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レクサスLBXにまつわる豊田章男会長の発言の考察

新しいレクサスのための、新しいクルマ。
豊田章男会長(当時は社長)の発言を追うことで、LBX(Lexus Breakthrough X-over)が発売されるに至った理由が少しだけわかったような気がします。

「コンパクトなLBXには、大きなインパクトが期待されている」

LBX納車待ちの私が、自分の買ったクルマに過大な意味をもたせる考察をしてみました。もはや妄想とも創作とも言えそうなシロモノですが、私と同じ納車待ちの方に楽しんでもらえれば幸いです。


カジュアルだけど上質で運転が楽しいクルマ

「週末にジーンズとTシャツのまま乗れるカジュアルだけど上質で運転が楽しいそんなクルマがあってもいいんじゃないか」

デザイン画から読み解くLBX | LEXUS SHOWCASE |LEXUS NEWS

この発言からは豊田章男会長が自動車市場に「カジュアルで上質なクルマがない」と感じていたことが伺えます。実際、これまでの市場でカジュアルといえそうな車は日常の足としての役割が強く、上質さを意識したクルマがほとんどありませんでした。カジュアルさと上質さの両立は、これまでの自動車業界では相反するものとして捉えられ続けてきたのかもしれません。豊田章男会長はそこに疑問を呈し、「Premium Casual」をコンセプトにしたLBXを市場に送り出したのでしょう。

この発言でもうひとつ注目したいのが「上質で運転が楽しいそんなクルマ」という部分です。この発言はLBXが「走り」の部分も相当こだわって作られていることの示唆だと感じました。LBXが正式発表された当時、LBXにはシートベンチレーションや電動テレスコチルト、助手席のパワーシートの装備がないことで「高級車らしくない」と批判されました。それらの装備がLBXに付かなかった本当の理由はわかりませんが、私はその理由が「走行性能」にあったのではないかと想像しています。

レクサス公式サイトのLBXのページには以下のようにあります。

クルマの基本素性、走行性能に配慮した軽量化と材料置換を実施。ルーフパネルやフードを軽量化することで、低重心化を図り、すぐれた慣性モーメントを実現しました。

LEXUS LBX|走行性能

「クルマの基本素性は走行性能にある」とあります。レクサスはLBXのボディやエンジンが小さいからといって走りを妥協せず、レクサス品質の走行性能を追い求めたのでしょう。それは前述の豊田章男会長の「上質で運転が楽しいそんなクルマ」という言葉があったからなのかもしれません。そしてLBXの開発が最終段階に入り、走行性能とラグジュアリー装備を天秤にかけなくてはならなくなったとき、開発チームはラグジュアリー装備を捨てて走行性能を優先したのではないでしょうか。それは「レクサスらしくない選択」ですが、このクルマに「Breakthrough」という名が与えられた背景としては、納得のいく選択であるように思います。

スニーカーみたいなクルマ

「上質で毎日履き倒せるスニーカーみたいなクルマができないか」

デザイン画から読み解くLBX | LEXUS SHOWCASE |LEXUS NEWS

スニーカーと聞いてどんな靴を想像するかは人それぞれですが、ここで言及されているスニーカーとは、メゾンマルジェラのスニーカーのことです。

豊田章男会長はこのスニーカーを指して、「このスニーカーみたいなクルマが欲しい」と開発チームに伝えたと言います。私はメゾンマルジェラのスニーカーを履いたことはありませんが、ここでいうスニーカーとは「気軽さ」の代名詞であることは想像に難しくありません。

本物を知る人が素の自分に戻り、気負いなく乗れるクルマをめざしました。

機能詳細カタログ / 開発ストーリー

LBXの機能詳細カタログの冒頭にはこうあります。「気負いなく乗れる」という部分は、これまでのレクサス車は乗るときに気負いがあったことを意味するのかもしれません。実際、これまでのレクサス車はスニーカーというよりはフォーマルな革靴のようなクルマが多かったと思います。「気負いなく乗れる」というよりは「気負って乗れる」と表現したくなるものがあり、その気負いこそが良い意味でのレクサスの所有感や満足感に繋がっていた気がします。

その気負いをなくし、スニーカーのようなクルマを目指す理由。それはやはり「レクサスの変革」にあるのでしょう。私はレクサスの事情に精通していませんので、なぜレクサスに変革が必要なのかを正確に語ることはできませんが、EVの台頭による自動車市場の未来を想像したとき、「高級車ブランド」というレクサスの在り方が通用しなくなってくると経営陣は考えているのかもしれません。EVは内燃機関のエンジン車よりも作りやすいため新規参入が容易であると聞きます。プレイヤーが増えた市場はコモディティ化が進んで競争が激化するのが世の常です。そうした中でレクサスが「高級車」というポジションで販売を続けていくのは難しいという経営判断があったのかもしれません。LBXというクルマを見ていると今後のレクサスは「高級さ」という客観的になりがちな価値ではなく、「上質さ」という主観的な価値でクルマを作っていくつもりのように見えます。「高級さ」にこだわってクルマを作ると、車格が大きくなりがちで乗る人を選ぶようになります。ラグジュアリー装備を充実させれば高級車といえども利幅は小さくなりますが、高級車の装備はそれ自体がステイタスになるものでもありますから設定しないわけにもいきません。反対に「上質さ」にこだわってクルマを作る場合、それは車格の大小やラグジュアリー装備の有無を必ずしも意味しません。クルマに乗るその人が「素晴らしい!」と思えるのであれば、それで成立します。レクサスは今後の自動車市場において自身の活路をそこに見出し、それを実現するための先鋒をLBXというクルマに任せたのではないでしょうか。これまで主にアルファベット2文字で構成されてきたレクサス車の名前の慣例を壊し、LBXという3文字のアルファベットの車名をこのクルマに冠したのも、そんな気持ちの現れのように思えます。ひょっとすると当初は、車好きで知られる豊田章男会長が単に自分が欲しいクルマを語っただけだったのかもしれませんが、それがLBXというクルマになって世に出てきた背景には、そんなレクサスの秘めたる想いがあるのかもしれません。

これなら要らない

「これなら要らない」

デザイン画から読み解くLBX | LEXUS SHOWCASE |LEXUS NEWS

この発言は、豊田章男会長が「これからのレクサスがどうあるべきなのか」「それを実現するためにLBXがどんなクルマになるべきなのか」を明確にイメージしていたことを意味しています。

これまでのレクサス車は、スピンドルグリルやアローヘッドといったデザイン的な特徴をアイコンとし、それを用いることでレクサスらしさを体現してきました。おそらく開発チームはそれらを踏襲した「これまでのレクサス車らしさのあるLBXの試作車」を作ってきたのでしょう。いや、作ってきてしまったのでしょう。そしてそれは豊田章男会長を落胆させるものであったことがこのセリフから伺えます。

豊田章男会長は「新しいクルマ」ではなく「新しいレクサスを体現するクルマ」をLBXの開発チームに期待していたのではないでしょうか。だからこそ試作車を見てそのビジョンが共有されていないことを知ったとき、「これなら要らない」という強い言葉を開発チームに投げかけ、考え方を大きく変えてもらう必要に迫られたのでしょう。

もしレクサスがブランドの変革に迫られているのであれば、まずやらなければならないのは「レクサスに携わるスタッフにブランドの変革を理解してもらうこと」です。それは容易なことではありません。開発室から販売店のスタッフまで、それを浸透させるには言葉によるコミュニケーションでは時間がかかり過ぎてしまいます。そこで経営陣は、新しいレクサスを体現するアイコニックなクルマを作り、そのクルマの開発から販売までのプロセスを通じてスタッフたちにブランド変革を理解してもらう戦略を立てたのではないでしょうか。その戦略こそが、LBXというクルマです。これまでのレクサスにないサイズの車を作り、これまでのレクサスにないグレード分けを展開し、これまでのレクサスにない3文字の車名を与え、これまでのレクサスになかったクリエイティブで販促活動をする。ここまで新しいこと尽くめのクルマが出てくれば、どんなに鈍感なスタッフでもブランド変革の兆しを感じずにはいられないでしょう。

そしてそれはスタッフだけでなく、私のような消費者も例外ではないのかもしれません。現に私はLBXに「これまでのレクサスらしさのなさ」を感じたことで、より購買意欲を高めたフシがあります。言葉として理解していたわけではありませんが、LBXの在り方や売り方を通じて、このクルマがまとう戦略的な匂いを感じ取り、そのエポックメイキングさにひとり興奮していたように思います。

やれることしかやらないんだな

「やれることしかやらないんだな」

史上最小のレクサス 新型「LBX」世界初公開 “小さな高級SUV”の開発陣を奮起させた「強烈なダメ出し」とは? | VAGUE(ヴァーグ)

これも先述の「これなら要らない」と同じく、なかなかに痛烈な発言です。この発言からは当時のレクサスの開発チームがどんな状態にあったのかがうかがえます。

レクサスは成功したブランドだと思います。レクサスといえば高級車であり、社会的ステイタスとしても認知されています。NXの大成功は記憶に新しいところです。あれだけの高級車にも関わらず、地方都市でも街を走れば数台は見かけるくらいに売れています。

レクサスが発売したクルマが売れる。それはたとえ別の開発チームが担当したクルマだったとしても、共通のデザインによってブランドを体現してきたレクサスにとって「今のレクサス車の方向性は消費者から支持されている」と感じるには十分な経験であり、成功体験となったことでしょう。そして開発チームはその成功体験を次のクルマの開発に持ち込みます。そして良くいえば成功体験を踏襲したクルマ作り、悪く言えば思考停止したクルマ作りをしていたのでしょう。それは経営者にとっては危機感を感じずにはいられない事態です。それが「やれることしかやらないんだな」という憤りや寂しさの入り混じった言葉として現れたのでしょう。結果、開発チームはすべてを見直すことを決意し、新しいレクサスを体現するクルマ「LBX」が誕生することになります。

スピンドルを壊せ

LBXの初期デザインスケッチ

「だからスピンドルを壊してくださいと言っているでしょ」

デザイン画から読み解くLBX | LEXUS SHOWCASE |LEXUS NEWS

「だから」というところに開発チームの成功体験への執着の強さがうかがえます。きっと豊田章男会長は複数回にわたってスピンドル(スピンドルグリルのことだと思われる)についての指摘を行っていたのでしょう。けれど開発チームはスピンドルグリルこそがレクサスらしさであると考えており、スピンドルグリルのないレクサス車を考えられないところまで成功体験に侵されていたのだと思います。しかしこれは発言こそ「スピンドルを壊して」というものですが、その意図は「これまでのレクサス車を壊して」というところにあることは想像に難しくありません。未来のレクサスを見ている豊田章男会長と、過去のレクサスに縛られる開発チームの確執が、この発言から見て取れます。

結果としてLBXにスピンドルグリルは付きませんでした。しかし、LBXには「ユニファイドスピンドル」という新たな形状が採用されています。ユニファイドスピンドルは北米限定車のTXにも採用されていることから、今後はスピンドルグリルに変わってレクサス車のアイコンとして使われていくことになるのでしょう。結果的に「スピンドル」という名称が残ったことについてはどう考えるべきなんでしょうね。「スピンドルを壊せ」と命じた豊田章男会長にとってはこれすらも不本意なことで、本来であればきれいサッパリ無くしてしまいたいと思われているのかもしれません。スピンドルの名が残った理由には、何かしらへの配慮があり、豊田章男会長なりの譲歩があったことを意味するのかもしれませんね。

最後に

以上、LBXにまつわる豊田章男会長の発言からいろいろ考察してみました。すべて私の想像にすぎませんが、LBXに「ブレイクスルー」という強い言葉が与えられるに至った背景には、ブランド変革ぐらいの大きな期待があって然るべきな気がしています。どこまで真に迫った考察ができたかわかりませんが、自分が買ったクルマがレクサスにとってエポックメイキングな役割を期待されたものだとしたら、それはなんだかちょっとうれしく思えます。

新しいレクサスのための、新しいクルマ。
私はLBXを「勝手に」そんなふうに思っています。

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