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17歳

勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいある。

直木賞作家・山田詠美が25年前に描いた17歳の少年が、あまり良くない自分の成績を見てこぼした言葉だ。ちょっと論点がずれている気もするが、これはこれで正論である。この少年・秀美くんは、同級生に比べてちょっと大人びた一面を持つ。斜に構えていながら言いたいことをはっきりと言ってしまえる姿は、同世代でこの本を初めて読んだときになんだかカッコよく見えたものだ。

17歳、大人への入り口が見え出してきた頃。詩人・最果タヒが書いた小説『星か獣になる季節』は、青春期の真っ直ぐな気持ちが痛いくらいに描かれる。ただ、この真っ直ぐな思いは正しい方向のものばかりではない。主人公の山城くんは地下アイドルの追っかけをしている。彼女の実家に盗聴器を仕込んでしまったり、そのエスカレートした行為はストーカーに近い。ある日、そのアイドルが1人の青年を殺害した容疑で逮捕されてしまう。彼女がそんなことをするはずがない。何かの間違いに違いない。冤罪を証明するために向かった彼女の家の近くで、クラスメートの森下くんと出会う。イケメンで、足も早くて成績も良く、性格も良い。そんな彼も、彼女を追っかけている1人だった。冤罪を信じる山城くんの言葉に、森下くんは自らが犯人であるかのように見せかける行動をとるのだった。

信じたものが偽りだとわかっていても、信じるものを曲げることができない。森下くんが平気な顔をして常軌を逸した行動に出ているのに、自分自身を曲げられないが故にただ見ていることしかできない山城くん。信じたい強い気持ちと嘘を認められない弱さが同居する姿には、秀美くんに羨望を抱いていた身として苦々しい懐かしさを覚える。曲げられないものこそ、当時の自分の拠り所であったアイデンティティなのだから。

著者はあとがきで17歳を「軽蔑の季節」と例えた。内藤朝雄が著書『いじめの構造』の中で語った群生秩序を思い出す。ノリや空気を最優先にした狭い世界で生活しているため、そこからはみ出てしまったときの異常性に周りが付いていけなくなる。実際に罪深い行動を取ってしまった森下くん、思ったことを正直に口にしちゃう秀美くん。対局に見えるこの2人も、群生秩序から少しはみ出たところにいながら盲目的な「軽蔑」の目線を外して他者を見ることができていなかった。そこに17歳の幼さや身勝手な姿が映る。過去の中二病っぽい経験を思い出せる人にとっては、そのひとつひとつに痛々しく苦々しい気持ちがくすぐられるのだ。

ちょっぴりビター風味の青春小説、春のスパイスにぜひお試しいただきたい。

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