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Civil Warが生んだ米ドル

 2021年5月、バージニア州リッチモンド市の「American Civil War Museum」で、企画展「Greenback America」を見ることができました。経済歴史的に非常によくまとまっていて面白かったので記録代わりに展示内容をまとめておこうと思います。

American Civil War Museumとは

その名の通り、アメリカ市民戦争(日本では南北戦争とも言います)にフォーカスした博物館。バージニア州内の3ヶ所に点在します。企画展をやっていたのリッチモンド市のJames River近くのHistoric Tredegar site にあるところです。(ちなみに、Historic Tredegar siteはかつての鉄工所の跡。めちゃくちゃ広かった。詳しくはこちら

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市民戦争きっかけに誕生したドル


で、そのCivil War を取り上げる博物館でなぜ「Greenbacks America」という企画展をやっているかというと、Greenbacks=dollarそのものがCivil Warきっかけに誕生したからです。

そもそもCivil War 前は、各州にある銀行がそれぞれnote=お札を発行していました。きちんと発行の裏付けになる金を保有しているところもあればそうでないところもあり、発行する銀行によって信用力が違ったようです。

その中で1861年にCivil War 開戦。1776年の建国からアメリカは市民の騒乱や対外戦争はありましたが、国を分けた戦争はこれがほぼ初めてだったといわれています。最終的な死者数の多さもさることながら、とにかく戦争には武器を含む兵站の購入から兵士の給料までとにかくお金がかかる。奴隷制廃止を求める北部の州中心の合衆国と奴隷制度の維持を求める南部の州が中心になった連合国のどちらもそれぞれ資金繰りに頭を悩ませます。展示によると、政府は当時のお金で1日250万ドル(1863年時点)必要だったそうです。

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(展示されていた合衆国軍の軍服。それぞれいくらか書かれていました)

そもそも当時の北部と南部では、経済環境が大きく違いました。奴隷という相対的に安い労働力をベースにした綿花などのプランテーション経済が中心の南部に対し、工業化が進んでいた北部。南部は綿花をイギリスの綿工業向けに輸出していたのに対し、北部はイギリスを含む欧州企業に対抗することが求められていました。ただ、現代のように税制や国債発行の仕組みが整っていなかったため、合衆国も連合国もどちらも戦争に必要な十分な資金があったわけではありませんでした。

借金か、課税か、お金を刷るかーー当時の両方の国の議会が取れた選択肢は限られていました。

合衆国政府はインフレを懸念してお札はすりたくない。課税も反対が大きい。ということで銀行からの借り入れで賄うことにします。ただ、やはり不足があったようで、合衆国は初めて所得税を導入します。

もちろん銀行は無限にお金を貸してくれるわけではない。そもそも当時はお金の発行には裏付けとなる金が必要だったので銀行も無限にお金を出せるわけではなく、1861年12月にとうとう銀行は「これ以上米国債は購入しない=米政府にお金をかさない」と言い出しました。

リンカーン

(当時の風刺画。リンカーン大統領が連合国軍と銀行に悩まされていることを示しています)

とはいっても戦争は続き、戦費はかさむ。合衆国政府はお金が必要。ということで、National Bank Actを成立させ、国立銀行を作って紙幣の発行に踏み切りますがそれでも長引く戦争のコストをカバーするには不十分。結局、当時の財務省が金や銀の裏付けなく政府の信用だけで法定通貨を発行することになります。これがdollarの始まりです。


ちなみに連合国側はどうしたかというと、こちらも合衆国政府同様に、政府による紙幣の発行に踏み切ります。こちらはGreybacksと呼ばれました。合衆国政府ほどインフレを懸念したかったようで積極的に紙幣を発行したほか、市民に課税し、銀行や欧州の国から借金も重ねました。北部ほど工業化が進んでおらず、武器を含め軍に必要なものの購入に資金がより必要だったという事情もあります。連合国側の州ではインフレが進み、食料を手に入れられなくなった市民による暴動も起きたという記録があります。

Civil War は南部の州などを戦場とし合衆国軍の勝利で終わります。通貨の、GreenbacksとGreybacksの戦いについても、Greenbacksが生き残ることになりました。

ちなみに戦時体制の終了とともに、米国は金本位制の戻るため必ずしもすぐにGreenbacksの発行量が増えたわけではありません。ドルが信頼を得て、アメリカ合衆国内で使われるようになるには長い時間がかかったのです、


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