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揺るぎない愛なんてものはないんだよ/青春物語20

「だから自然消滅したんだよ」
静かに彼は言った。

「えっ、なんで!」
「シッ。声が大きい」
「だって、4年も一緒にいたのに信じられない」
「4年も一緒にいたからだよ」
「意味わかんない」
「大人になればわかるよ」
「もう大人だってば」
「揺るぎない愛なんてものは ないんだよ」
「そうかな?私は永遠の愛を信じるけど」
「だからお子ちゃまだって言うの」
そう言って彼は笑った。
無理して笑った顔だった。

永ちゃんの(夏の終わり)の前奏が聞こえてきた。

君と二人で歩いた 浜辺の思い出
あの時二人で語った 浜辺の思い出
ああ もう恋などしない 誰にも告げず
ただ波の大人だけ さみしく聞こえる
   矢沢永吉 作詞・作曲

 稲村さんがどこからか持ってきたタオルを首にかけて歌っていた。

「俺もキャロル大好き。ママさん、次コレお願いします」
永尾さんはタバコの火を消しながらそう言った。

「ねぇ、永尾さん彼女と自然消滅したんだって」
私は空いた彼の席に寄って春木先輩にそう言った。

「あらっチャンスじゃない。頑張りなさいよ」
「えっ?なに?」
「桜田ちゃんの顔見てればわかるって。永尾さんが好きなんだなって」
「やだ嘘。そんなことないよ」
「だって健太郎くんと別れた時もそんなに落ち込まなかったのは永尾さんがいたからでしょ?」
春木先輩の鋭い突っ込みに返答ができなかった。

数日後、会社のクリスマスパーティーが開かれた。
それなのに最終段階のコンピューター移行で朝からてんてこ舞いだった。
18時からのパーティーに間に合わず経理課だけ仕事をしていた。

「桜田さん、こんなフォアグラ今しか食べれないよ」
永尾さんが経理課にやって来て、そう言って山盛りのお皿を私に手渡した。
お皿の上にはキャビアとロブスターも乗っていた。
それを見て、なんでこんな日に残業しなきゃならないの!って思った私は涙ぐんだ。
その瞬間を彼は見逃さなかった。 

「すごいご馳走で感激しちゃった?」
「・・・」
「本社に送信した累計と合わないんだってね。それは桜田さんだけのせいじゃないじゃん」
「なんで知ってるの?」
私は顔を上げて彼に聞いた。

「今、稲村さんがビールを取りに来たとき支社長に説明してたから」
「本社にそのままデーターが行くはずだから数字が合わないのはおかしいんだ」
「そっか。ねぇ俺さ、ここ途中で抜け出して営業所のほうのパーティー行くんだけど一緒に行く?」
「え、うん行きたい。でも何時に終われるかわかんないんだ」
「待ってるから早く終われるように頑張って」
彼は小声でそう言ってパーティー会場の方へ消えて行った。



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