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0歳児も映画館で映画を楽しむ 前代未聞のプロジェクトに挑んだ3人の想いとは

映画において、おもしろい作品を作りさえすればいいというわけではない。興行成績を伸ばすためにはできるだけ多くの人々に映画館で観たいと思わせることが必要不可欠。そんな映画やODS(非映画デジタルコンテンツ )の配給・宣伝・劇場営業に取り組んでいる、ローソンエンタテインメントエンタメライツ営業部配給チームの3人に、最大のチャレンジについて語っていただきました

喜多 裕江
2019年入社。配給チームリーダー。出資業務、ローソン エンタテインメントカンパニーも兼任。前職では子ども向け人気キャラクターの権利営業やイベント企画運営などを担当。最近のお気に入りの映画は『くるりのえいが』。
 
秦 桃子
2019年、新卒で入社。2年間の出資業務を経て現職。『ワイルド・スピード』シリーズがお気に入り。
 
神内 孝枝
2020年入社。16年の興行会社勤務を経て現職。近年最高の映画は『THE FIRST SLAM DUNK』。

3人1チームで仕事に取り組む

──現在の仕事について教えてください。

喜多裕江(以下、喜多) 3人1チームで、1つの映画やODSの配給・宣伝・劇場営業など公開までの全ての業務を行っています。チームリーダーは私ですが、作品ごとに「宣伝プロデューサー」というリーダー的役割を3人の中で1人決めています。各業務ごとに専門の担当が決まっているわけではなく、作品ごとに担当する業務が変わるので、全員がすべての業務に携わっています。映画・ODS配給については2020年に立ち上がったばかりで、徐々に公開規模やジャンルを広げながら新規作品にチャレンジしています。

──これまででチームとして一番のチャレンジだったと思う仕事は?

喜多 それはもう満場一致で、『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』という映画の配給です。
(テレビ東京系列で現在も放送している民放初の0~2歳児向け番組「シナぷしゅ」の劇場版)

2020年からテレビ東京さんと一緒にスタートしたプロジェクトで、2023年5月に「シナぷしゅ」初の映画として公開されました。

──そのプロジェクトの最大のチャレンジだったポイントは?

喜多 『シナぷしゅ THE MOVIE』は対象年齢を0歳児から、しかも、鑑賞料金を一律1,000円として、0歳児にも座席を用意し料金をいただくことにしました。これまで0歳児が映画館で映画を観る、しかも1人のお客さまとして料金をいただくという映画はおそらくなかったので、どうやってすべてのお客さまに納得感をもっていただき、0歳から楽しめる映画にするかが最大のチャレンジでした。

0歳児と映画館に行ってみよう!と思っていただくために

──0歳児からお金をいただくというのもなかなか思い切った施策ですね。

秦桃子(以下、秦) そうですね。すごく難しかったのが、「0歳児も有料」という情報を公表するタイミングでした。やはり本取り組みは新しいチャレンジでしたので「0歳の赤ちゃんにも料金がかかる映画なのか」という考えをお持ちになる方もいらっしゃるかもと思いました。そのため、「0歳児も有料」ということについて、お客さまに納得していただくためにどうすればいいかをテレビ東京さんと考えて、まずは入場者プレゼントとして小学生以下のお子さまに「ぷしゅぷしゅタンバリン(小さいタンバリン)」を先着配布することにしました。それが決まったタイミングで、“0歳から楽しめる”、“0歳児も主役になって映画館デビューできる”というこの映画のコンセプトと入場者プレゼント情報と一緒に、「大人も子どもも0歳から一律1,000円」という鑑賞料金設定を公表したんです。

──入場者プレゼントをタンバリンにした理由は?

喜多 ご家族にとって、赤ちゃんと一緒に映画館に行くハードルを上げてしまう最大の理由は、泣いてぐずってしまう可能性が高く、上映中に他のお客さまに迷惑をかけてしまうのではないかということ。この不安を打破するために、テレビ東京さんと協議を重ねて「泣いたって大丈夫」というメッセージを伝えるとともに、最初から音が鳴る物を入場者プレゼントとして配布したら、皆さん安心して気軽に映画館に来ていただけるのではないかという結論になり、タンバリンにしました。

──赤ちゃんがいるご家族のこともよく考えたのですね。

喜多 個人的に一番チャレンジングだったのはそこで、いかにご家族に小さなお子さんと一緒に映画館に行ってみようという気持ちになっていただくかということ。ただ、私たち3人、誰も実際には子どもがいないので、ご家族の思いや気持ちを完全に理解しきることが難しかったんです。そこで、当社内の子育て中の社員にヒアリングを重ねた上でベストな方法を3人で考え、テレビ東京さんと協議を重ね、あらゆるプランを決めていったんです。

神内孝枝(以下、神内) 今回、劇場営業もチャレンジングでした。毎回扱う作品をできるだけ多くの映画館で上映してもらえるように、全国の映画館に「この作品を上映してください」と営業して回るのですが、『シナぷしゅ THE MOVIE』は先ほどお話した通り様々な点で前例があまりない映画だったので、映画館としてもかなりチャレンジングな作品だったと思います。

でもテレビ番組の「シナぷしゅ」は全国放送で知名度もあるし、より多くの赤ちゃんとご家族に観てもらいたいと思い、劇場営業を頑張りました。全国の映画館に作品コンセプトや「シナぷしゅ」統括プロデューサーである飯田佳奈子さん(テレビ東京)や制作側の想いを伝えると、
「映画館にとっても新しくおもしろい取り組みなのでやりましょう」
と賛同してくれる映画館が多かったんです。

また、0歳児の受け入れ方法などもかなり密にじっくりと時間をかけてコミュニケーションを取らせていただき、上映館が決まっていきました。その結果、これまでの当社配給映画の上映においては一番多い作品でも80館ほどだったのですが、北は北海道、南は沖縄まで全国150を超える映画館が上映してくれたんです。メンバーが私たち3人しかいないので、すごく大変でしたが、これまでの実績を大きく上回る数の映画館で上映できたので頑張ってよかったです。

上映環境の整備に苦心

──確かに0歳児が映画館で映画を観るのは前例があまりないので大変だったでしょうね。

神内 そうなんですよ。特に0歳児含む皆さんが安心してのびのびと映画を観ることが出来る上映環境を決めて実現することに、多大な時間と労力を費やしました。普通の映画館で流すような大音量やずっと真っ暗な照明では赤ちゃんが泣いてしまう可能性が高いので、映画館スタッフの皆様にも協力頂きながら、音響と照明を調整してもらい、何度も検証を繰り返しました。

その後もテスト試写を数回開いて、実際に子育て中の関係者やローソングループの社員に親子で協力してもらう機会も設けました。上映終了後に
「音は大きくなかったですか?」
とか
「照明は暗くなかったですか?」
と何回も確認して、テレビ東京さん含めた全員で大丈夫だと確信を得た上映環境に決定しました。
「この音量、照明でご協力をお願いします」
と各映画館に伝えていったのですが、ここまで上映環境について細かく案内する映画もなかったと思うんですよ。

2歳~5歳児向けの映画は数多くあるので、映画館側も慣れていらっしゃるのですが、0歳児向けの上映環境というのは恐らく初めてで、映画館側も手探り状態の部分があったと思います。ほかにも空調やベビーカーの置き場所、オムツ替えのスペースなど、映画館スタッフの皆様には本当にいろいろな面でたくさん協力していただき、感謝しかありません。

──まさにチャレンジですね。初の試みだから準備にものすごく時間と労力をかけたわけですね。

喜多 そうですね。前例がないので何が正解かはわからなかったけれど、ご家族や赤ちゃんに喜んでいただけるようにできる限りのことをしようという想いで取り組みました。それはテレビ東京さんも全く同じ想いで、テレビ東京さんと毎日頻繁に連絡を取り合って、細部まで話し合いながら公開まで走り抜けたという感じです。

──0歳児でも有料ということに関して、赤ちゃんがいるご家族からの反応はどうでしたか?

喜多 思ったよりもネガティブなご意見や反応はなかったんですよ。

 逆に「大人も1,000円で見られるんだ」というプラスな意見が多かったです。

神内 そうなんです。0歳児を映画館に連れて行っていいんだという喜びのコメントも多かったんです。そもそも0歳児を連れて遊びに行ける場所自体が少ないということが現代のご家族の大きな悩みでもあり、0歳児も有料ということに関しては多くのお客さまにとって、入場者プレゼントのタンバリン効果もあり、あまり気になるポイントにはならなかったようです。

ストーリーを作る

──ほかに工夫したことは?

神内 グッズの企画と販売ですね。これもテレビ東京さんと話し合って決めたのですが、公開記念グッズとして幼児が喜びそうな映画館ならではのかわいいデザインの「ポップコーンぷしゅぬいぐるみ」を企画しました。また、映画本編上映後に、スクリーンをバックに家族で写真が撮れる記念写真タイムを映画内に設けていたので、その時撮影した写真を飾るための木製フォトフレームも企画しました。

それらを映画の公開前にローソン店頭に設置してあるLoppiや当社が運営するECサイトHMV&BOOKS onlineで販売しました。購入したグッズを持って映画を観に来ていただければ、より映画館デビューを楽しんでいただけるかな・・・というストーリーを想像しました。映画公開前にグッズをお手元に届ける流れも新しい試みでした。

喜多 そのほか、全国のローソン店舗でのポスターやレジ画面告知、店内放送を実施したり、ユナイテッド・シネマで映画スタンディ設置やPOPUPを実施したり、HMVでキャンペーンを実施したり、前売券をローソンチケットでも販売したりと、ローソングループ全体で盛り上げてもらうことが出来ました。この点がほかの配給会社との最大の違いで、ローソングループである当社ならではの配給の強みだと感じています。

スクリーン裏で涙

──確かに宣伝からチケットやグッズ販売までワンストップでグループ内で完結できるというのは大きな強みですね。それだけの想いで取り組んだ映画が公開された日はどんな気持ちでしたか?

神内 『シナぷしゅ THE MOVIE』公開初日はイベントもあったので、監督やテレビ東京さんと一緒に私たちもユナイテッド・シネマ豊洲に行きました。『シナぷしゅTHE MOVIE』の制作期間の2020年から22年は深刻なコロナ禍で、映画業界全体も危機的状況でした。でも公開された2023年5月は、やっとコロナもある程度落ちついて、映画館で映画を観ながらマスク越しではありますが、発声してもいい状況になったんですよ。

私はスクリーンの端から客席を見ていたんですが、子どもたちがスクリーンを指さしながら笑ってくれていたんですよね。その光景を見て感動しちゃって、本当にこの映画を上映できてよかったって涙が止まらなくなっちゃいました。今思い出しても泣けちゃう(涙)。。

喜多 現場では、みんなで思い描いていた光景そのものがそこにあったので私もうるっときました。特にたくさんの0歳~2歳児が映画館にいるという光景を今まで見たことがなかったのでとても感動しました。私たちが頑張ってきたことって間違ってなかったね、このプロジェクトをやってよかったねとテレビ東京さんを含むみんなで話しました。

あと、先ほどもお話ししたように、今回0歳児からも1,000円をいただいているので、赤ちゃんや幼児にもちゃんとお席があるんですね。なので、小さなお子さんが一人で席に座ってポップコーンを抱えて食べながらスクリーンを見ているという光景はなかなか微笑ましかったですね。

神内 そのシーンをお母さんが記念に撮影しているという(笑)。映画館がご家族の思い出作りの場になってよかったなと思いながら見ていました。

 ベビーカーで来館される方も多かったので、映画館にはベビーカーの大行列ができたんですよ。だから映画館のスタッフの方も「映画館でこんなベビーカーの長蛇の列は見たことないです!これまではなかなか映画館に来られないと言われてきた0歳児がこんなにも来てくれるんですね!」と興奮気味に話していたのが印象的でした。それにもまた感動してしまって(笑)。来館してくれたお客さまにベビーカーの置き場所などのご案内もすごく丁寧にしてくださって、映画館のスタッフの方々の対応にも感動しました。

喜多 あとリピーターも多かったんですよね。

神内 そうなんです!リピートしてお越しいただけるんだと驚きました。映画館デビューが楽しすぎて何回も観に来られるというご家族が多かったみたいで。

 「お父さんが、なんで俺も一緒に連れて行ってくれなかったの? と言うからもう1回、今度は3人で観に行きました」
というコメントもSNSでありました(笑)。

──他にこのプロジェクトに挑戦してよかったと思ったことは?

 今はみなさんSNSを使っていらっしゃるので、ネットで情報が広まったら良いなという願いを込めて、ハッシュタグをつけて映画の感想を投稿してくださいというキャンペーンをやったんですね。そうしたら、映画の最後にご家族で記念撮影した写真をXなどのSNSに上げてくれるお客さまがすごく多かったんです。書き込みも
「すごく楽しい映画だった」
とか
「子どもと一緒に映画を楽しめてよかった」
という好意的なコメントが多くてうれしかったです。そんな書き込みが多かったおかげで、公開後、どんどん映画の情報が広まっていきました。

喜多 秦と同じで、映画宣伝ってどれだけ頑張っても、実際に公開してみないとわからないので、公開前は不安で不安で・・・。結局、公開前日まで、ずっと不安だったのですが、初日の映画館での光景や多くの皆さんがそのハッシュタグを使って、写真と一緒にあたたかい感想をたくさん投稿してくれたので、ものすごくほっとしたし、うれしかったですね。

努力が実り大成功

──興行成績としてはどうだったのですか?

喜多 最終的には動員16万人超と目標を大きく上回りました!興行収入ランキングでも初登場8位にランクインしたので、このジャンル世代の作品としては大成功と言っていいのではないかと思います。

神内 初日は金曜日なのにお休みを取って来てくれたご家族も多くいらっしゃったようでびっくりしました。

 そうですよね! ご家族みんなで来られる人も多くて本当に感
動しました。お子さんの映画館デビューを一緒に見たいという方も多かったんでしょうね。

──今後のチームとしての目標は?

喜多 現在、3人でいろいろな作品の調達から配給・宣伝・劇場営業などを担当していますが、今回の『シナぷしゅ THE MOVIE』で初めて3人で150館規模の配給宣伝をし、成功したことは私含むみんなの自信にも繋がったと思います。

これからも、チームのコミュニケーションや意見交換を大切にし、作品毎に丁寧に向き合いながら、ローソングループでありユナイテッド・シネマをグループにもつ「当社ならでは」の映画・ODS配給を極めるため、チーム一丸となりチャレンジし続けたいと思います。

©SPMOVIE2023


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