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海外クラブのストアから学ぶJリーググッズの未来 -第2回 パリ・サンジェルマン編-

今回はフランス・パリに本拠地をおくパリ・サンジェルマンFC (以下PSG) である。
第1回でご紹介したベンフィカのグッズは美食の街・リスボンを体現するようなラインナップだったが、PSGも地域性がよく表れている。
PSGのグッズがとりわけ素晴らしいのは、地域性にとどまらずサッカークラブの新たなビジネスモデルとして2歩も3歩も先を行くような挑戦をして成功しているところだろう。

ファッションブランドとしてのパリ・サンジェルマン

パリと言えば…そう、ファッションの街。
サッカーとは遠いところにありそうなキーワードであるが、この地域性を上手く利用したのがPSGだ。

こじらせサポーターから「オシャレなんかよりも試合を優先しろ!」という声が出てきそうだが、ここはパリ。
むしろオシャレに特化すれば特化するほど「地域性」が出て、地元アピールに繋がってしまうのだ。 パリ、なんて恐ろしい子…!
そのお陰でPSGのアパレルページは他のどの海外クラブと比べても断然アパレルが豊富なのが特徴的である。トレーニングウェアよりも普段使い用アパレルにページを割いているのだ。

世界で一番の立地にストアを構えたPSG

PSGはあのシャンゼリゼ通りの中心にストアを持っている。
パリを訪れた観光客ならば必ずといっていいほど訪れる場所だ。

シャンゼリゼ通りには世界的なラグジュアリーブランドの本店も立ち並ぶ。PSGが見据えている商売敵は他のリーグアンクラブではない
ファッションブランドなのである。
「ルイ・ヴィトンやエルメスにサッカーアパレルが勝てる訳がない」と考えてしまうが、高級ブランドの中にあえてスポーツブランドが出店することは"手の届きやすい価格"という魅力になって輝く。
おかげで店内はいつ行っても盛況だ。

また、この場所に店を構えることでストアが"立派な広告"として機能する。
今年のW杯でフランスは2度目の優勝を果たしたが、スペインやイタリアに比べてリーグ全体の知名度はまだ低い。しかし、この店があるだけで「パリにサッカーチームがあるのだ」ということは分かってもらえる。
しかも所属しているのはサッカーを見ない人でも一度は耳にしたことがあるだろうスター選手。印象付けはバッチリだ。
地価は高くとも、広告費と考えればリターンは大きい

また、胸スポンサーがエミレーツ航空なのでシャルル・ド・ゴール空港内にも店舗を構えている。

空港内店舗があるサッカークラブは多いが、どこも有名選手のユニフォームだけを用意しておりニッチな選手の需要に対応しきれていない中、PSGはその場でのマーキング着圧に対応していた。
こういった細かな配慮が満足度になり、ファンの定着に繋がるのだろう。

コラボレーションを成功させたいならPSGに学べ

PSGはクラブで普段使いアパレルを出すのも得意だが、何よりもコラボレーションが上手い。
有名ブランドやセレクトショップとコラボすることで話題性も生み出し、ファッション関連のニュースで名前を見かけることも多いのだ。

以前、パリ旅行をした際coletteの店舗にPSGユニフォームが置いてあることには驚いた。coletteとは伝説的なセレクトショップの先駆けで、パリを訪れるファッション関係者ならば必ず立ち寄るほどの店であった。
2017年冬に惜しまれつつ閉店したが、スポーツショップに入ろうとしない人でも手に取ることが出来・目に入る…しかも"ファッション界の最高峰の店"で"目利きが選んだ"という付加価値をPSGが背負っているのは大きかった。
"新規顧客獲得"の一言では済まない効果があったはずだ。

またPSGとKOCHÉのコラボは思わぬ影響があった。
こちらもアパレルブランドとのコラボであったが、なんとビヨンセがツアーで衣装として着用したのだ。

ビヨンセはInstagramフォロワー数は1憶人越えを誇る影響力だ。
もちろんKOCHÉのアカウントもこの写真をツイート。
PSGのSNSだけでなく、有名アーティストとファッションブランドのSNSから二重にも三重にもコラボをPRすることが出来、宣伝効果は抜群であった。

上記画像はアパレルではなくNIVEAとのコラボだが、街のドラッグストアやスーパーマーケットに並んでいた。生活に密着した場所で見かけることが、Jリーグで言うところの"ホームタウン活動"に繋がっているわけだ。

イケてるクラブはみんなやってるエンブレム簡略化!

2017年、ユヴェントスFCがエンブレムを大幅リニューアルし話題になる。
疑問の声も多かったが、"サッカーエンブレムらしさ"をあえて取り払ったのはアパレル展開を含めたエンターテイメントクラブになる為の大きな前進になった。リヴァプールFCもアパレル商品はエンブレムの象徴的部分だけを切り出したロゴを使用している。

パリもこの流れを汲んでいる……どころか、色々とツッコミどころ満載だ。
以下のロゴを見て欲しい。

PSG × hirofumi kiyonaga for EDIFICE

PSG × Jordan

もはやエンブレムの核のはずのエッフェル塔ですらない。
かろうじて富士山もジョーダンも末広がりのタワー型であるが、どちらも二重丸部分をあえて残したのだ

ずるい、ずるすぎる。
このまま多数のコラボが生み出され、なお二重丸部分だけを印象付けられれば私たちはスターバックスのロゴを見てもPSGを連想するようになってしまう。サンマルクカフェだって二重丸じゃないか。
世の中は二重丸に溢れているのだ。PSGが私物化していいのか。
Instagramでもジョーダンユニ着用の日は毎回白黒加工の写真にして投稿するようになったPSG公式…。ただのオシャレ投稿だと思っていたが、これも刷り込み効果を狙っているのか。どこまで戦略的なのだろう。

スポーツ嫌いの父がPSGアパレルに散財した

ここで私の父の話を聞いて欲しい。
シャンゼリゼのPSGストアに吸い込まれた私が買い物に興じ、なかなか出て来ないので呼び出すために入った父は、なぜか店を出る頃にはアパレルを5点もお買い上げ。次の日も時間が空いたら「あのサッカーの店、もう一度行きたい」と言い出し、連日通うほどのハマりっぷりを見せた。
なんと毎日持ち歩くスマホケースまでPSGのロゴ入りである。
ちなみに父はサッカーはおろか、スポーツ観戦も苦手。
フランスのクラシックカーが好きで、買い物よりは街の写真を撮るのが好きなのだが…。
なぜここまで見事にミイラ取りがミイラになってしまったのだろうか。

思うに「"ちょうどいい"カジュアル」だったのだ

パリで服を買おうとすればセリーヌやモンクレールなどの高級ブランドが選択肢になるが、それは敷居が高すぎる。
かといって、ファストファッションやスポーツブランドを買ったとしても日本に上陸しているものばかり。下手すると「御殿場のアウトレットで買ったのかな」と思われるのがオチだ。

しかしPSGのアパレルはどうだろう。
 ・高級ブランドよりは手に取りやすい価格で
 ・他のスポーツブランドと違って明らかに「パリ」で買った雰囲気が出て
 ・その上スポーティすぎず普段使いしやすいオシャレなデザイ

着るたびに旅行の思い出に浸れるのも嬉しい。
特に中高年の男性であれば"若作りしすぎず"、"でも無難すぎず"とオシャレのハードルが高くなり、服選びが難しくなってくる頃だ。
そんな時に"カジュアルだけど人とカブらないような服"という需要にピッタリハマったのがPSGアパレルだったのだ。

帰国後に父から「次はパリサンジェルマンの試合に行ってみたい」という言葉が出たのには驚いた。アパレルからサッカーに興味を持った奇特な例だ。
娘としては(マリノスの試合にも行ったことがないのに…?!)と複雑な気持ちではあったが、その後も父はパーカーはじめPSGのアパレルを着て生活し、日本の街中を歩くことでPSG広告塔の役割もガッツリ果たしている。
有名選手の名前が1人も言えなくても、クラブを好きになってくれるのはブランディングの成功だと言えるだろう。
近々パルクデプランスへの聖地巡礼に連れて行きたい。

この極端な事例をJリーグにどう活かせるか

PSGは一言でいえば"恵まれたチーム"だ。
ホームタウンは観光立国1位の国の首都であり、街自体にプラスのイメージが既に定着している。
その上クラブとしてスポンサー収入も多く、これだけのムーブメントを起こせるのはなんといってもその"資金力"ありきだ。
Jリーグとは正反対のところにあるように思えるかもしれない。

しかし、元々ヨーロッパではサッカーのイメージがマイナスなのだ。
社会階層が日本以上に明確化している欧州では、サッカーよりもテニスやクリケットの話題をすることが好まれる風潮がある。
階層問題と向きは変わるが、スポーツニュースでは野球の話題ばかりで肩身が狭いところやサッカーの知名度が低く、話題を出しづらい日常と置き換えればJリーグも状況は似ている。

また、首都圏のクラブは"エンターテイメントが溢れている問題"も抱えているだろう。都心には魅力的なコンテンツだらけでサッカーを見に行く暇がない人が多すぎるのだ。
これはパリだって同じだ。スタジアムに来てもらうにはルーブル美術館やエッフェル塔と客を取り合わなくてはならない。

しかし、上記に挙げた
 ・地域性(ファッションの都)をアピール
 ・コラボレーションで多くの人の目に触れ、ブランドイメージを向上
 ・人が集まる場所に店を構え、地元だけでなく観光客を取り込む

これらを着実に叶えることでクラブだけでなく、サッカー自体のイメージも変えていった。
PSGのようなクールなブランディングを日本のサッカークラブがまるごと真似するのは難しいだろうが、成功例として学ぶ事例はいくつもあるのだ。
普段使いアパレルに力が入ってきたJリーグ、いつか銀座中央通りや表参道に店を構えるJリーグクラブが出てくるのかもしれない。

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