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「マズローの5段階欲求」に殺されかけたお話。


大勢の人がいる空間で、私はよく気が滅入る。

HSPな私の心が危険サインを出している。このままじゃあなた、しんどくなっちゃうわ、と。
そんな時は、鳴り響くアラームを鎮めるべく「一人」の時間を増やす。早朝の散歩は癒やしの時間。それにスマートフォンの通知をOFFにしたまま観る映画なんかも良い。布団の中、好きだったプレイリストを流して懐かしむのも効果的だ。なにかに没頭することで、漠然とした不安から自分を切り離す。そうしてある程度時間を置くと、ちょっとだけ世界が晴れてくる。

最近の散歩では「街を一望できる木造のひなびたベンチ~新緑の木漏れ日を添えて~」って感じのスポットを発見してしまい、テンション上がった。休日に文庫本を持って読み耽ったら、きっと気持ちいいに違いない。そんなささやかな気付きもあったりする。

でも、これらで心を充足させたとして、それまでの積もったストレスが全部なくなるのかと聞かれれば、正直微妙だ。きっと見えないしこりみたいに、不安のタネが心の片隅にポツンと取り残されている。人波の中の誰かに触れられてしまえば、また激しい痛みとともに全身に不安が駆け巡る。根本的には何も解決していない。「お一人様」によるデトックスで本当に寛解したのかどうか、当人が自覚することは大変難しい。


私の大嫌いな「マズローの欲求5段階説」

有名な「マズローの欲求5段階説」になぞらえるなら、生理的欲求、安全の欲求が満たされた先は、社会的な欲求。「人との繋がり」もまた回復に必要なこととされている。

CBLコーチング情報局より。

しかし、私はこのマズローの欲求理論が大変苦手です。
いえ、苦手どころかキライです。
いえ、キライどころじゃありません。
親の仇みたいな憎悪すら抱いています。

理由は後述しますが、比較的メジャー級の認知度を誇るこの理論は、現代人を追い詰めやすい構造になっています。正直、教科書に載せるのもいかがなものか、とすら思っている。

個人的には、アルダファーのERG理論を推したい。

アルダファーのERG理論とは?マズローの欲求5段階説との違いを図解

クレイトン・アルダファー著「Existence, Relatedness, and Growth; Human Needs in Organizational Settings(存在、関係性、そして成長;組織環境における人間の欲求)」によって広まったモチベーション理論。

例えば、ある人がキャリア上での成長(成長のニーズ)を目指しているが、何らかの理由でその目標を達成できない場合、その人は社会的関係や友情(関係のニーズ)により多くのエネルギーを注ぐようになるかもしれません。
同様に、社会的関係が満たされない場合、人は物質的な安定や生存に関連するニーズ(存在のニーズ)に注目を移すことがあります。

存在、関係性、成長、それぞれの頭文字をとってERG理論です。
ある欲求が満たされないと判断された場合、ニーズが他の欲求に移り変わるのがERG理論のポイント。

「ERG理論」から紐解く。

今回の話をERG理論に当てはめてみましょう。

まずは人波の中でうんざりしてしまったHSPな私、から物語が始まります。
一番困るのは自分自身から「成長欲求」が失われてしまっていること。「どうやったらこの苦しみを減らせるだろう…」とか「なるべく目立たないように過ごさなきゃ…」とか、すごくネガティブな方向に走ってしまうんですよね。最悪を想定しては身を震わせる毎日。

成長欲求が叶わないと判断された場合、人は無意識に欲求のフォーカスを下位の段階「人間関係の欲求」に移します。ですが、そもそも「人波にうんざりしている」のですから、この段階を満たすことは現時点では難しい。すると欲求は更にニーズを切り替え、原初的かつ生理的な要素「存在欲求」に移ります。

心理学ではこの心の働きを「フラストレーション・リグレッション」と呼びます。極度のストレス(フラストレーション)を受けると、不安や衝撃から心を護る為に退行化(リグレッション)する。同時に、欲求も退行現象を起こし、幼子のような原初的な欲求の充足から遡っていくのです。そうして徐々に満たされ、本来自分のいた欲求段階まで戻ろうとする力強い心の働き、そこにマズローの定理を結びつけた考え方が「ERG理論」の基礎となっています。え、めっちゃ好き。推しです。


「存在欲求」=「自分の核」となる部分の充足が目的です。
私にとっての散歩や映画、その他好きなことへの没頭を指しますね。
(ああ、自分はココに居る、休めている)と実感が湧くことで、ここまで譲歩してくれた欲求に安らぎを与える。そうして存在欲求が十分に満たされると、再びニーズが上位欲求にフォーカスを移すことになる。理論に従うなら、次は「人間関係の欲求」でしょう。

「ぶっちゃけトークをしよう」

落ち込んだ直後の私の切り口といえば、大体が決まってこれ。
ありがたい事に、この無茶振りに応じてくれる友人がいる。でも始まってみれば私は聞き役的なポジションが多い。この時の主役は私でなくともよいのです。友人が安心して赤裸々に物語を語ってくれる。そうすると私もなんだか頼られてる感じがして温かい気持ちが湧く。
注目すべきは、既に満たされた「わたしの存在欲求」よりも「今この場にわたしとあなたがいる時間」を体感すること。私は、そんな時間を共有するとすごく安心感を得ます。そうして「人間関係の欲求」が満たされて、はじめてより上層のレイヤー(成長欲求)を目指す準備が整う。ここまで来たら、寛解した、とか本調子に戻った、といってもいいかもしれませんね。

・・・

マズローの定義では、段階を踏んでいない上位の欲求は「本物」ではないと断じられることになってしまいます。そもそも欲求が不可逆なものだと定義されているのも不自然です。生理的欲求が満たされなくとも私達はコミュニティで社会的な生活が送れるし、安全が確保されていなくても承認欲求は自然と湧きあがる。

欲求の振り替えが想定されている「ERG理論」は、より私たちに寄り添った人間味のある理論だと私は感じるのです。今日も私は友人たちの力を借りて、前を向くことが叶っています。本当に、人は一人では生きられませんね。心から、それを体感していますし感謝してもしきれません。


マズローに殺されかけた話

ここで、そんな私がこの「マズローの5段階欲求説」に殺されかけたエピソードをひとつ。

ある時、私生活がどうにも上手くいかず、右も左もわからないほど錯乱していた時のことです。当時、無遠慮に何度も泣きついていた友人から

「甘えるな」

と一蹴されたことがありました。

もちろん、言葉をかけられた瞬間は激怒したし哀しみのドン底まで沈みました。そこから、この言葉が呪いのように私の頭にこびりついた。当時、覚えたばかりのマズローの5段階欲求をボーっと思い出す。そうか、まずは生理的欲求を満たさなければ、人に想いを打ち明けることも、赤裸々に相談することも許されないのかと。

そうして始まった我慢の日々。
ですが、いつまでたっても生理的欲求のタンクが満たされることはありません。食事低下、不眠、イラ立ちからの性欲増加。どれもまったく満足いかない精神状態でした。それでも、なんとかしないといけない。そういってもがけばもがくほど、状況は悪化していきます。

…実のところ、ここらへんのエピソードはよく覚えていません。私自身のそのあたりの記憶が3ヶ月程ないのです。何をしていたかと聞かれれば、きっと何もしていませんでした。

復調したキッカケは、なんだったでしょうか。それすら良く覚えてないんですが、とにかく私は「マズローの5段階欲求に殺される」と思っていたことは確かです。復調を境にして、私はマズローの5段階欲求を捨てることにしました。
自分の状況や、病気のこと、いろいろなこと、「話を聞いてもいい」と言ってくれた人にカミングアウトしました。離れていく人もたくさんいたけれど、それでも最後まで残ってくれた人もいた。今の数少ない友人たちです。

そんなエピソードを経て、慎ましいながらもなんとか生活を送れているのが今の私です。本当に感謝ですね。

「甘えるな」の呪い。

欲求は、時に自分の環境をめちゃくちゃにしてしまいます。
でも、欲求はフレキシブルに組み替えられる。それを教えてくれたのは「RGB理論」ももちろんですが、無条件の肯定的関心を示してくれた友人たちです。
「甘えるな」と私に伝えた元友人とは、とっくに縁を切っています。いえ、どちらが悪いとかじゃありません。私にもあの人にも余裕がなかった。

そして、最後に一つ私から伝えたいメッセージがあります。
失意のどん底に沈む人へ「甘えるな」と声をかける前に、他に伝えられることはないだろうか?

そのことを、よく、よく考えてほしいのです。

・・・

言葉は、その姿形一つで相手を呪う。
ときには死よりも苦しい思いをさせる。

仮に、あなたの前に錯乱状態の友人が現れたとして「あなた友達でしょ?!なんとかしてよ!私を助けてよ!」と懇願してきた時、あなたなら、どんな言葉をかけられるだろうか。

私は、ずっとそんなことを考え続けている。





🍩暗い話をごめんなさい!
 せっかくだから、ちょっとだけ気分直しに。
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