見出し画像

通好み・二つの美術展

3月に開幕を迎えた注目の美術展を二つ、ご紹介します。
といっても、開催されるのは日本ではなくパリ。私がフォローしている美術館のInstagramで紹介されていました。

**********

1️⃣ ルーヴル美術館
<ファン・エイク 〜『宰相ロランの聖母』再発見>展
(2024年3月10日〜6月17日まで)

ルーヴル美術館HPより

ヤン・ファン・エイク(1390-1441年)といえば、透明の絵の具を塗り重ねていく油彩画(グレーズ技法)を完成させた 北方ルネサンスにおいて最も重要で偉大な画家。
“奇跡の祭壇画” を観るためにベルギーに、そしてアルノルフィーニ夫妻に会うためにロンドンに旅行したい!と思うのは私だけではないはずです。

左)『ヘントの祭壇画』1432年完成
右)『アルノルフィーニ夫妻の肖像画』1434年

そんなヤン・ファン・エイク作『宰相ロランの聖母』(1435年頃)を再発見する展示会。

1800年にルーヴル美術館に収蔵されて以来初めて、フランス国立美術館修復研究センターで大規模な修復が行われたヤン・ファン・エイクの傑作に会いに行こう!
今回の修復により、絵画を暗くしていた酸化したニスの層が薄くなり、西洋美術・代表作の本来の素晴らしさが明らかになったのです。

ルーヴル美術館の Instagram より

レオナルド・ダ・ヴィンチによって『モナ・リザ』が描かれたのが1503-1519年頃というのですから、その70年も前に描かれた作品。素晴らしい✨。

ヤン・ファン・エイク『宰相ロランの聖母』1435年頃

ルーヴル美術館「この眼で観たい作品」の一つに挙げていたのですが、2019年に訪れたときは巡り合うことができませんでした。残念、無念。
しかし昨年3月、
<8Kだから見えてくるルーヴル美術館 空間を超えた映像アート体験>展
で、この作品のクローズアップされた美しい細部を大スクリーン8K映像で見てきました。

ヤン・ファン・エイク『宰相ロランの聖母』部分

どの部分をとっても、どれだけ拡大しても只管ひたすらに美しいのです。
そして、窓から望む景色に吸い込まれそうです。

室内の遠近の奥行きは、床のタイルが小さくなっていくことで定義され、アーチの向こうには囲われた庭があり、遠くの風景が描かれている__中略___。
室内の窓、磨かれたタイル、屋外に流れる川の水面そして地平線の遠くの輝きなど、光の効果もこの絵の大きな特徴の一つである。この作品は、ピエロ・デッラ・フランチェスカやドメニコ・ギルランダイオなど、後のイタリアの画家たちの光り輝くスタイルに大きく影響を与えることになった。

『Masters of Art : Van Eyck』より

大規模な修復によってあらわれた、ヤン・ファン・エイクが創り出していた世界観とはどんなものなのでしょうか。

ルーヴル美術館HPより
上)修復、下)修復の部分

なるほど。「窓、水面、地平線の輝きなど」“光の効果” に注目したいですね。
この作品の前に立つことで、600年前にカンヴァスに向かって色を重ねていた偉大な芸術家に、少しでも近づくことができたなら、これ程幸せなことはないのです。

今回の美術展に足を運ぶことは出来ない(可能性はゼロではない)のですが、[“絶対に” この眼で観る!作品]にリストアップしておきます。

**********

2️⃣ ドラクロワ美術館
<アングルとドラクロワ 〜芸術家たちのオブジェ>展
(2024年3月27日〜6月10日まで)
こちらも会期は6月まで。いずれもパリ・オリンピック開催前の最後の企画展なのですね。

ドラクロワ美術館HPより

ドラクロワ美術館のリニューアルオープンを記念した展覧会です。

この展覧会では、アングルとドラクロワが所有していた多くの品々を一堂に展示します。19世紀の二人の偉大な芸術家のオブジェ(私物や絵画)には物語があります。芸術家が愛した品々は、それぞれの居場所を持っており、そしてそれぞれの相違点と思いがけない類似点の両方を示しているでしょう。

ドラクロワ美術館HPの要約

アングル【新古典主義】とドラクロワ【ロマン主義】といえば、同時代を生きた画家でありライバル同士でした。

++++++

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(1780-1867年)は、フランス古典主義の伝統を受け継ぐ【新古典主義】の画家。
「色彩に対する線の優位静的な構図という新古典主義の綱領を守り続け」つつも、
「古典主義的美意識よりも彼の個人的な美意識に従って形作られている」(高階秀爾先生『西洋美術史』より)のがアングルの作品なのですね。
その代表作がこちら『グランド・オダリスク』。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル『グランド・オダリスク』1814年

2019年ルーヴル美術館。思った以上に横長のカンヴァスからこちらを見つめていたのは、200年前からずっと同じポーズで来館者を鑑賞している絵画界のビーナスのようでした。筆跡を残さないアングルの描く女性の肌は、なめらかですべすべ、触ってみたくなります。

そんなアングルはバイオリンをこよなく愛し、あのパガニーニと弦楽四重奏団を結成し演奏する腕前。“アングルのヴァイオリン”といえば「本格的な趣味」という意味になるそうです。

ドラクロワ美術館の Instagram より

『グランド・オダリスク』の前に展示された愛用のヴァイオリン。Instagramの写真を見ていると、ヴァイオリンの曲線が女性の滑らかな肌に見えて、そして『グランド・オダリスク』からは音楽が聞こえてくるようです。

+++++

一方のウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863年)。
古典主義的なテーマを開拓し、激しいタッチによる運動感の表現によって【ロマン主義】のマニフェストを行ったのがテオロール・ジェリコーであれば、その【ロマン主義】を完成させたのがドラクロワです。
強い明暗、東洋的主題、輝くような色彩そして粗いタッチによる大胆な動感表現が特徴であると言われています。

ウジェーヌ・ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』1830年

ルーヴル美術館では「うわーっ、本物だ!」と子どものような感想(笑。
ただただ圧倒されつつも、人混みを押しのけて作品に近づきました。

ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』部分

1830年パリ、自由の象徴マリアンヌが国旗を掲げて民衆に蜂起を促す七月革命を描いているそうです。
全体として暗い画面なのですが、どこを切り取っても|粗荒《あらあら》しい躍動感と激しい感情が伝わってきます。
歴史にうとく平和ボケしていた4年半前の私は、訳もわからぬまま1830年のこの場面にタイムスリップしたような感覚に囚われました。

そんなドラクロワが常に手元に置いていたのは、魚の形をした煙草壺、モロッコ旅行で購入したインク壺、絵の具を塗ったパレットや装飾品などなど。

++++++

これらのオブジェ、シンプルな愛用品の裏には、画家の人生、夢、インスピレーション、そして愛を語る物語や逸話が隠されているのです

ドラクロワ美術館のHP より要約

巨匠たちの愛した品々が、彼らの人生と芸術のつながりを探るように私たちを誘ってくれているのですね。
展示室でアングルとドラクロワの人生について思いを巡らせることが出来きる、そんな素敵な美術展になりそうです!。

**********

「もし、もし私が “そっち” に住んでいたら、何度でも足を運びたい美術展なんだよーーー!」
とパリに住む姪っ子と甥っ子にメッセージを送ってお勧めしようと思ったのですが・・・やめておきます。
どちらも、ちょっと王道をハズれた、つう好みの美術展かもしれませんから。

<終わり>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?