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読書会―絲山秋子「薄情」

こんにちは。11月とは思えない、暑さの3連休ですね…。

少し日が開きましたが、先月参加した読書会について記録します!

読書会概要

かれこれ1年近く、夢中飛行で本棚主をしているのですが、この読書会に参加するのは初めてでした…!隔月で開催してくださっている本棚主さんがいるのですが、本当にすごいことです!

※以下ネタバレあり※

これから「薄情」を読もうと思っていた方はご注意を!

読了後の感想

小説の舞台・群馬について

まず、この作品は群馬県が舞台になっています。ちょうどこの読書会の1週間前に家族で四万温泉に行っていました。
群馬というと、高崎や前橋など街のイメージが大きかったです。しかし、四万温泉までの道中🚙は、山や畑だらけ、コンビニも全然見当たりません。
これは、出戻りや不倫の噂はすぐ広がるだろうし、目立つよな…。と、解像度高く読むことができました。

普段は閉塞感のあるコミュニティが身近にある。けど、東京に出ようと思えばすぐに出られる。その絶妙な距離感にある場所として、群馬が描かれたのだろうと思います。

(おまけ)奥四万湖の写真

主人公・宇田川について

主人公の宇田川には中々共感できない…というのが正直な感想でした。どこか斜に構えていて、自分の感情を抑制している感じ。。
人物像を理解する上で、宇田川の家族や育った環境に関する描写もほとんど無かったところも影響してか、「解せないキャラ」という印象を持っておりました。

ただ、福島から来た高校生とのやりとりを通じて自身を発見するラストシーンは良かったです!
なぜ、あの少年にはあんなに親切にできたのだろうか?
自分よりも田舎者だったから?さすがに高校生相手だし…?無謀だとも思える彼の夢に触発されたか?
そんなことを考えさせられていました。

他人を変えることは難しいけど、人が変わる可能性は無限にある。
仕事でそんなことに気づかされていた時期だったのですが、この本からもそんなことを感じていました。

30代半ばの男性を描いた作品ではありますが、広い意味で "Bildungsroman"(成長小説:人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと)と言えるのではないかと思います。

みなさんと話したこと

やっぱり宇田川について

やっぱり、なんといっても最初は宇田川について!笑
私含め女性4名・男性2人というテーブルで感想シェアをしたのですが、宇田川に共感できる/できないは、男女で分かれる形になりました。

①外に出たいけど、今の環境に安心している。30代半ばってそんな年頃だろう。
②女性に対して恋から愛を求めるように変わる時期なのではないか?
男性陣からは、そんな意見が出ました。

①は言われてみると分かる気がする~!という気もします。

宇田川は地主の息子で、食えない心配はないわけです。安定した生活は保証される一方で、選択肢がこれしかないということでもあります。また、結婚もしなければならない状況(なのに女性の引きが悪すぎるのがちょっと面白い笑)。
そんな環境にいると、外へのあこがれはあるけど、リスクを背負ってまで出る必要はあるのか?今のままでも良いのでは?という気持ちは常に付きまとうのだろうな…と、改めて気付かされました。

群馬という舞台について

やっぱり群馬という場所が絶妙!という感想は、他の方からも聞かれました。

私ふくめ人口の多い街・都会で生まれ育ってきた人からすると、「薄情」の意味も新鮮だったね、という話になりました。
そう。「薄情」って、一般的にイメージされる「冷淡」「無関心」の意味ではないんですよね(これはぜひ本編を読んでほしい)。

上記とも関連しますが、「外に出たい⇔今のままでいたい」という揺らぎも、出ようと思えば出られる群馬だからこそ、生まれる感情なのだろうということも話しました。
これが、どこに行くのも時間と労力がかかる山奥や離島だったら、もっと違った展開になっていたかも。そんなことを考えさせられました。

蜂須賀さんとの関係

宇田川の後輩で、名古屋で就職・結婚したものの離婚して一時的に群馬に帰ってきている蜂須賀さんという女性がいます。この方と宇田川との関係も、独特だよね、という話も出ました。

「友達以上恋人未満」ってまさにこういう関係のことを言うのだろうと!
別に好きなわけではない。付き合ったり結婚したりするつもりはない。
だけど、相手が結婚したらすこし心がざわつく。今の関係が崩れるのではないか?という不安が生まれる。

この2人の関係も、どっちつかずな境界の上に成り立っているものなのだと、改めて気付かされるのでした。

ラストは秀逸!

こちらも満場一致な意見でしたが、ラストシーンは素晴らしい!
ただ一方で、宇田川は何に気づいたのだろう?というエンドレスな問いも生まれました。
最後のシーンは、句読点が無く散漫に語られるのですが、それが言語化される前の考えをそのまま書いているような。読み手からすると解釈に迷うのですが、言語化できない気持ちを言語化するこの表現は見事だなと、思わされるのでした。

まとまらないまとめ

他の参加者とこんなことを話したよなーと当日のメモを見返しながらまとめてみました。まとめたつもりだけど、うまくまとまっていません💦

改めて気付くのは、主人公の宇田川は、将来の職業、群馬という土地、蜂須賀との関係、色々な場面で境界に立たされていた人間なのだということ。結局、ステイなのか飛び出すのか分からずに作品は終わるのですが、自分の立ち位置を確認できたこと自体が宇田川にとっての大きなブレイクスルーだったのではないかと思います。

テンポよく進み、さらっと読める文なのです。正直私も、最初読んだときは「単なる都会コンプレックスか?」と思っていました。けど、一つ一つの要素を紐解くと「境界」というこの物語の大きなテーマにつながっていきます。
これは、読書会で他の方と意見を交換したからこそ得られた気づきです。自分の解釈は、良くも悪くも一面的。物語を立体的に理解する上で読書会のような場で他の人の見方に触れることが大事なのだと改めて学びました。

また、参加したい!
次回も、出張が入らなければ参加したいな…。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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