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錫(すず)婚式が見えてきた

結婚10周年のことを錫(すず)婚式というらしい。
10年という月日を経て「錫のように柔軟で美しい夫婦になった」という意味が込められているのだそう。
上記理由で「アルミ婚式」ともいうらしいが、私は強力に錫(すず)婚式の呼び方を推したい。
アルミじゃいくら何でも風情に欠ける気がする。

とはいえ調べてみると、結婚8周年は「ゴム婚式」だし、11周年は「鉄鋼婚式」というごっつい名称が付いている。12周年目以降は比較的ロマンティックな名称が続いていくので、我々夫婦も出来れば12周年までは頑張りたい。

それにしても結婚してから、もう10年を迎えようとしているのか。
私たちの結婚は直後からたいへんに波乱万丈なものであったため、感慨もひとしおである。
過去何度か語っていることだが、結婚直後に夫がメンタルをやられてしまい、以降外で働くことが出来なくなった。
しばらくはのんびり専業主婦でもさせてもらおうかという算段をしていた私にとっては青天の霹靂。
夫の鬱状態の酷かった時期は、一日に朝も昼もなく、明けることのない暗闇の時間が延々と続くのみであった。

不安と焦燥を募らせた夫の攻撃性が私に一身に向けられる。
とげとげしい言葉を執拗にぶつけ、私を故意に怒らせることで、激しい罵り合いの応酬が始まる。
過激な言葉をぶつける場を得ることで、自分の鬱憤を発散させようという思惑が透けて見えて、そんな手段をとる夫に心底嫌気がさした。

日記を書くといいよと夫の主治医から言われた私は、ノートにヘドロのような気持ちを夜な夜なぶちまけた。

離婚したい。
でも結婚式を挙げてしまった手前、今すぐ離婚は避けたい。
1年。
なんとか1年耐え忍ぼう。
1年後絶対に離婚してやる。

夫が私の日記をのぞき見していることを知っていて、敢えて見せつけるように酷い言葉を綴り続けた。
そういうやり方で仕返しをする自分にもほとほと嫌気がさした。

そんな地獄の結婚一年目を乗り切った私がいつの間にか愛する息子まで得て、夫と楽しく暮らしている。
人生とは本当に分からないものである。

―結婚式は出来れば挙げたほうがいい―
大勢の前で式を挙げ、永遠の愛を誓うことにより、一時的な衝動による離婚を思いとどまれるから。

そんな説を聞いたことがあるが、少なくとも私の場合はまさにそうだった。
大金をかけ、たくさんの大切な人達の時間と祝福を頂いた結婚式というものが、強力なストッパーとなってくれた。

結婚したら意地でも添い遂げなければならないなんて全く思わない。
精神的・肉体的な暴力、経済的なDVなどは言わずもがなである。
個人的には、夫か妻のどちらかが、相手、もしくはともに営む家庭に対して愛情を注ぐ気がないことを態度で示し始めたら、もはや一緒に暮らす意味はないと思っている。(とはいえ現実にはしがらみというものがたくさんあるのだが)

この世界には必要な忍耐と必要でない忍耐がある。
する価値のある苦労と、する必要のない苦労がある、といった方がいいのかもしれない。

我々の人生に、価値のない苦労に費やす時間はない。
ただひたすらに自分の魂や尊厳を傷つけられるだけの結婚生活など続ける必要はないのだ。
さっさと見切りをつけるに越したことはない。と昔バイトを4日で辞めた私が語る。

ただ、一つ難しいことがある。
今のこの地獄のような苦しみ、苦労が、自分の人生にとって必要なものなのか、無価値なものなのか後になってみないと分からないことが往々にしてある。

私が結婚に見切りを付けなかったのは結果的には正解だったが、あの真っ暗闇を生きていた私に、まさか10年後こんなに平穏で幸せな日々が待っているなんて知るよしもなかった。

分からない時はとりあえず1年耐えてみるといいかもしれない。
1年という時間はそれなりに長い。

この世界に全く存在していなかった命が突如芽生え、母体から人の形で誕生することが可能な時間が1年だ。
恐ろしいほどの変化、可能性を秘めた時間である。

昨日と変わらぬ苦しい日々がただひたすら続いているように見えていても、過ぎ去ってみれば1年前と1年後には全然違う景色が広がっていたりするものだ。

まあ、最終的には、どんな決断をしたとしてもその決断が結果的には正解だったと言えるようにひたむきに前に進んで行くしかないのだろうが。

そんなこんなで錫(すず)婚式だが、〇〇婚式には〇〇にちなんだ贈り物をするといいらしい。

14年目「象牙婚式」以降は水晶だの真珠だのルビーだのサファイヤだの、贈り物の単価が上がってくるが、それ以前は割と気軽に手に入れられる素材が多いため、毎年その素材にちなんだものを贈り合うのはとても楽しいこのように思える。

私たちも最初からやっておけばよかったな…と思いつつ、あ、やっぱり1年目はそれどころじゃなかった、無理!という結論に至った。

錫の製品は置いといて、実は、実はですね。
つい先日、今世ではジュエリーはもう買わない宣言を発令したにも関わらず、10周年ということで夫が指輪をプレゼントしたいと言ってくれているのでお気持ちに甘える次第。
いわゆるスイートテンというやつだ。

とは言っても今夫はまとまったお金など持っていないため、一旦は家計から出すというシケたからくりなのだが。
今勉強している資格試験にいつか受かり、自分で起業した後に家計に戻すつもりらしい。

ま…まあ…いいか。
今のところ我が家はこれが精いっぱいなのである。

頼む、私が生きている間に試験に合格してくれ。
それが無理だったら来世で絶対に私に富豪の生活を与えてくれ。

それが私という(心意気だけは)高貴な女を妻にした夫の責務だ。




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