林檎

『青林檎』

僕が「青いね」っていうと
君も「ええ……青いわ、とても」っていう

僕は――「海」を見て
君は――「血」を見て
そう言う

僕が「もう帰ろうか」っていうと
君も「ええ、還りましょう」っていう

僕はひと気のなくなった暗い浜辺で
君はただ、遠い空を眺めながら
そう言う

もう一緒には居られないのに……

ふいに潮騒が大きくなる

ボートの底で仰向けに寝かされていた君が
永遠に黙り込んだ

最後まで僕を許しながら笑って
けして許さなかった君
これで、おあいこだ

僕はコートのポケットから林檎を取り出し、
一口だけ齧って
君と一緒に海に捨てた

どこか、赤子の泣き声に似た
耳の奥にざらざらとよく響く潮騒が、
一段と大きくなった

――あ。

君の血は――本当に青かったのか

長い黒髪に巻きつかれたまま波間を浮き沈みする
あざといくらい真っ赤だったあの林檎が
あちこちから流れ出た君の血に溶けて……
海みたいに真っ青だ

――赤
――黒
――夜
――海
――青、青、青……

……わかってる
本当は
ただ
ずっと
僕を絶対に愛さない、君と居たかった……

――月のない夜
潮騒が、ひとつ、遠くで跳ねた


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https://note.mu/momiji777/n/nec764c3aa8cc?magazine_key=m51cd524319f1


水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。