リバティ・プライム

リバティ・プライム

最近の記事

みずほ銀行は人工精神の夢を見るか?

みずほ銀行は、1960年、実業家の秋吉貞次郎によって創業された銀行機関である。当行は高度経済成長期にかけて急成長を遂げ、現在では日本有数の巨大企業に成長した。 しかし、みずほ銀行が創業者の奇妙な「実験」に発端を持つことはあまり知られていない。その始まりは、太平洋戦争にまで遡る。 1913年、貞次郎は埼玉の裕福な商家のもとに生まれた。 長男であった彼は一族の期待と才能に支えられ、旧制高校に合格、その後は東京帝国大学理学部に進学する。大学では数学を専攻し、卒業すると金丸重工に就

    • 現実

      2023年、宇宙人が地球を征服した。 侵略は至って穏便なものだった。世界各国のあらゆる武器が未知のテクノロジーによって無効化され、人類は何の抵抗もできないまま、空の彼方から巨大な宇宙船が降下してくるのをなすがままにしていた。 史上最大のパニックに陥る人類を横目に、宇宙人は流暢な英語で世界に音声データを送った。大体このような感じのことを言った。 「地球の皆さん、こんにちは。我々は、皆さんがご存知ないはるか遠くの惑星から、研究のためにやって来ました。エヌ星人とお呼びください。

      • 末日

        テレビには、蛍の光をバックに日本国旗だけが映っている。 今日の0時をもって全てのテレビ放送が終了し、もうこの画面しか映らなくなった。昨晩、各局が1週間続いた超大型特番のフィナーレで喧しかっただけに、この静寂には現実感がなかった。もっとも大して面白くなかったので、最後すらろくに観はしなかったが。 たしか10年ほど前だったか、有名な政治家の誰かが、こんなことを言った。 「最近の日本、メシが不味いんだよね」 取り囲んでいた記者が応答に困ってしばらく沈黙する光景は、なぜか記憶に

        • 性行為矛盾性原論

          0.セックスと病理セックスができない者、セックスをしない者は、一般に異常者とみなされる。この思想は、個人に人口増大の義務を課すナショナリストに限らず、多数の人間に共有される差別の原理である。思うにこれは男性の虚栄心と女性の排他性に起因すると思われ、実際のところ大した根拠はない。ただ問題は、このような認識が、非セックス者に精神的な不全をもたらし、自己成就的にかれらを異常者にすることである。 病人扱いが病人を作る。かくして差別意識は循環し、進化のさなか偶然に獲得した単なる強迫観

          遊牧天皇の誕生

          歴代の天皇のうち、遊牧民族を出自に持つ天皇を農耕民族の天皇から区別して「遊牧天皇」と呼び、これは全体の約1割を占める。しかし、その影響力にもかかわらず、我が国の歴史教育においては遊牧民族の軽視が甚だしい。通俗的な認識とは異なり、日本遊牧民は独自の文化を持たなかったわけでも、野蛮な破壊者でしかなかったわけでもない。かれらは倭人と同様、大陸を模倣しつつも独自の社会を発展させており、現代日本にもその伝統を遺しているのである。 とはいえ、日本の遊牧民は長らく関東地方に留まり、その影

          多様性を守ろう!だが促進はするな

          多様性は社会の目的ではない。 わざわざ説明するまでもないと思うが一応確認しておこう。強姦の常習犯がいる世界と、そういう人がいない世界を比べるとする。代わりに全盲者や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人間でもいい。前者の世界は後者より多様性に富む。仮に多様性を善とするならば、前者が後者よりも善いことになる。しかしそのような道徳は存在意義が不明である。ゆえに多様性は目的でない。 多様な人がいることは、もっぱら不愉快なことである。なぜなら、われわれには他者に対する好き嫌いが存在する

          多様性を守ろう!だが促進はするな

          クソみたいな道徳の暫定的処分

          ○道徳がクソであることどうしてこんなことになったのか。 人類は退廃にある。知性を欠いた野蛮な大衆感情が、政治闘争から帰結した抑圧的な規範が、死してなお彷徨う神の亡霊が、正義の名の下に苦痛を増大させている。 私はこの現状を受け入れるべきだろうか。価値は移ろいゆくものであることを認め、新時代の道徳、そのあり方を、黙して是認すべきだろうか。 もし、私が古い時代の道徳を理想化し、その復古を望む者ならば、時代遅れとの謗りを免れないかもしれない。現行の道徳は、現代に至るまでの長きに

          クソみたいな道徳の暫定的処分

          聖なる性夜、性なる聖夜

          クリスマスの夜にセックスするのは罪ではない。いや快楽はむしろ善でさえありうる。満たされた腹を撫でながらイルミネーションを眺める。暖房が効きすぎた部屋で汗ばんだセーターを脱ぐ。予定調和を誤魔化すように身体を重ねる。 こうした一連の性行為を非モテは憎むだろう。想い人の濃厚接触を想像して胸に穴を穿たれる想いでいる。自慰をしようとして厭になってやめる。ネットでくそ面白くもないアンチ・クリスマスのミームに埋没してみる。 ここまでは結構なことである。 話が変わってくるのはこういうとき

          聖なる性夜、性なる聖夜

          責任のパラドックス

          ・はじめに 責任というものがある。何かはよく分からない。だが誰かに帰属させられるものであるらしい。その誰かを責任主体という。ある結果を原因として引き起こし、そのために道徳的な価値を帰属させられることが可能な、個人ないし集団である。 そこにおいて人間は、自由意志、つまり世界の発生に始まる因果連鎖の玉突き事故から外れた、絶対的な因果の始点として扱われている。そのような自由意志の概念が社会規範に拡張されることで、因果連鎖の遡行が停止して道徳的な価値が発生するような、凡庸な「第一原因

          責任のパラドックス

          敗北者に同情するな

          ネット上では、さまざまな競争に敗れた者たちの言説を目にすることができる。それは大学入試だったり、就職活動だったり、セックスパートナーの獲得だったりするのだが、何にせよ競争はその敗北者にとって残酷だ。 すべての競争は不公平である。競争の勝敗を決めるルールは常に何らかの人々を排除するためだ(万人を優しく包み込むルールはルールでないか、無意味である)。 しかしそれだけではない。競争は、それが競争であるというだけで、必然的に特定の傾向をもつ。参加者が自らをルール(あるいは審判者)の

          敗北者に同情するな

          ネクラテスの弁明

          「うわっ、ちょっと、布団を剥がすのはやめたまえ、ペシミアス。わたしには、どうしてきみが来る日も来る日も他人の安眠を妨げるのかということが、本当に分からないよ。さらに分からないのは、その他人とはわたしであり、わたしとはこの低劣な無職の中年男性であるというのに、ペシミアス、なぜきみが毎朝の気持ちのよい貴重な時間を費やして、その男を起こしに来るのかということなのだがね」 「卑下しないでください、ネクラテス。アテーナーに祝福されたあなたの知性に比べればわたしなど、不具のスパルタ人と

          ネクラテスの弁明

          「神」の構築

          ※注意 ・これは宗教の話ではなく、哲学にかぶれた話である。 ・各章の末尾に結論(めいたもの)を記すことにした。冗長な文章に先んじてそちらに目を通すほうがよいかもしれない(9000文字以上ある)。 ・筆者は無知蒙昧の愚者であり、本稿の内容の価値に関して一切の保証はできない。自信は全くない。 ※用語解説 ・神: いずれかの宗教において信仰の対象となるもの。 ・「神」: 絶対者、つまり絶対性や神性をもつ事物のこと(比喩的な表現)。端的にいえば、哲学的文脈における実在のこと。 具体