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「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」で写真に浸る

渋谷ヒカリエで開催中の「ソール・ライターの原点」を観てきました。
「ニューヨークの色」と副題がついている通り、色が印象的な作品群。

ソール・ライターは「1950年代からニューヨークで第一線のファッション・カメラマンとして活躍しながら、1980年代に商業写真から退き、世間から姿を消した」(2017年ソール・ライター展パンフレットより)という伝説のような人物。

2017年にBunkamuraで開催されたソール・ライター展でもNYの空気感を写し撮った1枚1枚が印象的だったのですが、今回は展示に様々な工夫がされていて、写真そのものの魅力や雑誌全盛期の活気も感じ取れる内容でした。

大きなスクリーンは展示内容を予感させるような導入。


50〜60年代のスナップ写真

前半は50〜60年代のスナップ写真が並びます。

なにげない風景ですが、独特の世界観に引き込まれていきます。ショーウィンドウに映り込む風景やガラス越しの人物、鏡像など幾層にも重なったトリッキーな視点。明暗のコントラストの効いたシンプルで大胆な画面構成。影の使い方も印象的です。

“後の”巨匠たちのポートレートのセクションでは青年期のアンディ・ウォーホルも。顔は若いのにすでに(?)ネクタイ姿で、アンディ・ウォーホル以前のアンディ・ウォーホル、といったところで面白い。なんとおかあさんまで登場しています。

圧巻のファッション写真

1958年から60年代の「ハーパーズ・バザー」の写真が圧巻。ここではソール・ライターによるファッション写真をたっぷり、雑誌の誌面として見ることができます。

解説などを見ると、モデルの決めポーズではなく、なにげない瞬間を写しとっているとあるのですが、レイアウトとともに計算されているようなものもあり(または仕上がりを見てデザイナーが意図的に配置したのか)、とても興味深いセクションでした。

この頃の雑誌のレイアウトは潔くてかっこいいですね。写真だけでなく、誌面のデザイン、それからもちろんファッションも楽しめるよくばりゾーン。こういう部屋で仕事したい。

画家としてのソール・ライター

ソール・ライターの絵画も展示されています。

これまた独特の色彩で、アイスクリームで描いたみたいな絵だな、と思いました。ちょっと美味しそうな色あい。

大胆な画面構成も写真と共通するものがあります。パンフレットによると印象派や浮世絵の影響も……とありますが、浮世絵の影響は写真のほうが顕著に表れているように感じました。

かつてのデザイン作業を思い起こさせるスライド展示

後半へ差し掛かると円型のライトテーブルにマウントされたポジフィルムのスライドが置いてあるコーナーが現れました。

写真展ではプリントされたものが絵画のように展示されるのが一般的だと思いますが、ここではその前のポジの状態で見ることができ、これは個人的に非常に響きました。

今は撮影もデジタルで、画像はデータで届きますが、それ以前は撮影された写真はポジフィルムのままで届いていました。
こちらに届く前にカメラマンのチェックが入っていて、ピンがあっていないものなどNGなものにはバツがしてあったり、おすすめにはまた印がついていたり。それをまた私たちデザイナーがルーペを覗き込んで、良いものを選んでいき、候補を切り取ってマウントします(そのままポジ袋に入れることもある)。
モデルのどのポーズを選ぶかで誌面の印象が変わってくるので、この一連のセレクト作業がデザインの肝でもあるわけです。そこは今でも同じですが、あの小さな状態からレイアウトに落とし込んだ時を想像して選ぶのは今の作業とは似て非なるものであったと思います。

ここに展示されているスライドはモデル写真ではなかったけれど、彼のフィルムを目にした雑誌編集者やデザイナーの気持ち。想像するとなんだか羨ましい。

ちなみに昔会社勤めをしていた時の某百貨店の仕事では、写真のあたりはスライドを暗室で引き伸ばし器にかけて、下に置いたレイアウトに映し出した状態でトリミングを決めて、鉛筆で輪郭をトレースしていました。だいぶ原始的だったけど、かなり厳密なところまで決めていけるので、あれはあれで仕上がりにこだわれるやり方でした。

妙に心地よいカラースライドプロジェクション

他にも住んでいた部屋を再現したコーナーなどもあって、企画盛りだくさんの充実した展示だったんですが、最後のカラースライドプロジェクションはなんとも心地よい、かつ迫力のある展示でした。

両側に合計10面の大きなスクリーンがあって、スライドが切り替わって次々と作品が映し出されていきます。本物のスライドショー。

そういえば、事務所にプロジェクターあったよね……となつかしく思い出しました。(考えたら、セレクトはライトテーブルとルーペでしていたので滅多に使うことはなかったけれど)

投影のため照明を落とした暗さも程よくて、ずっとそこにいたくなる空間でした。暗く広いスペースに響き渡る、切り替わる時のガシャ……ガシャというアナログっぽい音も心地よく、ベンチでゆっくり眺めている人多数。

グッズもなかなか充実

展覧会の最後のお楽しみ、グッズも充実。フィルムが印象的な展示だったので、私の注目はクリアファイル。グッズ制作の方も同じ思いだったのかはわかりませんが、クリアファイル点数多めでした。もちろんポジフィルムのように透過はしないんだけど(紙や布より)質感が似ているんですよね。

ポスターブックも魅力的だったんですが、うちにはもう空いている壁がほぼないのであきらめました。

せっかくなので、クリアファイルを自前のライトテーブルに乗せて撮ってみた。
そしてもちろん美しいポストカード

休館日なし、20時まで(でも8/23=明日まで)

この「ソール・ライターの原点」は、シェアアートさんのチケットプレゼントで当選したもの。とても久しぶりに応募してみたら当たったんですが、ペアでいただけるのも嬉しいポイント。前回のソール・ライター展に一緒に行った仕事仲間のディレクターさんを誘って行ってきました。

ShareArtは、アート作品の投稿・閲覧が楽しめる「アートコミュニティサイト」です。オリジナルな創作活動を楽しむアーティストが作品をWebポートフォリオとして世界に発信したり、 アーティストやアートファンが気軽にコミュニケーションをとりあい、応援しあえる場所です。

シェアアートHPより

いつも忙しい彼女との時間合わせはなかなか大変なんですが(笑)、ヒカリエでのこの展示は休館日がなくて、しかも20時まで。17時頃からでもゆっくりできました。

鑑賞後ホール前の大きな窓から夕暮れの渋谷の街を見下ろすのも、余韻にひたれますね。

ヒカリエから見下ろす渋谷はちょっと映画みたい




それにしてもこの間のマティス展といい、「色」が続きます……。最後は光を感じさせるところも似ていますね。



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