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美味しすぎない「ハンバーグ定食」

この店に駐車場はない。中心街からはそこそこに離れているので車で出かける。だから皆、何食わぬ顔で路駐する。コンプライアンスにがんじがらめの世の中で、馬里邑(まりむら)のある一角だけは昭和のルールがまかり通る。

ウイルス騒動で病院が空き、この店が混んでるのだろうか。必要以上にリラックスした老人たちがたむろする。肺炎とは縁遠そうなおばちゃんがキラキラとした元気で接客する。

カウンターの奥に追いやったことを執拗に謝罪されながら、チーズハンバーグ定食をオーダーする。目の前に並ぶこち亀を手に取る。171巻だ。ロボ仏像の話を読み進め「ハイ、できたよー」の声と共に緩く配膳される。

オーダーはチーズハンバーグだったはずなのだが、チーズは何処かに出かけてしまったらしい。目の前に現れたのはハンバーグ定食(850円)。イイんだ、そういう日なんだ。動揺を隠してフォークを手にする。柔らかで、かつ肉肉しい。控えめなデミソースも手伝い、絶妙な美味すぎなさだ。それにしても皿に盛られたライスは、どうしてこんなにも美味しそうに見えるのだろうか。なぜ両親はフォークの背にライスを乗せようとしたのだろうか。鉄板に熱せられた目玉焼きは立派に火が通っている。

ふとカウンターの横を見るとコピー用紙に「令和」の字が掲げられている。ノスタルジーに浸っているのは客だけで、店主は現代にしっかりと生きるのだ。店を出ると路上駐車が2台ほど増えていた。



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