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コント台本 『ラジオブース』

※この内容は元々、コントの台本として書こうと思っていた設定をあまりにも自分で気に入りすぎて「これは是非小説として長尺で書きたい」と思ったところ、書いている内に思い付いた別の展開や、本来コント台本として使おうと思っていた設定も用いていわゆる「別ルート」的な感じでコント台本としても作成してみたものです。
 どちらも自分が面白いと思ったものを投稿させて頂いてますが、設定が命すぎる内容ではあるので小説版→コント台本版の順番で読むことをおすすめしています。短編小説とはいえ小説なんて読んでらんねーよという方は小説のダイジェスト版とも言うべきこちらのコント台本版だけでも読んで頂けると嬉しいです。






A「ーーこんなこと言ったら俺、また変なキャラ付け始めたんじゃないのかなんて言われると思いますけど、俺、実は見えるんですよね。ユーレイ」

A「これリスナーの皆さんはまたA、会社の人間誰も聴いてないからってまたテキトーなこと言い始めたなんて思ってるんでしょうけど、残念ながらこれ、ホントのことなんですよね」

A「皆さんも一度や二度親族のお葬式に参列したことがあると思うんですけど、学生のリスナーさんはもしかしたらまだ経験ないかな? そういう幸せな葬式童貞の方々はご存じないかもしれないですけど意外と明るいもんなんですよね、お葬式って。寿命で亡くなられたような、天寿を全うされたなんて方のお葬式は特にね」

A「…でね、そうじゃない不幸な理由で亡くなられた方のお葬式っていうのはそれはそれはもの悲しいものなんですよ。実は俺、中学生くらいの時にクラスメートが亡くなったことがあって。病気でね。学年じゅうの生徒がお葬式に参列するんですね。で、その亡くなったクラスメートとそれなりに会話したことのあった俺も当然そのお葬式に参列して。…凄かったですね。何がって空気が。病気でまだ成人もしていない息子を亡くしたご家族の、誰を憎めばいいのかすら定まっていない、その今にも爆発するんじゃないかっていう思いが、例えるのは失礼だなんて重々分かっていますけど、職業柄言わずにはいられないというか。まあ、もう時効だとは思うんでね、いや、時効なんて無いのか…。まあ、もう『シン・ゴジラ』なんですよ。言っちゃうと。爆発寸前の。…まあ別にそんな溜めるようなものでもなかったから電波の向こうでも多分スベってると思うんですけど。爆発しないように少しずつ漏れ出てるんですよ、涙とかでね。でもそんなものじゃ全く抑えられない思いが、悲しみが、思念の強みが重力のようにその場を支配するんですよね。で、その光景を至近距離で見ていた俺はこう思ったんですよね。…ああ、ユーレイって実際にいるんだろうなって。だってそうじゃないですか。比べるようなものではないとは思いますけど、きっとこの出来事よりも恐ろしくて残酷なまでのリアルっていうのがこの世の中には少なからず存在していて、強すぎたその思念の残滓が現世にこびりついてしまったのが俺たちの言うところのユーレイだと俺は思っているんですよね」



B「はい休憩でーす! いやー、Aさん意外と一人喋りもできるんすねー。今回はお試しで臨時ゲストも呼ばずにAさん1人でやって頂きましたけど、これならCさんが来れない場合でも何とか成立できそうですね!」

A「幾ら予算が無いからって無理やり褒めて出費を抑えようとしないでくださいよ…。ただでさえ作家のBさんが音響とディレクターも兼任しているっていう脅威の三輪低予算ラジオなんですから」

B「今日はまさかまさかの二輪ラジオですからね! まあ三輪よりは速そうというか実際速かったんですけど、地方のラジオ局とはいえワンオペラジオはマジブラックっすよねー。どう勘定しても呼んだゲストの方に始発の交通費くらいしかお渡しできなかったのでマジ助かりました」

A「念のためピンでのトークライブを続けてて良かったです。…そういえばBさん、このラジオ番組の過去のアーカイブを有料で販売し始めるって正気ですか? 何か凄い威勢の良い啖呵を公式サイトで切っていた気がするんですけどいつの間にか削除してません? それに、昼の帯ラジオを担当しているあのタレント、元々ここのラジオ局の親会社に勤務していたってもっぱらの噂ですけど」

B「…そういえばAさん。実はこのラジオ局で昔、ちょっとした事件があったのをご存知ですか? 昔、このラジオ局で殺人事件があったらしいんですよ。ラジオパーソナリティーがファンによって殺されてしまうという痛ましい事件がね。その犯人、何でもラジオパーソナリティーを殺害した後にこのラジオブースで自殺したらしいですよ?」

A「…怖い話を利用して話をはぐらかそうとするのやめてもらえません? 多分いの一番にBさんが取り殺されると思いますよ、そのラジオリスナーのユーレイとやらに」

B「僕は音響も担当しなくちゃならないのでラジオブースではなくサブ室にいるから大丈夫ですって! それに、呪いの対象はあくまでラジオパーソナリティーなんで絶対にAさんの方が危険だと思いますよ!」

A「まあ死にさえしなければトークのネタになるんで別に良いですけど。…っていうかこのゾーン、毎回4時44分から再開してません? 凄い不吉なんですけど」



A「皆さん気付いてました? 毎回このゾーン、4時44分から再開してるんですよ。不吉すぎません? …ってアレ、Bさん、もしかしてですけどあの時計壊れてないですか? さっきからけっこう喋ってるつもりなんですけど一向に4時44分から動かなーー」

(4時44分を指したままピタリとも動かない時計に気付き指摘するも、同様にピタリと動かなくなってしまったBを見てドッキリを疑うAだが、自身の発声のスピードがいつの間にか淀みなく動き続ける思考に大幅に遅れをとっていることに気付く)

Aの心の声『突然動かなくなってしまった時計とBさん。意味不明な理由で欠席しているCも踏まえればドッキリをかけられていると考えるのが妥当だが、残念ながら俺らクラスの若手芸人にかける理由が見当たらない。このラジオ局のSNSに上げる用の動画にしてはドッキリのレベルが高度すぎるし、ただでさえ予算がないにも関わらず時計を細工したり肉眼で見つけることができないようにカメラを設置することなんて不可能だ。ーーということは、まさか心霊現象?』

(無限にも感じる時間の中、Aはようやく時計の針が4時45分を指し示したことに気付くと、冴えすぎた脳によってある一つの結論に辿り着く)

Aの心の声『やっぱりそうだ。ようやく時計の針が4時45分を指し示した。ほんの少しずつではあるが、時間は着実に進んでいる。これはドッキリでもなければ夢でもなく、はたまた心霊現象というわけでもない。俺は芸人になってから未だ芽は出ていないが、少なくとも空いた時間があればサボらずに努力をし続けてきたつもりだ。小さいラジオ局ながらもレギュラー番組も決まって、同期の中では先頭を走っているという自負もある。とはいえ、ラジオ番組で固くなりすぎるのも良くないと考えて出来る限りリラックスをするように心がけてきた。そして何より、今日はすこぶる調子が良い。これってつまりーー』

A「ーーもしかして俺、ラジオのオンエア中にゾーンに入って抜け出せなくなってしまったのか…?」

Aの心の声『スポーツ選手のインタビューかなんかで「相手の動きが止まって見えた」なんて言っていたのを見たことがあるが、まさか地方のラジオのオンエア中にゾーンに入ることになるなんて思いもしなかった。何となく、ゾーンってスポーツ選手のみが会得することのできる特殊技能だと思っていたが、お笑い芸人も到達可能なんだな…。ゾーンを使えば大喜利やトークの返しなんて考え放題だが、もしかして第一線で活躍している先輩方はみんなゾーンを会得している…? まさか、「IPPONグランプリ」に出場するにはゾーンが必須条件なんてことはないだろうな…』

(Aが絶望に打ちひしがれる中、動きが止まっていたはずの和泉がイヤモニを通して話しかけてくる)

B「ーーん! ーーAさん!」

A「へ…?」

B「僕もゾーン入れました! 放送作家ゾーンです! いや〜マジメに放送作家やってきた甲斐がありましたよ〜!」

A「嘘でしょ…? まさかBさん、能ある鷹は爪を隠すタイプの作家さんだったんですか!? 正直、年内には飛ぶだろうなと思ってましたよ…」

B「せっかくパーソナリティと放送作家が同時にゾーンに入ったんですし、いっちょ神回ってやつ、作ってやりましょうよ! …ホラ、見てください! 僕たちと同じようにゾーンに入ったリスナーから次々とメールが届いてますよ!」

A「…よし。時間は無限にあるんだ。こうなったらとことんやってやるか! ーー待てよ? ゾーンって一体いつになったら終わるんだ…?」

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