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人物の位置を見ればミステリーが解ける!?配置と動きの効果

映画においては、当然ながら人物が登場する。

人物は画面の中に配置される。そして、動きがつけられる。この配置と動きは、観客の心理に影響を与える。映画では、その心理効果を狙って、意図的な配置や動きの表現が行われている。

配置と動き。これらがどのような心理効果があり、また、映画においてどのような表現がなされているか、考えていきたい。

犯人はどっちだ?

仮に、サスペンス映画で、以下のようなシーンがあったとする。

このシーンを見て、犯人を当てることが出来るだろうか?

白人物が左から右へ移動する。黒人物が右から左へ移動する。最後、二人が向かい合う。

得られる情報はこれだけである。これだけの情報で犯人は誰か?と聞かれたら、どう答えるべきだろう。白人物だろうか?それとも、黒人物だろうか?

答えは、黒人物が犯人である。

時間は左から右に流れる

テレビゲームのスーパーマリオは、常に左から右に進んでいく。カレンダーの日付も左から右である。このように、特に西欧文化においては(明治以降、西欧文化の影響下にある日本も同様)、通常、時間の経過は左から右への移動で表現される。時間に限らず、生活に馴染みある物事の方向は、左から右となっていることが多い。アルファベットによる文章も右方向に進んでいく(そうすると日本語の文章は、縦書きで右から左へ進んでいく。小説や漫画も左開きである。そのため、日本人の感覚は西欧の感覚とは異なる部分があるのかもしれない)。

そのため、映画においても、人物が左から右へ移動すると、観客は自然な動きと感じる。しかし、その動きが逆になると、観客は違和感を感じる。無意識のうちに、不安や恐怖、悪といったマイナスイメージを植えつけられるのである。

そのような効果があるため、ホラーやサスペンスをはじめ、多くの映画で、不安や恐怖を感じさせる場合、人物を右から左へ移動させる演出を行う。

上記のシーンで、右から左へ移動しているのは黒人物である。つまり、黒人物が不安や恐怖の対象となる。

そのため、(この3つのカットだけの情報であれば)犯人は黒人物と考えられるのである。

犯人はどっちだ?(2)

では、以下のシーンでは、犯人はどちらだろう?

白人物が左から右、黒人物が右から左へと、人物の移動方向は同じである。しかし、最後のカットが異なる。

この場合、犯人は白人物である可能性が高い。

人物が横の関係でなく、縦の関係で配置された場合、上にいる人物の方が、そのカットにおいて力のある(支配力が強い)人物である。これも、観客に無意識にそのような印象を与える。

上記シーンでは、最後のカットで、人物の左右の位置関係が逆転している。さらに、白人物の方が力がある。崩れた力関係である。そのため、観客は強い違和感を感じることになる。つまり、何かある、と感じさせるのだ。

そうなると、本来、右から左へ移動した黒人物が犯人と考えられるが、実はそうではない、どんでん返しで白人物が犯人だ…ということになるのである。

配置と動きを意識して映画を観てみる

これら人物の配置と動きは、映画文法における王道のセオリーであり、全ての映画がこのセオリーに従っているわけではない。また、意図的にセオリーと異なる演出を行う場合もある。

ただ、映画において、人物の配置や動きは、何かしら意味があり効果を狙っている(必ずしも全ての映画がそうだとは限らないが)。

実際には、注意深く配置や動きを意識して見ないと、その意図的な配置や動きに気がつくことはなかなかない。ただ無意識に、不安や安定といった心理が生まれるだけである。そして、その無意識の不安や安定が、ストーリーや台詞によって、大きな感動や恐怖を観客に与えることにつながっていく。しかし、時に、注意して配置や動きを見ると、作り手の意図が見え、また、緻密に計算された画作りに感嘆する。

このような配置と動きを巧みに用いて、観客に恐怖や驚き、ハラハラを与えてきたのが、ヒッチコック監督である。

そのため、ヒッチコックは「サスペンスの神様」なのである。

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