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わたしは、何に怯えているのだろう。

「素敵な人」がわからなくなってしまった。

素敵だなと思う人はたくさんいるはずなのに、「素敵な人」は誰かと聞かれると、さっきまで浮かんでいた顔たちはぼんやりと霞み、思うように言葉が出ない。

胸がざわざわとして不安になる。
わたしはいったい、何に怯えているのだろう。

◆ ◆ ◆

第4回目の「言葉の企画」の課題で、「あなたの素敵な人について書いてください」というお題が出たとき、思い浮かんだ人は何人かいるのに、いざ書こうとすると誰についてどう書いたらいいかわからなくなってしまった。

あれ、あの人のこと素敵だと思ってたはずなのに。
この人のこともずっと憧れていたはずなのに、何で書けないんだろう。

急にひとりぼっちになったような、真っ暗な気持ちになった。
素敵だと思っていた気持ちさえ嘘だったのかもしれないと、自分自身で疑ってしまって、悲しくなった。

いや、ちがう。素敵だと思った気持ちは本当で、だけど、「素敵な人」と定義してしまうのが怖いのだ。

それはたぶん、大学のときに平野啓一郎氏が提唱する「分人主義」に触れて以来、自分が見ているその人は、その人の一面でしかないと思ってしまう節があるからだと思う。

人間はただひとつの「個人」ではなく、相対する他人それぞれに異なる自分が存在する。

それが、「分人」という概念だ。

つまり「たったひとりの本当の自分」など存在せず、それぞれの人に見せる自分すべてが本当の自分である。それでいい。

だから人によって態度がちがうのはあたりまえで、「どれが本当の自分だろうか?」と悩む必要はないのだと平野氏は説いている。

この考え方は、大学生だったわたしを救ってくれた一方で、苦しくさせた。

それぞれの人に見せる異なる自分というものが存在するなら、わたしの知っているあなたは、結局わたしの前でのあなたでしかなく、あなたの全てを知ることはできないということだと思ったから。

たとえ家族や親友、恋人ですらお互いにお互いを完全に知ることができない、理解し合えないということは、わたしにとって結構な絶望だった。

そのせいか、ある面を見て素敵だと思っても、その人を「素敵な人」とまるごと定義してしまうことが、何だか不安で、怖いと思ってしまうのだ。

その人を疑っているというわけではなくて、はじめから相手をすべて知りえないとわかっているからこそ、ひとつの枠にはめこむことを躊躇ってしまうのだと思う。それはたぶん、わたしが「素敵」に限らず「〇〇な人だよね」という言葉に敏感であるひとつの理由だ。

素敵だと思う気持ちは本当なのに、あの人は素敵な人だ、とどこか言い切れない自分がちょっと寂しくて、悲しかった。

自分には見えないいろんなその人がいたとしても、自分に見せてくれている素敵な部分を、見たままに素敵だと思えた方がよっぽどしあわせだ。

結局、「〇〇な人」という枠にはめこみながらも、自分が知らないその人を知ったときに、自分が傷つくのを極度に恐れていることに気がついた。
言葉や概念にがんじがらめになって、頭で考えすぎていたのかもしれない。

他の人は知らない、その人の素敵な部分を知れただけで、十分じゃないか。
それもまた、その人にとっては「本当の自分」のひとつなのだから。

ずっともやもやしていたけれど、このややこしい自分の感情に正直になってみると、何だかすこし楽になったような気がした。

◆ ◆ ◆

第4回目の講義を終えて振り返ってみると、先の課題の文章は、やっぱりちょっと腰が引けていたと思う。

それでも書きたい気持ちに任せて書いたら、「素敵な人」として取り上げたご本人が、記事を見て喜んでくれた。読んで感想をくれた人たちがいた。それがたまらなくうれしかったと同時に、もっともっと頑張りたいと思った。

これからは相手に対して、どこが素敵だと思ったのか、もっと言葉選びに執着してちゃんと伝えたい。誰かを「〇〇な人」というひとつの枠にはめこむことには、やっぱり息苦しさを感じてしまうけれど、でもその奥にある感情を言葉で一緒に伝えることはできる。

もっと肩の力を抜いて、目の前の人にまっすぐに向き合えるようになりたいな。これは、わたしの人生におけるひとつのテーマかもしれない。

最後に、印象的だった阿部さんの言葉を。

読み手の心を、ぶん殴るつもりで書くこと。

驚かせたい。ワクワクさせたい。そして自分も相手もうれしくなるようなものを書き続けたい。この気持ちは、この先もずっと忘れずにいようと思う。

「言葉の企画」も残りあと2回。
気づけばもう、1年の1/4の時間が過ぎた。

毎回なかなか書けなくて情けなくなるけれど、最後まで自分をあきらめずにいたい。へこたれそうになっても立ち上がりたい。

負けるなよ、わたし。

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