匂いと臭い

コロンビアから来た彼女は、京都の大学に通いながら、スペイン語を教えている。私は生徒としてはかなり不真面目だけど、彼女とスペイン語で話す時間が好きだ。

私たちの授業は友達同士のおしゃべりみたいで、最近あったことを報告し合うだけ。私は彼女からラテンアメリカのことを聞くのが楽しくて、彼女は私が話す日本語にも日本文化にも興味津々で、話は尽きない。

先日、"におう"というスペイン語の活用がすごくややこしいね、という話になった。そもそもイレギュラーな活用をする上に、現在形と過去形で発音はほぼ同じくせにスペルが違ったりして、覚える気すら起こらない。

なんでこんなややこしいことするのスペイン人って、と思ったけど、我々が使う日本語の"におう"には"匂う"と"臭う"があるじゃないか、とハッとした。こちらも十分ややこしい。

ノートに漢字を2つ書いて、"匂う"は、いいにおいで、"臭う"はくさいにおいに使うものだと説明したら、面白い!と言ってくれた。

日本人なら"臭"という漢字を見ただけで、"クサそう"って分かる。でも第二言語として学習する者に、そんな感覚的な土台はないわけで、ただ数をこなして覚えるしかない。

その上、名詞形になって"臭い"と書くと、"くさい"と読めばいいのか、"におい"と読めばいいのかは、もはや文脈で判断するしかない。だから、仕事で使う時は、誤解を生まないようにカタカナで"ニオイ"と書いたりもする。

その流れで、どんなニオイが好きか?、という話になった。花、ハーブ、好きな香水、お香、オイル、パンの焼けるニオイ、新緑、ストーブのニオイ。好きなニオイの話をすると、お互いものすごく気分がよくなった。

山派の私は、雨上がりに山に入った時のニオイ、と言って、海派の彼女は、夏の潮風のニオイと言った。

彼女は、夕方、学校から帰るときに自転車で前を通った家からにおう、味噌汁か、出汁みたいなニオイも好きだと言った。
あれは万国共通でたまらんニオイらしい。

#エッセイ #コラム #日常 #スペイン語 #日記 #翻訳 #いい匂い




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?