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Design&Art|Colors in Finland 〈06.フィンランドの色〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。

「我々はスウェーデン人には戻れない。ロシア人にもなれない。そうだフィンランド人でいこう」

かつて、隣国からの支配と自国の独立の狭間にいたフィンランド。この言葉は当時のフィンランド人に民族意識を与え、結束、そして建国への後押しとなったといいます。

100年ちょっとの北の国。この地に生きる人びとは、自分たちの特色を、自分たちが誇れる景色を、すなわちフィンランドの「色」をずっと探し続けてきました。

“フィンランドデザインからは、自然を身近に感じていたいという人々の純粋な欲求と、自然への敬意の心が感じられます。”

Design&Art|デザインを覗く 〈01.線とリズム〉より

2021年の10月からはじまった私たちlumikkaによるコラムシリーズも、今回でおしまいとなります。振り返れば、このコラムは人と自然、そしてデザインの関係性を探る旅の放浪記のようなものでした。

最終回となる今回は、これまで私たちが書いてきた言葉を手がかりとして、フィンランドデザインの自然を、色を、再考します。


“時に、光は微笑むような表情をつくり、風は呼吸をするように行き交い、そして雲は散歩をするように空を流れています。”

Design&Art|デザインを覗く〈08.自然と空想〉より

フィンランドデザインの特徴のひとつに、比喩が挙げられます。たとえば、アルヴァ・アアルトのデザインには波のようなおおらかさ・雄大さがあり、オイヴァ・トイッカのガラスバードシリーズには、自然界に生きる野鳥のような力強い生命感が宿っています。

森や海、空、光、野生の生物たちを人と同等、あるいはそれ以上の存在として敬うフィンランドの自然観は、日本のアニミズムの思想とも重なる部分があります。「たとえること」とは、自然のなかに魂の存在を認め、共に生きてゆくということ。冬が来ようとも、木々の葉が落ちようとも、フィンランドデザインに宿る「自然」はいつも人の生活のそばにあり続けています。

Aalto Vase, Alver Aalto, 1936年-
Birds by Toikka, Oiva Toikka, 1987-1990年


はじまりは、自然のなかに。

フィンランドの自然の特徴は、夏と冬で様相が大きく変わることと都市と近い距離にあることです。冬には雪、氷。夏には木々、花々、光が燦々と。日々、刻々と移り変わる自然の音色は、人びとの精神の奥深くまで響き渡ります。

“消えてしまうかもしれない雪の儚さが、私たちの情動になにか働きかけるのでしょうか。”

Design&Art|デザインを覗く 〈02.大地の音色〉より

“春の訪れ、しばし冬とさようなら。青い空と白い雲、野の草花、そしてほのかな土の香りは、いま確かに生きているということを実感させてくれます。”

Design&Art|デザインを覗く〈06.日常から風景へ〉より

“波打ち際に残されるのは無数の足跡。人々の痕跡は砂に記録され、波は、潮の満ち引きにしたがってその一切をかき消してゆきます。”

Design&Art|デザインを探して 〈01. 黄昏の海〉より

“水を眺めることはなるべくして日常の一部となり、そして常に移り変わる水面の風景は、心に静寂をもたらしてくれるのでした。”

Design&Art|デザインを覗く〈05.水との対話〉より

“無垢な自然を目の前にして、つくづく、人の創造力というもののちっぽけさを思い知らされます。”

Design&Art|デザインを探して〈05. 神秘の森のその先へ〉より

フィンランドの自然は、美しくも掴みどころのない、まるで水のような存在です。自然との対話はなるべくしてこの地の人びとの日常となり、創造的活動のためのインスピレーションを与えてくれるのでした。

“ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。”

方丈記の一節より


Kivi,Heikki Orvola, 1988年-

“石と言われると確かに石っぽさを感じられるけれど、それがなぜなのかはよくわからない。その曖昧さの中に「自然」な美しさが潜んでいるようです。”

デザインを覗く〈12.人間と自然〉より


自然は、つくり手たちを介してデザインのなかに「新しい自然」を生み出します。姿や形が変われども、そのエッセンスは確かにデザインの一部として包み込まれ、人びとの生活の中へ。

LAPUAN KANKURIT「WOVEN JOURNEY」展の展示風景より

そうしてデザインは人びとの日常を彩り、不特定多数の日常が街の風景をつくります。ひとつひとつの物語が絡み合いながら、連鎖をしながら、関係をしながら。


“「見えない」ということが、かえって何かを予感させてくれる。そんな美しい詩みたいな時の流れが、きっと日常にはあるはずだ。”

Design&Art|デザインを探して〈02 .ヘルシンキの残像〉より

“なにかが関係しているようで、実際は関係もしていない小さな街の要素が、予測しない速度で、タイミングで、目の前に差し込まれてくる。まとまりのない物語が走馬灯のように、近づいては遠くに過ぎ去ってゆく。”

Design&Art|デザインを探して〈04. 車窓で旅をして〉より

フィンランドデザインは、自然の摂理に従うように世界に生まれ、溶け込み、消えてゆき、そしてまた生まれて循環し、新しい風景として生き続けるのです。

“そのような風景は人間が社会的な生き物であるということ——ひとりではないということを実感させてくれます。”

Design&Art|デザインを覗く〈10.生活と風景〉より


以上をもって、lumikkaによるコラムシリーズはおしまいです。

コラムを通じて出会った方々、2年間読み続けてくださった方々、どうもありがとうございました。「Design&Art」という大きなテーマのなか、私たちはフィンランドの生活 / 滞在で実際に見たものや感じたことを、(時に脱線もしながら)自分たちの視点で、写真で、伝えられるよう努めてきました。

振り返ると、文中では「美しい」という言葉を多用してしまったように感じています。それは、語彙の不足によることがほとんどなのですが、フィンランドの美しさが極めて非言語的であることも理由のひとつです。言葉にしようとすればするほど、言葉にならない部分が抜け落ちてしまうような気がして、つい抽象的な表現にとどめてしまうことがありました。

フィンランドという国の、まだ見えていない側面や長く住んでみなければわからないことももちろんたくさんあるのでしょうが、自分たちがこの目で見た、肌で感じたその美しさは変わることのない確かなものです。このコラムシリーズを通じてなんらかの新しい視点、豊かな感情を生み出すことができていたのなら、なによりです。

“物語に起承転結があるように、旅にも始まりと終わりがあるものです。”

Design&Art|デザインを覗く〈04.旅への空間〉より


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