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『マトリックス レザレクションズ』が作り出すのは今のSNSの鏡的世界なのか

ラナ・ウォシャウスキー、リナ・ウォシャウスキー監督による『マトリックス レザレクションズ』.レザレクションズが「復活」の意味を持つように前3部作シリーズを踏襲している.

監督であるラナ姉妹は性転換手術によって「姉妹」になっている.この時期は前作のレボリューションズからレザレクションズの期間にかけてであり、映画に監督の性転換(ジェンダー)への意向が入っているに違いない.

そんな監督の意図を汲み取りながらレザレクションズと現代社会のSNS社会を照らし合わせたい.

まず、この映画の主人公は白人の「ネオ」だ.レザレクションズ内では現実世界の人間から「ヒーロー」として歴史人物になっているが、ここがアメリカの歴史である「白人の救世主」を想起させる.これが批判として受け止めたらいいのかは分からないが、現実世界で引き起こされる人種排外主義のポピュリストたちが扇動している現状をみると自然と感じる.

アメリカのトランプ大統領はメキシコとアメリカの国境線沿いに壁を作り、移民の受け入れを反対し、アメリカファーストを掲げている.これはヨーロッパで引き起こされた移民問題に関するフランスの国民戦線やベルギーのVBと同じ行動と言っても過言ではない.アメリカ国内に存在するアメリカ人以外を排外の対象にし、福祉は国民だけにあるべきだと主張している.

この主張がアメリカ国内だけには留まらず世界中に蔓延しているのが現状だ.その蔓延の問題を作り出しているのがSNSでありポピュリズム的価値観の台頭である.ポピュリズム自体には古い歴史があり、政治的エリートに対する民衆の反発や権利の尊重を求める運動に代表する者が現れ、政治に影響を持ち始めたのが始まりとされている.

このポピュリズムには良い面と悪い面があり、どちらも現代のデモクラシーに大きな影響を与える.良い面では今まで排外されてきたエリート層、高学歴層以外の中間層がデモクラシーの権利を示すことができることだ.他にもポピュリズムという既存政党に反発、批判を行うことによって福祉制度や労働者の権利の促進などの効果を得られる.

一方悪い面ではポピュリズムが進むにつれて極端な排外政策や差別が蔓延する可能性を秘めていることである.デンマークの税務専門の弁護士であるグリストロップは進歩等を創立し、労働者を中心とする所得税の減税や制度の改変を訴えた.グリストロップの目指していたのは小さな政府であり、市場に委ねようとする新自由主義の主張であった.

しかしその後の主張で「は難民による財政負担が大きい」という主張に変わり、難民に対する福祉排外主義が台頭することになる.

そしてこれらの点から今の社会は悪い面のポピュリズムが台頭していると言える.日本でも同じような極右的な主張が容認される外国人差別は無くなっていない.ポピュリズム政党による外国人受け入れ反対運動や極端な主義主張が広まり、SNSで光の速さで蔓延されているのが現状である.

少し話が深くなりすぎたが、マトリックスの中で見れるゾンビ化した人間たちのシーンは正にこのポピュリズムによる扇動の結果なのではないだろうか.機械に動かされ何の迷いもなくネオとトリニティに襲いかかる世界観は扇動によって自己判断ができずエコーチャンバーの状態に陥ってしまった人たちを感じさせる.

それを裏付けるかのようにアナリストが「人は支配されたがってる」と述べた最終シーンは記憶に残る.SNSの台頭によって判断は他人に任せられるようになり、扇動が行われやすくなった問題を提起しているのではないか.アメリカ大統領選の時にはトランプ陣営はSNSを使ったプロパガンダの提示にイギリスの選挙コンサルティング事業を進めるケンブリッジ・アナリティカ社を利用し不正に個人情報を得ようとした事件も発生している.

アナリストの言う「人は支配されたがっている」と言うのは意識的な願望ではなく、自然と寄り掛かっている状態が正しい.気付かぬ内に我々は操作され支配されている.しかし誰も気付くことはなく、幸せまで感じてしまっているのではないか.そんな雰囲気を感じる映画だった.

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