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焦点、忘海。

目の前が拓けて、遠く海が見えた。

キラキラと海街の屋根が光る。

ああ、行くべき場所が見える。

道筋がわかる。

私は行ける。

遠くに行ける。

けれど、

瞬きをする度に焦点が少しずつ

近付いてやがて海の煌めきはぼやけ

見えていたはずの道も視界から消えて行くから

足を前に動かす力は喜びから焦燥感に変わり

数歩先もわからないのに進み続ける。

海は本当に在ったのかもうわからない

何処を歩いているのかもうわからない

足を出す先が空虚な砂漠かもしれない

私のレンズはブリージングを起こして

見たくない近隣の醜さを見る

いらない感情を吸着して歩く。

見たくないから、

もっとインになる。

もっと。

もっと。

そして

溢れたゴミ箱は優しくボヤけて

眼前五センチの雑草の花が宝石のように顕れる。

美しいね。

どうして?

私は

遠くへ行きたかったよ。

遠くへ行きたかったよ。

見えた道筋の確かさを

信じることができたなら

歩き続けることができたなら

あの海に辿り着けただろうか。

近眼レンズのこの目には

虫と花の美しい呼吸だけ

それならいっそ外してしまいたい。

海へ。

忘れてしまった海へ。

月も滲んで
星も滲んだ
虫も滲んで
花も滲んだ
一ミリ先も

最後に一番近くに居た君が
溢れ落ちて流れて消えたから
目を閉じた
もう歩けなかった。

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