マガジンのカバー画像

宝石箱

18
開けたら消える
運営しているクリエイター

#短編小説

この街を出て行くんだ。

「俺さ、卒業したら、この街を出て行くんだ」 いつもの放課後。いつもの暗くなった公園。 隣でブランコを漕ぐ優也が、前を見ながら言った。 「……何それ」 「何で?」とか「どうして?」ではなく、私の口から出てきた言葉はそれだった。 卒業したら、街を出て行く。 物語によくありがちな台詞に、現実味が湧かなかった。 「両親が、この街にいるのは危ないって。どんどん治安が悪くなってるから、最悪な事態が起きる前にって」 「何それ」 てっきり、夢とか何かがあって、それを叶える為に出

『青林檎』

僕が「青いね」っていうと 君も「ええ……青いわ、とても」っていう 僕は――「海」を見て 君は――「血」を見て そう言う 僕が「もう帰ろうか」っていうと 君も「ええ、還りましょう」っていう 僕はひと気のなくなった暗い浜辺で 君はただ、遠い空を眺めながら そう言う もう一緒には居られないのに…… ふいに潮騒が大きくなる ボートの底で仰向けに寝かされていた君が 永遠に黙り込んだ 最後まで僕を許しながら笑って けして許さなかった君 これで、おあいこだ 僕はコートのポケ

おしまいの夢

その夢の中で、僕はひとを殺した。 すっかり子供の姿になった僕は、おなじく子供の友達3人と暗いビルのなかで息を潜めていた。皆の手にはそれぞれ別の形の銃があり、僕はスナイパーライフルを持っていた。 だれをやろうか、なんてことを小声で話し合ったりしていた。先生に悪戯するような無邪気さだった。 クスクスと笑い声が響くなか、そっとスコープを覗きこむ。 ミニチュアになったような町のなかで、数人の大人が歩いているのが見えた。そのなかの一人に自然と照準を合わせていた。見たこともない人な