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古き良き特撮映画の魅力

映画における特殊効果をSFXという。そのSFXがメインとなる作品、例えば怪獣映画や宇宙船が登場するSF映画を、特撮映画と呼ぶ。

ただ、映像技術においては、SFXとよく似たVFXという言葉もある。また、CGや3DCGもよく聞く言葉だ。

これらの違いは何なのか?今回、その違いから見ていくことにする。

映像技術のそれぞれ

それぞれの用語の意味は、以下となる。

SFX

Special Effects(特殊効果)のことで、撮影前に特殊な処理を施す映像技術のこと。例えば、怪物などの特殊メイク、怪獣が破壊する街のミニチュア、また、7年の歳月をかけて作り注目を浴びた『JUNK HEAD』(2021年)で用いられているストップモーション・アニメーションなどがある。

VFX

Visual Effects(視覚効果)のことで、撮影後、映像を加工する映像技術のことを指す。今の映画だと、多かれ少なかれ多くの作品でVFXが使われている。

CG

Computer Graphics(コンピュータ・グラフィックス)のことで、コンピューターによって画像を作る技術、もしくは作成した画像のことを指す。VFXでメインに使われる技術となる。

3DCG

3次元コンピュータグラフィックス(three-dimensional computer graphics)のことで、縦・横・奥行きのある3次元画像を作成する技術及び作成した画像のことを指す。実写映画におけるCGでメインに使われる技術となる。縦・横だけの2次元の場合は、2DCGである。

映像技術まとめ

これらの関係性を図で示すと以下のようになる。

映像技術の関係性

シンプルに言えば、SFXは撮影前、VFXは撮影後、CGと3DCGはVFXの技術ということである。

シャッターを切る前に、カメラの感度や絞り、シャッタースピードを調整するフィルムカメラはSFX的で、撮影後、アプリで写真にフィルターをかけたり、Photoshopで画像加工するのがVFX的ということになる。

もしくは、油で揚げる前、肉に味付けする唐揚げはSFX 的で、揚げた後、衣に味付けするフライドチキンはVFX的ということである。

SFXの魅力

映画製作において、現在主流となっているのはVFXである。コンピューター技術が発達した現在、ほとんどの作品といっていいくらい、VFXは用いられている。

だからといって、SFXは過去の物というわけではない。最近の映画でも、SFXは用いられている。『スター・ウォーズ』の新三部作や『007』シリーズ、『スパイダーマン』シリーズなど、SF大作においてもSFX技術は使われている。

また、SFXの歴史は非常に古く、1895年の映画誕生後すぐに、SFXによる作品が作り出されていく(実際、最古のSFX作品は、リュミエール兄弟による初の映画公開以前、エジソンによって作られている)。

古い時代から、作り手たちの相違工夫により作られてきたのがSFXである。そのようなSFXによって作られたのが特撮映画である。それらは、ただ古臭いといって忘れ去られるべき物ではない。確かに昔の特撮映画は、今の作品と比べると、リアリティに欠ける。チープである。作り物感がする。

しかし、その作り物感は手作り感とも言え、温もりのようなものを感じさせてくれる。映画はリアリティがあればよいということではない。古い特撮映画に見られるチープさや作り物感もまた、魅力である。

作り手の工夫と努力が直接的に感じられる手作り感こそ、特撮映画の魅力である。

そんな、古き良きSFXを堪能できる映画を紹介したい。

キング・コング(1933年)

日本のゴジラと並ぶ怪獣界のスーパースター、キング・コングが初登場した作品である。

太古の生態系が残る髑髏島に住むキング・コングを、都会から来た映画監督が見世物興行のためニューヨークへ連れて帰り、そこで大騒動が起こる。

キング・コングの動きは、ストップモーション・アニメーション(静止している人形を少しずつ動かし、1コマ毎に撮影する手法)で作られており、ハリウッドの特撮技術の主流となっていく。

有名なエンパイア・ステート・ビルによじ登って戦闘機と戦うシーンをはじめ、ストップモーション・アニメーションのカクカクした絶妙な動きが、ジワジワくる味わいを感じさせてくる。

空の大怪獣ラドン(1956年)

ハリウッドの特撮がストップモーション・アニメーションが主流となるのに対して、日本の特撮は、着ぐるみとミニチュアである。精巧な着ぐるみとミニチュアによって、ストップモーション・アニメーションにはない実物感を作り出したのが、特撮の神様・円谷英二となる。

円谷英二は、ゴジラを始め多くの特撮映像を手掛けたが、その中から何か一本となると『空の大怪獣ラドン』をあげたい。

『空の大怪獣ラドン』は、東宝が手掛けた初の特撮カラー作品となる。ミニチュアを始めたとした当時の特撮技術では、白黒映画だとごまかしが効く部分があるのも事実だった。『ゴジラ』(1954年)もやはり、白黒である。

そうした中、『空の大怪獣ラドン』では、カラー化に対して円谷英二の並々ならぬ情熱が感じられる。ラドンが福岡の街を襲うシーン。建物一つ一つ一つの汚れ具合など、精巧に作られたミニチュア世界が堪能できる。

2000人の狂人(1964年)

残虐描写が売りのスプラッター映画といえば、『死霊のはらわた』(1981年)を思い出す人も多いと思うし、実際、『死霊のはらわた』はその後80年代のスプラッター映画の流行を作った作品でもある。

しかし、スプラッター映画の開祖は、ハーシェル・ゴードン・ルイスである。もともと、低予算のセクスプロイテーション映画(エロが売りの映画)を作っていたH・G・ルイスは、次第にエロからグロへと作品を変えていく。流血シーンや人体切断といったグロシーンをメインにした、スプラッター映画の誕生である。

そんなH・G・ルイス作品の代表作ともいえるのが『2000人の狂人』だ。

アメリカ南部の田舎町を舞台に、村人たちが、北部からやって来た旅行客を村に誘い込み、斧で人体切断したり、手足を馬に引きちぎらせたり、巨大な岩盤で押しつぶしたり、やりたい放題の作品である。

これら残虐描写は、今から見るとかなりチープだし恐怖を感じる域にはない。

しかし、ヘラヘラ笑いながらハイテンションで惨殺していく村人たちの不気味さや、カット割りも面倒ということなのか、やけに長回しを多用するおかしな撮影&編集とともに、アナログな特殊メイクによる、作り物感満載の残虐描写を楽しめる。

シンドバッド黄金の航海(1973年)

日本の特撮の神が円谷英二であれば、ハリウッドの特撮の巨人は、やはりレイ・ハリーハウゼンである。

そのハリーハウゼンのストップモーション・アニメーション技術が結集したのが『シンドバッド黄金の航海』といえる。

ハリーハウゼンのシンドバッド三部作の二作目にあたる本作は、秘宝を求めるシンドバッドの冒険が描かれ、魔術師クーラが敵となる。

そのクーラが放つ怪物たち、ケンタロウスや六本腕の異教の神カーリなど、ストップモーション・アニメーションで描かれたそれらは、実に滑らかな動きで、ハリーハウゼンの妙技を堪能させてくれる。

HOUSE ハウス(1977年)

CGが登場する以前、特撮において欠かせない技術が、光学合成だった。

光学合成とは、複数のフィルムを一枚のフィルムに焼き付け新たなフィルムを作り出す技術のことで、ウルトラマンのスぺシウム光線のアレである。ただ、複数のフィルムを単純に重ねるだけだと重複してしまう部分が出るので、重ねたい部分以外はマスクする作業が必要となる。

これらは基本、手作業で行われ、そのため光学合成は緻密な職人技が必要とされる作業だった。そういった作業を機械化していき『スター・ウォーズ』では、実にリアルな特撮映像を作り出している。

しかし、『スター・ウォーズ』と同時期に作られた大林宣彦監督の商業映画デビュー作『HOUSE ハウス』は、リアリティの追求とは真逆の作品である。

原始的な光学合成によるシュールでヘンテコな映像のオンパレードで、その作り物感満載の映像は、衝撃なのか笑撃なのか、ストーリー云々は忘れ、その大林世界にただただひれ伏すことを余儀なくされる作品である。

マーズ・アタック!(1996年)

ティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』は、地球に襲来した火星人との戦いを描いた作品で、空飛ぶ円盤や火星人はCGで作られている。

しかし、それらの動きが古臭い。ストップモーション・アニメーションの微妙にカクカクとした、あの動きなのである。

これは、古き良き特撮映画が大好きなティム・バートン監督が、CGであえてストップモーション・アニメーション的な動きを作り出したためである。

そうして作られたティム・バートン風のSF大作は、空飛ぶ円盤も火星人も見た目からしてチープで、動きもぎこちない。しかし、それこそがこの作品の魅力で、ティム・バートンが作りたかった世界でもある。

映画はリアリティがすべてじゃない。それを、当時最先端のCG技術であえて古い特撮映画を作った『マーズ・アタック!』からも、教えられる。

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