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宝石箱

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#小説

この街を出て行くんだ。

「俺さ、卒業したら、この街を出て行くんだ」 いつもの放課後。いつもの暗くなった公園。 隣でブランコを漕ぐ優也が、前を見ながら言った。 「……何それ」 「何で?」とか「どうして?」ではなく、私の口から出てきた言葉はそれだった。 卒業したら、街を出て行く。 物語によくありがちな台詞に、現実味が湧かなかった。 「両親が、この街にいるのは危ないって。どんどん治安が悪くなってるから、最悪な事態が起きる前にって」 「何それ」 てっきり、夢とか何かがあって、それを叶える為に出

『青林檎』

僕が「青いね」っていうと 君も「ええ……青いわ、とても」っていう 僕は――「海」を見て 君は――「血」を見て そう言う 僕が「もう帰ろうか」っていうと 君も「ええ、還りましょう」っていう 僕はひと気のなくなった暗い浜辺で 君はただ、遠い空を眺めながら そう言う もう一緒には居られないのに…… ふいに潮騒が大きくなる ボートの底で仰向けに寝かされていた君が 永遠に黙り込んだ 最後まで僕を許しながら笑って けして許さなかった君 これで、おあいこだ 僕はコートのポケ

おしまいの夢

その夢の中で、僕はひとを殺した。 すっかり子供の姿になった僕は、おなじく子供の友達3人と暗いビルのなかで息を潜めていた。皆の手にはそれぞれ別の形の銃があり、僕はスナイパーライフルを持っていた。 だれをやろうか、なんてことを小声で話し合ったりしていた。先生に悪戯するような無邪気さだった。 クスクスと笑い声が響くなか、そっとスコープを覗きこむ。 ミニチュアになったような町のなかで、数人の大人が歩いているのが見えた。そのなかの一人に自然と照準を合わせていた。見たこともない人な