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新しい表現


雑草とは、その美点がまだ見出されていない植物だ。

アメリカの哲学者であるエマーソンが遺した言葉だ。才能や能力は、人に認められて初めて評価を得る。誰にも認められていない才能はいかに素晴らしくとも、平凡であることと同義なのだ。日本人なら誰もがその名を知る画家フィンセント・ファン・ゴッホ。彼が現在の評価を得たのは、死から約10年後のことだった。描いた絵画を彼が販売できたのは、生前1枚だけだったと言われている。

映画『ゴッホ 〜最期の手紙〜』は画家・ゴッホの最期を描くアニメーション作品だ。ゴッホは、自身の腹へ銃を撃ち、その傷が原因で死に至っている。彼は銃を手に取る直前、弟のテオに手紙を書いた。その手紙は受取人不在となって、ゴッホの友人である郵便局員・ジョセフの元に戻ってくる。テオを探して手紙を届けるよう言い渡されたジョセフの息子・アルマンは、渋々パリへ向かった。しかし、テオはゴッホの後を追うように逝去していたことを知る。ゴッホが最期を迎えたオーヴェルへ向かったアルマンは、そこで彼の死の謎が深まる証言に出会う……。

ゴッホの死の原因は諸説あり、本作はその真相をひも解くミステリーになっている。この作品は、私たちがこれまで目にしてきたアニメーション映画とはひと味違う手法で作られている。最初に実写でキャラクターの動きをすべて撮影し、それをベースに絵を描き起こしているのだ。絵はすべてゴッホ調に人の手で描かれた油絵である。全編を通じて参加した画家は125名。描かれた油絵の枚数は62,450枚。1秒12枚の油絵をつなぎ合わせて、ゴッホの絵の世界の中でゴッホの物語を描く。実写を撮って、そこから絵を描き(しかもすべて油絵)、動きをつなぎ合わせて、編集して、音を入れていく。考えただけで、気の遠くなる作業の連続だ。

アニメーション作品は、近年さまざまな進化を遂げている。『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』での3Dストップモーション・アニメーションなどは記憶に新しい。また、日本では『この世界の片隅に』のアニメーション技法が話題になった。新しい映像体験は単に「リアル」だけを具現化するものではない。新たな表現技法をいかに掛け合わせて新しい表現を生み出せるか。作り手の探求心とチャレンジが試される。

「我々は自分たちの絵にしか語らせることはできないのだ」
ゴッホが生前手紙にしたためた言葉だ。『ゴッホ ~最期の手紙~』からは、ゴッホの苦悩の軌跡を辿る物語の表現に、彼の絵画の中でしか表現しえないものを描くための、途方もない試行錯誤の積み重ねが見えてくる。ぜひ劇場で、新たなゴッホの表現をご覧いただきたい。

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