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Culture|星さんに聞く、フィンランドと食 〈04.フィンランド伝統料理のご紹介〉

ラプアン カンクリ 表参道では今、「HerkulLinen / 食とリネン」を開催中。前回に続き、フィンランドの数々のレストランで調理を経験し、その後に自身の料理店を開業、現在はヘルシンキからオンライン料理教室を行うなど、多方面で活躍する料理家・陶芸家の星 利昌さんに、フィンランドと食にまつわる様々なお話を伺います。

みなさん、こんにちは。コラムの最終回、第4回目となりました。最終回はフィンランド料理がどういったものなのか、いくつかわかりやすく簡単にご紹介していきたいと思います。

フィンランド料理は彩りが鮮やかだったり、特に季節感があったりするものではありません。フィンランドの歴史を振り返ると、冬場は食材が収穫できず、夏や秋までに蓄えた食材で越冬してきました。そのため、その時々で穫れた食材を使うというよりも、少ない食材で作られているのが特徴的です。香辛料なども手に入れることが難しかったため、多くがシンプルで素朴な味付けです。

これらの料理は気温が高い国で作られる料理とは違い、寒い国ならではの発想で作られた料理です。冷涼な土地柄、酪農が盛んで、乳製品が豊富です。そのためミルク、クリーム、バターを使った料理も多いです。その土地で穫れたもので地方の料理は出来上がっていき、やがて伝統料理になっているのだなと考えさせられます。伝統料理をみると、その国の農業の歴史やその土地でどういったものが穫れていたかなどを発見することができます。伝統料理ともなると、今のこの流通が行き届いた社会になる前からあった料理なので、その頃と繋がった感覚になれるという楽しみさえ感じます。

Karjaranpaisti(カルヤランパイスティ)

最初にご紹介するのは、カルヤランパイスティです。料理名に表れている通り、カレリヤ地方の伝統料理ですが、今ではフィンランド全土で食べられている代表的なフィンランド料理です。材料は牛肉、豚肉、人参、じゃが芋、玉葱といった、和食の肉じゃがと似たような食材を使っています。昔、部屋を暖める電気ヒーターがなかった頃、薪で部屋を温めていたそうです。その熱を有効活用して、長時間炊き込んだ料理がこのカルヤランパイスティです。お肉も野菜とても柔らかくなり、昔の時代を考えるととても豪華な料理だったと思います。


Kalakeitto(カラケイット)

こちらはフィンランドではおなじみの魚のクリームスープです。サーモンが使われることが多いですが、この時はフィンランド語ではTaimen(タイメン)、日本語ではブラウントラウトという魚を使っています。年中フィンランドで食べられるこのスープですが、夏になるとKesäkeitto(ケサケイット)と言って、夏スープという呼び名に変わります。その際はフィンランドの夏野菜がふんだんに使われ、数少ない季節が感じられるスープの一つになります。


Makaronilaatikko(マカロニラーティッコ)

この料理はマカロニラーティッコといって、マカロニの箱という料理名が付いています。マカロニを茹でて、挽肉と玉葱を炒めて、バター、ミルク、クリーム、卵を使って、オーブンで焼き固めます。チーズも入っているので、乳製品が集結したお料理です。ケチャップをつけて食べています。この料理は僕がフィンランドに来た当初からよく食べていて、今も家で作ります。茶碗蒸しにマカロニがいっぱい入っているような感じに少しだけ近いです。


Lohimedaljonki(ロヒメダリヨンキ)

こちらもフィンランドの代表的なサーモンの焼き物です。この切り方、焼き方はロヒメダリヨンキと呼ばれ、塩と胡椒をして油で両面焼いています。下にはマッシュポテトと根菜のオーブン焼きがあります。上に盛られている黄緑のものはディルの花のつぼみです。8月になると、この香草が出てきます。香りと味が特徴的でこの食材からも季節が感じ取れます。フィンランドではやはりサーモンは必要とされており、焼きサーモンには豊富なビタミンDが含まれています。ビタミンDは鬱や無気力などからも身を守ってくれる栄養素なので、特に太陽が出にくい冬場は積極的に食べるべきです。


Riisipuuro(リーシプーロ)

こちらは朝食として食べることが多いミルク粥です。お米とミルクを合わせて食べることはあまり馴染みがないですが、昔から食べられてきている伝統料理だけあって、とても美味しいです。お米の他に麦粥もあります。お米や麦をミルクで炊いて、シナモン、砂糖をたっぷりとかけ、真ん中にバターを落としています。日本から来た友達も最初はミルクとお米は無理だと言っていましたが、一度食べると、帰国の際には「またミルク粥を食べたくなってきている」と言っていました。彼はサルミアッキは無理だったようですが。


Silakkapihvit(シラッカピフビ)
Paistettumuikku(パイステットゥムイック)

こちらは両料理とも、ライ麦粉をまぶして油で焼いた小魚のフライです。シラッカピフビはイワシの身を開いて骨を取り、そこにディルと塩胡椒をして、二枚で挟んで焼き上げます。白いソースは、Kermaviili(ケルマヴィーリ)という乳製品とディル、レモン汁、塩を使って味を作ります。ムイック(サケ科の淡水魚)の焼き物は、出来るだけ小さいサイズを選ぶと、そのまま食べても骨が柔らかく、気になりません。とても美味しく、カルシウムやタンパク質がたくさんとれます。

みなさんの中で、フィンランドは魚介が豊富そうだというイメージを持っている方もおられると思いますが、実は魚介は豊富ではありません。貴重なタンパク源として、この2つの料理はフィンランドで長く必要とされ、愛されています。ヘルシンキの市場にある屋台や地方のフェスティバルに行くと、この料理を食べれられるところが必ずあります。


Läskisoosi(ラスキソーシ)

ラスキソーシは、豚肉をバターと小麦粉を使って煮込んだ料理です。昔ながらの料理で、ソースに使われている豚肉の脂が身体を温め、寒さから身を守ってくれます。使う食材も豚肉と玉葱、バター、小麦粉、豚出汁または水、塩胡椒と少ないです。昔の食材事情がどのようなものだったのかが感じ取れます。今は昔と比べると食材は豊かになってはいますが、基本は崩さずに、ほぼ当初の形のままなのもフィンランド料理の特徴です。この料理はなかなか街中で食べられるところは少ないですが、古くからあるレストランに行けば見つかる、または、注文して作ってもらえるかもしれません。


Kaalipata(カーリパタ)

カーリパタは、キャベツの甘みをより引き出すお料理です。お米も入っているので、日本人の味覚にも合います。豚や牛の挽肉、キャベツ、人参、玉葱、お米、ベイリーブス、野菜出汁で炊いて作ります。1回でたくさんの量を作れるので、大勢で食べる時などにも大活躍してくれます。ヨーロッパでは料理に砂糖を使う料理はあまり見掛けませんが(なぜならデザートがとっても甘いからです)、この料理には砂糖を使います。初めて食べた時は、フィンランド料理から砂糖の程よい甘さを感じられるとは思っていなかったので、衝撃を受けました。日本料理も料理に砂糖を使うものがあるので、その共通点に驚きました。

フィンランドの伝統料理をいくつかご紹介させてもらいました。食べてみたいなと思ったお料理はありましたか?

伝統料理を作ることは、歴史を冒険しているような、過去の人々の生活や気持ちを少し知れるような、そんな楽しみもあります。こういったものを学んで味覚やその他の感覚を成長させることによって、また新たな発想で新しい料理を考えたり、作ったりすることができます。その時間は人生において、とても有意義です。どこどこの国の料理はまずい!ということではなくて、きちんと育てられた野菜やその他の食材は、元々持っている味が美味しいです。そして、この元々持っている味をしっかり表現してあげるだけで、その料理も美味しいです。

いつかみなさんもここに書いたフィンランド料理に出会ったり、自分で作ってみよう!と思ったりすることがあれば、幸いです。まだまだたくさんのフィンランド料理がありますが、それらはまた興味が湧いた時に、聞いたり調べたりしてみて下さい。

4回に渡りコラム読んで頂き、ありがとうございました!

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