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コンサートと思い出(2)

コンサートが終わってから、当時の思い出が一つ、また一つと記憶の彼方からひょっこり戻ってきました。普段の私は「過去を振り返るより前に進もう!」という人間なので自分でも意外でびっくりしたのですが、せっかくなので思い出したシーンなどを書いておこうと思います。

コンサートの後、楽屋に先生を訪ねて思ったことは、「先生、話し方も雰囲気も全く昔のまま、、。(笑)もう何年も会ってないのに、私たちが前回会ったのは先週のことで、その続きを今、話している、、っていう感じなのも先生らしいなぁ、、、。」

そしてふと、「昔、昔って言ってるけど、先生は私の大学時代は何歳だったんだろう?」と疑問に思い計算してみました。すると当時の先生は、なんと!まだ30歳になったばかりだったのです!私たち学生にとっては先生はもう落ち着いたベテラン教師、そして大人のキリッとした女性、という感じだったのですが、、、。

「え〜!先生はあの頃、まだ30歳だったのかー、、」と思った途端、先生が毎年引率と指導にあたっていた、音大の「アンサンブル合宿」の思い出が飛び出してきました。それと同時に、先生が私たち学生を呼ぶ時の「子供たち〜!(Kinder〜!キンダー!)」という高い声のおかしな口癖も!

普通、ドイツで「Kinder〜!(子供たち〜!)」なんて呼びかけるなんて、幼稚園児か小学生、それもせいぜい中学年までの児童が対象なんです。だから先生が大学生である私たちに「子どもたち〜!」と呼びかけるのが、当時はおかしくておかしくて、、。

でもまだ30歳だった先生が、自分と年齢が10歳くらいしか離れていない大学生に向かって「子供たち〜!」は更に変だったでしょ、、、、と、思わず、思い出し苦笑いをしてしまいました。

さてこの時のアンサンブル合宿とは、全器楽科の学生が参加出来る1週間ほどの合宿で、場所はミュンヘンから遠く離れた山の中にあるホール付きの合宿所。そして合宿所と言っても、広大なお屋敷、どこかお城的な雰囲気の建物でした。

まず合宿の初日、指導の先生たち数人が私たち学生を幾つかのグループに分け、それぞれのグループにアンサンブル曲を与えるのですが、毎日午前中9:00から夜9:00まで、練習、合奏、レッスン、合同の模擬演奏会と、もう「これでもかこれでもか!」という攻めまくりのスケジュール。特にピアノ科の私たちは、アンサンブル合宿の後、すぐにソロの実技試験日だったため、練習もレッスンもアンサンブル曲だけでなくソロ曲のプログラムが同じようにありまして。なのでピアノ科は、他の楽器より更にギッチリスケジュール。

「山の中で空気は綺麗だし、建物は伝統も雰囲気もあってホールも素敵だし、違う科の学生たちも大勢参加するから楽しいわよ〜。違う楽器の男子たちとも知り合えるわよ〜?」と先生からそそのかされて参加を決めたのですが、誇大広告もいいところ、、。楽しみの時間なんていつどこにあるの?という「か・な・り・過酷なスケジュール」でした。

さて、私はピアノトリオのグループに配属されました。楽器編成は、ピアノ、バイオリン、チェロの3人で、私とバイオリン、チェロの男子たちとは初顔合わせ。曲はモーツァルトのピアノトリオでした。バイオリンの男の子は実家で飼っているオウムの話ばかりしているし、チェロの男の子はいつもそれにうなづいているようなボ〜っとしたタイプ。まだまだシャイだった私は「また今日もオウムの話か〜、、。」と思うだけで気の利いた話題を提供することも出来ず、ただただ真面目にトリオの合奏練習に参加してピアノを弾く、というだけの毎日でした。

でもそのうちどのグループの学生も、とにかく全員、ストレスが溜まっていきました。そりゃあそうですよね。大学生の合宿で、息抜き&お楽しみプランはゼロ、ですもん。みんな地味で真面目な音大生ばかりでしたから、先生方に文句を言うことも反抗することもなかったのですが、さすがに「練習、合奏、レッスン、合同模擬演奏会、だけ!!!」という毎日では、ストレスが溜まりまくっても仕方ありません。

合宿4日目くらいの、午後の個人練習の時間だったでしょうか。何の楽器の誰だったかは忘れましたが、練習室のドアを開けたまま、誰かがいきなり「ラグタイム」を演奏し始めたのです。すると、、、すぐにまた他の練習室の誰かがそれ加わり、するとすぐにまた誰かが、、、とずんずん参加する楽器が増えていき、結局最後は1階でも2階でも、練習室という練習室でラグタイムが同時に演奏され壮大なセッションになったのでした。私ももちろんピアノで参加。(笑)どの練習室もドアを開け放しての大合奏でしたから音量もすごいもので、建物全体にラグタイムが響き渡りました。そしてみんな、もう超生き生きで超ノリノリ。何回もリピートして「どーだ!このギッチリのスケジュールに反抗して、みんなで突然ラグタイムを演奏しちゃうんだぜ!楽譜なんてなくったって、めっちゃ楽しく合奏できちゃうんだぜ!」と、誰もがドヤ顔をして演奏に参加していたと思います。

ところがラグタイムの何周目かの演奏がエンディングに差し掛かった時、私の先生が1階と2階をエライ勢いで走って巡回し始めました。そして各練習室を「子供たち〜!どう?みんなこれで気が済んだ?さ、じゃ、また自分たちの曲を、練習!練習!まだまだな仕上がりでしょ?」と言って回ったのでした。

その声で私たちは急にシュンっとなり、ラグタイムセッションはあえなくジ・エンド。私たちはまた、自分たちに与えられた曲に素直に戻り、それぞれ黙々と練習し始めました。まるで何も起こらなかったかのように、、、。

本当に、「子供たち〜!」という先生のあの独特な呼び方には、「一瞬にして我々を鎮圧し、おとなしくさせる何か」がありましたね。(笑)



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