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資本主義インターナショナル

 「ダボス人」という言葉があります。1971年まだ冷戦が激しかった頃に結成された『世界経済フォーラム』は今や世界各国の一流企業とその企業にお墨付きを得た人達が参加する運営になっています。通称ダボス会議というこの取り組みはいわゆる経済の「グローバル化」に賛同を示し、その評議員には日本人では竹中平蔵元金融担当大臣がいます。このダボス会議主宰者であるクラウス・シュワブはもはや政府が主役ではなく新しい利害関係が世界の統治を行う時代がやってきたという発言をしました。シュワブとしてはダボス会議は「グローバル企業の国際連合」のつもりでこのような発言をしたのでしょう。政府機関が民間企業と団結して新しい秩序を作り上げる。一見すると未来見通した発言のように感じます。ですが、その思惑は危険な兆候もはらんでいます。
 このダボス会議は当然ながら左派層だけではなく右派の一部も大きく批判しています。特にグローバリゼーションで仕事を失ったもしくは所得の大半が奪われてしまった労働者階級は、「第3の道」という財界に大きく譲歩した社会主義政党に失望し、その怒りは極右政党の投票で示されました。極右もその民族主義的な政策を一部修正し、反ダボスを合言葉に今後も一定の支持を得るのでしょう。
 今やスイスのダボス市は共産主義にとってモスクワがそうであったように、「グローバル革命都市」になりつつあります。
 日本にも「世界経済フォーラム議員連盟」という超党派の議員連盟があります。当時の自民党上げ潮派や民主党鳩山グループに参加者が多かったですす。鳩山由紀夫はその講演で行きすぎた市場万能主義を批判したかと思えば、その解決策に社会主義政策は民間の活力を奪いかねないと主張しました。一部の右派から鳩山の政治姿勢を左翼だと言い張る人達がいますが、こうした発言から彼のイデオロギーは徐々に鮮明になりつつあります。
 一部民間企業のグローバル化。職業革命家を動員して前衛党を各国一つは作り、世界革命を一瞬だけでも目指した国際共産党よりよほど資金も実績も、そして実力もあります。グローバル企業の言葉はいつも綺麗な言葉で紡がれています。この美辞麗句は本物でしょうか?極右を超え太らせた「世界経済フォーラム」は市場の綺麗な部分しか焦点を当てず、見たくないものには蓋をしてしまうことがあると思います。

移民1000万人計画

 移民にばかり批判が向いていますが、外国人労働者が増えた理由は経済界からの要望でそれに対して保守側も革新側もイデオロギーに反しない程度の理屈をつけ外国人労働力を当てにした歴史があります。その事をいつのまにかなかった事にして殊更移民の危機を煽るやり方は、フェアではありません。2005年自民党には移民1000万人移住計画を目的とした議員連盟が設立されています。郵政選挙に勝利し市場万能主義こそが経済を救うとされた時代に、安価で不安定で危険も多い仕事に外国人労働力を充てがうのは当然の帰結でした。多くの労働者はそれが自分らの労働力をさらに安く売り飛ばす現代につながる事を考えていない、考える事をやめてしまったように思えます。当時社会人になりたての私自身そうだったでしょう。あの時「郵便局の局長が世襲なのはおかしい。郵便局員は守られ続けてきた、赤字で会社は回らない」ぐらいは思っていました。そうした私の信念なき市場万能主義的な行動は現在代償を支払っていると言われると思います。他人の仕事を不当に貶める人間はいざ自分がそういう立場になった時誰も助けてくれないでしょう。だから同じ志の者と団結するしかない、仲間を増やすしかない。労働運動の基礎はそういう事です。
 話を戻しますが移民1000万人の受け入れを目指した「自民党国際人材議員連盟」は現在の東京都知事、小池百合子を会長としてメンバーは派閥横断型ながら第二次安倍政権で重要な役割を果たした人も大勢加わっています。安倍晋三という政治家は案外現実主義者で、公職中はその右翼アピールを一歳見せず、むしろ移民については歴代内閣に比べると積極的に押し進めました。技能実習生の受け入れ期間などの延長を決めたのは安倍晋三でした。総理を辞任した瞬間、180度立場を変えて保守派の重鎮のようなアピールをしましたが、彼はその華麗な経歴でうるさい保守層を黙らせて、ちゃっかりダボス流資本主義政策を推進する寝技ができた政治家です。保守層は安倍を過大評価しすぎて、左派層は安倍の政治手法を多少は学ばないといけません。枝野幸男が「自分は保守」という言わなくてもいい事を公言し、結果として立憲民主党から左翼イデオロギーが弱まっていったのは彼が政党を創ることはできても、政権を獲得できなかった最大の弱点になりました。
 現在自民党内で1番親ダボス派は河野太郎、石破茂、そのメンバーではないですが安倍よりも徹底的な新自由主義者菅義偉でしょうか?ネットで目立つ右派のうるさい連中から大いに批判されている人達ですが、高市早苗はともかく、高市派とみなされる代議士よかよほど自民党の政策決定に関与できる人物です。それはそうです。安倍晋三は河野太郎並みに親ダボスであって経済界の要望はほぼ受け入れてきたのですから。「保守の政治家」というものは安倍晋三の虚像なのです。

ダボス会議と労働組合

 労働組合というものは基本的に交渉するのが仕事であり、どういった運動手法を取るにあたっても経済団体と話し合い合意する事が目標です。2000年ぐらいから労働組合も「世界経済フォーラム」の場で主張する事も増えてきました。当時の国際的な労働組合指導者フィリップ・ジェニングスは「ほんのひと握りの勝者と何百万人の敗者がいる。1日2ドルで生きている人が200億人もいて、300万人の14歳以下の子供が児童労働者だ。一国内の国と国の格差は第二次世界大戦以降最大である。労働者は声を上げなければならない。全ての働く人は声を上げなければならない。このまま行ってしまってはいけない」と労働運動とグローバリゼーション資本主義の立場の違いをあえて主張しました。これは2000年の発言です。あれから20余年。格差はもっと広がり、それこそ働く人が雇用されないのに労働形態すら誕生しました。グローバル資本主義の前に国際労働運動は先行を許す結果になりました。Google労働組合は華々しくマスコミに取り上げられましたが、それだけでした。グローバル企業の組織化にはいまだに有力な運動が確立されていないのも事実です。ダボス会議に労働組合指導者が参加する事には意義があります。経済的潮流を一部グローバル企業に全て委ねるのは危険な事です。国際労働運動総連合は50社の多国籍企業のうち直接雇用は僅か6%という調査を発表しました。労働運動は職場から起こるもので、ダボスに運命を委ねるのは危険です。大切な事だから何度も繰り返して言います。雇用を大事にしない経営者は「これが世界の常識だ」と言います。日本型雇用は遅れている。だから改革だ。その結果労働者の仕事は安売りされ、さらに外国から代替労働力まで確保され賃上げすら悪という世相になっています。そもそも移民政策を押し進めたのは経済界からの要望でした。だから自民党、民主党も含まれるでしょう。彼らは黙認し続けました。今更社会主義なんて流行らないものより、市場を国際化する事で経済は発展する。経済が発展すれば税収は思いのままだ・・と。それは随分甘い見通しでした。待っていたのは労働者と中道政党の共倒れでグローバル企業と極右が肥え太るようになる結末でした。

自民党内極右の不誠実

 トルコ系クルド人の移住問題で一部の右翼が吹き上がっています。ただの在野の貧乏右翼が新しい稼ぎ口を見つけただけの話だと思っていましたが、もはやそういう右翼団体はそもそも皮肉にも共産党の弱体化と比例するように自分達の存在意義が消え新しい活動ができなくなっています。お陰で出てきたのはもっと筋が悪い排外主義者たち。
 例えば日本の右翼ロビイスト集団と言われた「日本会議」も日本の文化に関わるような移民政策なら我々も反対せざるを得ないという発言をしています。おかしな話です。多文化共生に強硬的な反対をする「日本会議」が事実上の移民政策である技能実習生には反対はしない。むしろ条件つきの賛成のようにも見えるのです。労働力として使用するのであれば問題ない。期限つきで働いてもらってすぐに帰国するというできもしない事を条件として技能実習生制度を黙認しました。
 国に帰れ!と叫んでいる極右の国家主義者はそうなる未来が一切予測できなかったのでしょうか?知っていて受け入れて、一部の排外主義運動家の飯の種に貢献しているのだとしたら彼らは民主主義の政治家として値しない。支持者を誤魔化し、それが口うるさくなって今噴き上がっているのなら彼らは信念のある保守派ではなく排外主義で飯を食べる活動家達の広告塔だから。議会で意見を言う時は自分の排外思想を公開してから代弁すべきです。そうした事を加味すれば発言は完全にアウトですが、立場を公言している杉田水脈の方がまだほんの少し誠実とも言えます。安倍晋三なき自民党で彼女がどれだけの事ができるのかお手並み拝見ですが。
 川口市に住むトルコ系クルド人は東日本大震災でも熊本地震でも多くが解体業という経歴を活かしボランティアに参加。地元では大きな問題を起こす人も存在しますが、保守的な旧来の住民ですら「規則を守れ」という事は言いますが「国に帰れ」なんて事は言いません。彼らも地元経済に大きく貢献している事を知っているし、何より行政自体がそうした不法就労を見逃したわけです。批判が集まるなら行政にも大きな責任が伴います。
 東海地方は技能実習生よりも一体どこのルートから来日したのか分からない外国人労働者も多く見受けられますようその仕事は側から見ても激務です。トルコ系クルド人のように国に帰ったら政治的な弾圧が待っている。だから過酷な労働でも黙っている。ただこうした非人道の労働で成り立つ経済は崩壊した時そのインパクトは下手をすれば一国の産業を壊す力にもなりそうです。不誠実な労働に対して日本も含めた労働運動はまだまだ力不足です。巻き返すためにはもっと大きな協力と連帯が必要です。
 国境なき労働運動は、国境どころか長年積み上げてきた労働行政すら無視し、その先進的な考えで市民を懐柔、分断し最終的には労働力の値下げで資本主義の延命を図っています。私は反グローバルの人間ではありませんが反全体主義者として、極右とダボス革命派に反対します。


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