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3月28日「まきびしの想い」

1ヵ月前に注文したまきびし50点セットが届いた。
ベランダや玄関に思い思いに撒いても、まだ30個くらい余っているので
知り合いやお隣さんにおすそわけに行くことにした。

お隣の音鳴さんの家のドアの前で、主婦だったらどう置くかなぁと
実際に置いてシミュレーションしていると、
ドアが開いて音鳴さんが出てきた。

僕はすごい驚いて「ウワアアアアーーーーーー」と絶叫してしまった。
音鳴さんも「うおおおおおおおお」と意外と猛々しい声を挙げてから、
僕が撒いておいたまきびしに捕らえられた。

「ぎいいいいやあいいい!」と言いながら、音鳴さんはすっころんだ。
しかし、そのすっころんだ先にもまきびしが!
僕はすっころんだ事もシミュレーションしてしまっていたのだ。

「フォーーーーーー!」と気絶せん勢いで音鳴さんは叫び散らす。
僕はすぐに駆け寄り介抱してあげた。
幸い、リアクションの割には少しの切り傷ですんだが、
音鳴さんはまきびしに捕らえられたというショックから激しく動転していた。

とても僕が撒いたとは言えなかった。
それにシミュレーション通りだったのが少し嬉しかった。
次の標的を探そうと、僕は音鳴さんを布団に寝かせ、
ついでに音鳴さんのおつかいも引き受けて、
ファーストステージを後にした。

僕は百貨店に向かった。
知り合いに百貨店でバイトしているやつがいるのだ。
それに音鳴さんのおつかいもクリアできる。
知り合いの薔薇山田はやはり暇そうに立っていた。
彼はレジの横で待機して、レシート入れがレシートでパンパンになったらまとめて捨てるというバイトをしている。

薔薇山田はまだ僕に気づいていない。
よし!セカンドステージいくぞ!
僕は素早く一番最後のレジのレシート入れにまきびしを仕込み、
偶然を装って薔薇山田に挨拶した。

「よっす」
「おーこんにちは」
「いつものようにさ、アレ見してよ」
「えー」
「頼むよ~」
「まぁもう3時間くらいやってないし、特別だぞ」


そう言って薔薇山田はポッケから出したウルヴァリンのような熊手を手につける。
薔薇山田曰く、これが無いとだめらしい。

「いくぜ…」ちょっとかっこつけて、薔薇山田は走り出した。
熊手を巧みに駆使して、1番レジから順番に素早くレシートをかき集める。
ずばばばばばばば!
目にもとまらぬスピードでもう15番レジまで回収してる。
僕も呼吸を忘れて薔薇山田を見守っていた。

最後の26番レジに差し掛かった瞬間!
薔薇山田の姿が消え、ドン!と大きな音がした。
急いで音の方を見ると、製氷機が大破して、
中から白い煙が立ち込めている。

僕は駆け寄った。
「大丈夫か!薔薇山田!」
薔薇山田は中国のニュースでよく見る頭がはさまっちゃた子供みたいになってた。

「こんな無様な姿見せちまってすまねぇ…」
無念そうに薔薇山田は言う。
「しかも見てくれ…コイツがボロボロだ…」
薔薇山田の相棒の熊手がボロボロになっている。
まきびしより弱いとは僕も想定外だった。
「こいつは世界で唯一のオレの理解者だったんだ…」
傷だらけの相棒を天にかざしながら、薔薇山田は慟哭した。
とても僕が撒いたとは言えない。

もうシミュレーションとかどうでもいい。
まきびしの恐ろしさを痛感した。

少しの罪悪感とまきびしのことばっかり考えてて音鳴さんのおつかいを忘れていた。

僕はまきびしを自分の二の腕に少し刺して、血を垂らしながら、
「仇を取ってきました…」と音鳴さんに余ったまきびしを全部渡した。

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