝とねぎらい(1) 日々の言葉がけ/(2) 感謝を伝える言葉を発することが当たり前になるように/(3) 学校関係者とのつながり

6章 Emotional Well-being ──豊かな感情を育む
E1 笑顔あふれる学校
(1) 豊かな体験活動/(2) 心理的安全性のある学校・学級づくり/(3) 学校だより・校長室だより/(4) EmmyWash(エミーウォッシュ)
E2 豊かな心の動きを育む
(1) 自然との触れ合い/(2) 道徳教育の充実/(3) 読書活動の推進

終章 「ウェルビーイングな学校づくり」の現在地とこれから
(1) 令和3、4年度の実績と現在地/(2) SPIREアンケート/(3) これからの取り組み

おわりに~私の願い【ウェルビーイングな学校づくり】を日本中に~

本書の刊行記念イベント「子どもたち・先生たちのウェルビーイングのために、今、できること」を教育開発研究所 公式You Tubeチャンネルからご覧いただけます。著者の中島晴美先生と、ゲストに妹尾昌俊さんをお迎えし、「ウェルビーイング」な学校をどう実現させていくか、語り合っていただきました。本書とあわせてぜひご覧ください↓

本書の詳細は小社オンラインショップから↓


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