見出し画像

聞き書きワークライフ~雑誌編集・アニメ宣伝P~

世の中にある色々な仕事・職種の話を聞くのが好きです。
「営業は会社の顔!」とか「経営企画は社長の参謀!」とかの、印象的だが実際のところよくわからないフレーズでも語られがちな「職種」について、肌身で分かる話を人から聞いて、溜めていくのを細々としたライフワークにしたい。
今回は30代男性から、雑誌の編集とアニメの宣伝プロデューサーについてです。

画像1

――まずは雑誌の編集から聞かせて下さい。どんな仕事なんですか?
■そのまま、雑誌の内容を作っていく仕事ですね。「連載」と「特集」があるんですけど、編集として体力を使っていたのは「特集」の方かな。
四半期ごとの特集会議で、先々の特集を決めるところからスタートですね。月刊誌で、1号につき2つくらいの特集を載せるから、年間だと24くらいの特集をやるんですよ。それで、1つの特集を2~3人の編集チームで担当します。
当時の部署には10人くらい編集がいたので、自分は「2ヶ月分続けて特集を担当して、次の1ヶ月は特集なし」のようなペースで働いてましたね。

――なるほど。特集会議とは、編集それぞれが持ち込んだネタを話す会議ですか?
■そう。プレゼンというよりブレストに近い感じで、各々の面白いと思うネタを話し合う。
40代女性をターゲットにした雑誌だったので「何を読者に面白がってもらえそうか?」を決める会議で、同年代の女性編集者の発言力は強い。当時の自分のような、20代男性の意見は弱かったですね笑
会議が進む中で、編集長がホワイトボードに「〇月の特集はこれで、表紙はこんな感じで」と、これから発刊される雑誌の骨組みを書いていきます。

――特集会議が近づいてくると、編集としては緊張してくるんですか?
■そうでもないです。持ち込む企画書も箇条書き・メモ書き程度のもので、会議の前週とかに書き起こすかな。
特集会議のスケジュールに関係なく「そういえば今年は〇〇が10周年だな」「最近は芸能人の〇〇さんが話題だな」のようなアンテナは常に張っておいて、会議の直前にざざっと紙にまとめるイメージかな。

――会議で決まった特集への、編集のアサインってどう決まるんですか?
■特集のネタを出した編集は絶対入る。あと追加の1~2名は、編集本人の志向性と、稼働の状況を見て…かな。
――自分が先々の特集にアサインされたとして、何か月前くらいから準備を始めます?
■特集の内容にもよりますね。インタビューをたくさん行いたい特集であれば、インタビューの申し込みもあるので3か月前には動き出すかも。
■特集にアサインされたら、まず「特集企画書」を作って編集長にプレゼンします。それでOKが出れば「じゃあ〇〇さんにインタビューして、最終的に〇ページ分のデザインをデザイナーさんに依頼して……」のようなToDoとスケジュールが決まります。

――特集会議に持ち込む「ネタ書」と、特集にアサインされてから作る「特集企画書」ってどう違うんですか?
■特集会議に持ち込むのは「特集タイトル案+1行の説明文」くらいの、本当に箇条書きのペーパー。
実際にこの特集やるぞとなって、担当に付いた編集が作る「特集企画書」はもっと具体的で「このくらいのページ数で、このインタビューとこのコラムを盛り込んで、こういうロケをして…」という内容かな。特集の目次に近いかもしれないです。

――特集会議の話に戻っちゃいますけど、よく特集タイトル案だけで特集決めができますね……。いわゆる「起業の会議」とイメージが違うかも。
■そうですね。さっきも言いましたけど、会議というよりブレストに近いです。例えば「〇〇さん特集」という特集タイトルを誰かが持ち込んで「〇〇さんってこういう人で、最近凄く注目されていて、こういう企業タイアップにも起用されていて、このくらいの数字を持っていて……」ということを話す。それを受けてみんなで議論して、最終的に「じゃあ面白そうだからやってみようか」と決まっていきます。

――なるほど。そうやって特集の内容が決まって、担当の編集がアサインされて、特集の目次とToDoが決まったら、あとは実行するだけって感じでしょうか?
■そうですね。実行で言えば最初のヤマ場が、雑誌に出てほしい芸能人の方から、事務所OKを貰うところですね。
■正直な話、雑誌の報酬ってテレビCMと比べてかなり安いんですよ。なので「〇〇さんにとって、このタイミングで、この特集を飾る意味・ファンからの見え方」等を、企画書も用意してかなり丁寧に事務所の方に説明します。
――そこで事務所OKが貰えなくて、特集が立ち消えになることもある?
■あります。

――そのヤマ場を越えたら後はどんな仕事が待っています?
■取材の事前準備ですね。ライターさん・カメラマンさん・スタイリストさんへのインプット等です。今回こういう取材で、こういうテイストの紙面にしたいです、ということをそれぞれの方に話します。
■あと、取材で聞く内容、取材全体のテーマ設定もあります。
単に「〇〇について教えて下さい」という形で取材しても良いものは出来ないので、例えば「〇〇はコミュニケーションのバイブルである」みたいな仮説を設定して、それを実証するようなインタビューにしたい。そうするために、何を聞くか?何を話してもらうか?をイメージしていきます。
そのテーマはライターさんにも事前にすりあわせますね。
■それで実際に取材をして、ライターさんが書いてくれた記事に対して編集側で修正を入れて、事務所の方からも承認を貰って、という流れです。
■テキストや写真が揃ったら、デザイナーさんに渡して紙面のデザインをしてもらって、校閲かけて、デザイン後の紙面で事務所の方にもOKもらって…と進めていって校了です。

――結構、期日のあるタスクや関係者が多いですね。なんとなくプロジェクトマネジメント的な仕事でもあるんでしょうか?
■そうですね。毎月、結構なページ数で出る特集について、そのすべてを決められた期日に作る、そのためにToDoとスケジュールを考える、というのはプロジェクトマネジメントの世界です。

画像2

――次は転職後の仕事について。アニメの宣伝プロデューサーって何をする仕事なんですか?
■宣伝予算を預かって、その効果的な使い方を計画立てて、実行する仕事ですね。
■アニメって、色々な会社が集まって制作委員会を作って、各々がお金を出し合うんですよ。そこから宣伝予算を預かる感じですね。

――交通広告に〇〇円、web広告に〇〇円的な、予算配分を決めるということ?
■そういう配分もします。一番効果的にアニメの認知を向上するためにはどうすればいいか?を考えて、制作委員会の会議でプレゼンしますね。
「このアニメのターゲットはこういう層だから、こういうメッセージで宣伝すべき」というコンセプトの部分も決めれば「この人に宣伝大使に立ってもらって、こういうイベントを打って」のような実行計画も話します。
■ちなみに、アニメで収益を立てる方法って、DVDやブルーレイ、グッズの売り上げもあるんですけど、そういう収益が強かったのって一昔前の話です。今、一番収益に繋がるのは放映権の販売で、とくに海外放映権です。「このアニメを北米や中国で放映する権利」に値段をつけて売る、ということですね。
その放映権は、アニメの放送が始まる前に売買されるので、宣伝プロデューサーとしては「アニメが放映される前に話題性を作っておいて、第1話放映時点で制作コストの回収見込みがある程度たっている状態」も理想として意識しますね。
――なるほど。外国での放映権って、日本で実際に放映される前に売買するんですね。日本で放映した時の反応・話題性を見てから放映権を売買する、みたいなことはしないんですか?
■日本で放映して、話題が出てから外国でも放映、という時間差を作ってしまうと海賊版が出回ってしまうんですよね。なので、日本でも外国でも同時放映が基本です。

――第1話の放映までに、宣伝のコンセプトと実行計画を立てたら、あとは実行フェーズですか?
■そうですね。インタビューの申し込みに対応したり、書き下ろしイラストをさばいたり…の色んな仕事をしますね。計画の仕上げと、色んな実行・準備が重なる放送1か月前が一番忙しいです。
■放映されると、だんだん週次のルーティンに近づいていきますね。毎週の放映に合わせた発信・SNS運用とかです。

――宣伝の頑張りどころってどういうところなんでしょうか?
■広告予算がふんだんにあるわけではない中、いかに効率のいい宣伝をするか、ですね。例えば飲食店とのコラボやリアルイベントを通じて、どれだけコストパフォーマンスが高い認知向上を見込めるかなどを考えます。

――飲食店とアニメのコラボは確かによく見ます。あれはどうやって形にするんですか?
■飲食店さんへの営業ですね。コラボするメリットを丁寧に説明します。パンフレットの制作・配置や、店舗でのグッズの受渡し等の負担を飲食店さんにはかける形になるので。。。
■既に話題性のあるアニメ作品とのコラボだったらスムーズかもしれませんが、そこまで知名度のない深夜アニメを担当することも多く。。。飲食店の方もアニメに詳しくはなかったりすると、営業の入り口では「なんでやるんだっけ?」の議論が濃くなりますね。

――前職の雑誌編集とかなり違う仕事と思うんですが、どうやってキャッチアップしたんですか?
■最初は先輩について、仕事をそばで見ながら、ですね。
場面場面で行う仕事の種類が広すぎて、全体像が見えない時期は混乱しました。アニメに関するインタビューの監修、飲食店へのコラボ営業、ラジオ番組の台本を放送作家の方と考える……等、一つ一つの仕事がかなり多種多様なので。。。
でも、宣伝プロデューサーという仕事の全体像が見えて「それぞれの作業が、宣伝プランの中のどの位置を担っているのか?」が自分の中で整理できるようになると、だいぶ仕事はやりやすくなりました。

画像3

――雑誌の編集と、アニメの宣伝プロデューサーと、2つの職種をやってみてどうでしょう?それぞれの面白味ってどんな部分にあります?
■雑誌編集は、チームや関わる方々の人数も小規模で、自分たちの考えることをどんどん形にできる面白味があった。自分の仕事に対してグリップが効く、という感覚かもしれない。
■宣伝プロデューサーは、関わる人の数も、取り扱う金額の規模も一気に増える中で、大きな計画を回していくやりがいがあるかな。

――宣伝プロデューサーの面白さをもう少し聞かせてもらえますか?
■自分の考えた企画に対して、予算がしっかりついて、色んな人が動いてくれるという面白さかな。こういう企画を、このタレントさんを起用して実行したい、となれば、その通りに物事が動いていきます。
――大変な部分は?
■今お話ししたことの裏返しですね。予算をつけてもらって、人に動いてもらう分、調整役に回ることも多い。
■クリエイターではなくてあくまでサラリーマンという位置づけとして、施策実行のための色々な調整役は引き受けます。
その調整がうまく効かないと良い企画は出来ないし、世の中にクリエイティブも発信されないと思うので、そこは自分の介在価値と思っているかな。
特に、委員会形式で色々な企業が関わることにもなるので、こっちの企業の利益があっちの企業の不利益にならないように…というような交通整理には気を使います。
■これは余談ですけど、日常業務のやりとりにしても、関わる人がクリエイターの方やミュージシャンの方だったりするので、深夜じゃないとなかなか連絡がつかないとか、そういう難しさもちょっとありますかね笑

(30代男性 雑誌編集 ⇒ アニメ宣伝プロデューサー)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?