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「育休世代のジレンマ」再読

最近女性の社会参画や、そのための配偶者選択について、twitter上で意見を集めたり、togetterにまとめて感想を募っていたりしたが、どうしても本文を読まずにコメントする人や端から喧嘩腰の人がいて限界を感じたため、女性が女性にインタビューしたものをまとめた中野円佳「『育休世代』のジレンマ」, 2014を再読し、女性の考え方というのをもう少し深く確認した。

空気のごとく当たり前の前提条件である上昇婚

この本の終わりのほうでは提言が並べられているが、その中の筆頭は男性の育児参加を増やしていくことである。言いたいことは分かるのだが、ただ、それまでの議論で「なぜ主夫を配偶者に選ばないのか?」という疑問に対して検討を加え、無理と却下してしまっている。

本書で筆者はインタビュー対象女性の配偶者選択を以下のようにまとめている。
・同級生や同僚との恋愛結婚が多く、出来婚も多い(4章2の1)
・だが、調査対象の大半で夫のほうが同等以上の収入である。(4章2の2)
・女はパートナー選択時に男の育児参加度を重視しない(4章2の4)
・出産前は妻もそこそこの所得だが、出産後に急激に広がる(4章3の2)
・バリキャリ女はバリキャリ男しか愛せない(8章3の1)
ちなみに最後のものはまだマイルドにした表現で、原文では「大変男らしいマッチョな男性を好む傾向」「『女々しいもの』への嫌悪」である[註A1]。

マッチョな男としか恋愛や結婚を考えられない、女々しい男は無理、育児してくれるかどうかで恋愛・結婚相手を選ぶなんてありえない、と明に暗に言ってしまっているのは多少驚いたが、この時代は上野御大のインタビューで以下のような文言が平然と垂れ流されていた時代であり、女性が上昇婚志向を公言しても突っ込まれなかった牧歌的時代の産物なのだろう。

「エリート女の泣きどころは、エリート男しか愛せないってこと(笑)。男性評論家はよく、エリート女は家事労働してくれるハウスハスバンドを選べなんて簡単に言うけど、現実的じゃない。」
――まさに、そうだと思います。女性は、尊敬できる男性じゃないと、なかなか、結婚する気になれません。
「尊敬できる男しか愛せないのは仕方がないし、いいんじゃない?」

東洋経済「女を使えない企業が、世界で戦えますか?」2013/10/28

通読していると、切々とバリキャリ女性の出産後の苦悩が語られているのだがどうしても「旦那を主夫にすれば解決なのでは?」という疑問がずっと残り続ける内容になっている。

筆者は解決策について、やや口を濁した感じで男性も育休を取りやすいようにしよう、くらいしか言わないのだが、まあはっきり言ってしまえばバリキャリのマッチョ男性が自主的に育休取るとは考えにくいので、男性への育休強制くらいしか手はないだろう。

ワーク・ライフ・バランスとやりがいの狭間

子持ち女性のワーク・ライフ・バランス(WLB)を重視すると、時短勤務時に他の同僚に仕事を引き渡せるよう、あるいはいざというときに残業してもらうような修羅場が行かないよう、事務的な「代わりは誰でもできる」タイプのタスクの配分がなされる。本書のインビューでは、それに対する反応は二つに分かれる。

もともとバリキャリ志向だった女性にとっては、WLBを重視した仕事は時短分を複数人で担当できる=代えの効く類のやりがいのない仕事になってしまい、それが原因で辞めてしまうということがあるようだ(7章1)。加えて、育児の喜びが単調化したWLB重視の仕事に勝ってしまって辞めてしまうというエピソードも紹介されている(7章2)。私も女性に対するインタビューの中でそのような傾向を見出していたが、女性が女性にインタビューしてもそういう話は出てくるようだ。

もともとWLBを重視する傾向の強かった女性にとっては、それでいいようだ。むしろ、責任のある仕事=代わりがおらず、部下に対して責任があり逃げ出すことが許されず、いざという修羅場に入る可能性があり、残業してでもカタを付けなければならないような職務は、WLB重視の女性は避ける傾向にある(7章3)。

責任感とやりがいがあるリーダー的仕事=責任があり修羅場も切り抜けねばならない仕事とというのは、WLB重視と対立するものであり、原則として両立することができない。これは私も認めたとおりである。

この点について筆者は、大まかにまとめれば「締め切り感は緩いけどクリエイティブでやりがいのある仕事を残しておいてほしい」というようなことを提案しているが、具体性に欠けることもあり、確実にそういう仕事を用意できるかと言えばそうでもないだろうなあ、という感想を持った。もっとも、ケアワークをしない人も含めてそういう仕事が増えれば楽しい職場になるだろうから、そういう努力は否定するものではない。

また「産休・育休から復帰後も同じ仕事を用意してほしい」「子育てするとしないとにかかわらず定時で帰れる職場にしよう」と提案しているが、それに該当するのが資格職、特に現場系の資格職である。筆者は従前からそのような職業は実は子供のケアをする人に向いた職場だと勧めているのだが、女性の比率は残念ながらあまり上がる傾向を見せていない。


脚注

[註A1]: 原文の原文は以下の出典である
 小倉千加子 (2001) 「セクシュアリティの心理学」有斐閣
 江原由美子 (2001) 「ジェンダー秩序」勁草書房



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