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仕事の狩人たち

早川書房から出ている「新薬の狩人たち」という本が面白い。アスピリンのような薬の開発秘話を、短編形式で綴ったノンフィクションだ。
本書では、新薬の研究者たちを「ドラッグハンター」と呼ぶ。最初にその呼び方に触れたときは少し違和感だった。なぜなら「新薬開発」という言葉は、白衣のドクターと清潔なラボ、コンピューターによる計算と論文の山を連想させるからだ。なんとなく、アクティブで原始的な「ハンター」という呼び方とは距離があるように思う。
読み始めてすぐに考えは変わった。新薬開発の世界というのはまぎれもなくハンティングワールドだった。

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新薬とはどうやって開発されているのだろうか?本書では「ラボでイチから合成される新薬」にはほとんど記載がない。研究者はみんな、自然界にある現象や物質からあたりをつけていくのだ。
マラリアの予防薬を探して「ドラッグハンター」は南米のジャングルに行き当たり、ケチュア族がお茶にして飲んでいたキナ皮をついに見つけ出す。
はたまた結核に対抗するために、農耕地を掘り返してペニシリンを見つけ出す。(この発見以降、各地の土壌を掘り返して「宝」が無いか分析するのがトレンドになったらしい)
経口避妊薬の開発に一役買ったハンターは、目的の成分を含む植物を探して南米をあてどなく南下し、リオグランデ川を渡ったメキシコでついにヤムイモを見つけ出す。
エリートたちがブレインワークをしている、というような先入観とは対照的に、新薬開発の世界が冒険のように紹介されている。

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「こりゃ確かにハンティングだわ」と思いながら読み進めるなか、ハンティングつながりで思い出した語があった。何年か前に六本木の21_21 DESIGN SITEで知った「カラーハンティング」という言葉だ。
デザイナーの藤原 大さんのとなえたアイデアであり、その意味は
「自然界をめぐり、気に入る『色』を見つけ出し、紙片にその色を再現する(=自然界の色を採取する)」という営みだ。
以下の広告を見てもらえれば、どういう行為なのか一発で分かるんじゃないかと思う。

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色なんかペイントソフトでいくらでも作れるのに、なんとまあアナクロな……と感じる部分もある反面、「色のハンティング」というアイデアが妙に楽しそうに聞こえるのも事実だ。

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新薬のハンティングと色のハンティング。ハンティングという言葉の何が魅力的なんだろうか?

きっと、「ハンティング」には
・心身を使って生々しい体験を稼ぎに行くフィールドワークのニュアンス
・未知との遭遇のニュアンス
が含まれている。論理的ではないが行動的で、原始的な好奇心や探索欲にこたえてくれるような意味合いがあれば、それはハンティングなんだと思う。

そして、本題。
大学受験の英語塾で、先生に「就職活動のことを英語では『ジョブハンティング』と呼ぶ。なんとなく格好いいだろう」という話をしてもらったことがある。
では、「仕事をハンティングする」とはどういう行動を指すのだろう?

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フィールドワークと発見のニュアンスに沿えば、現実世界の色々なところに顔を出しながら/人の話を聞きながら/情報にふれながら「世の中にこんな仕事が」「こんなプロダクトが」「こんな技術が」と気が付くことが「仕事をハンティングする」ということなのだと思う。
社会人として働き出してから、はや6年。バイトも含めると10年。日々暮らしている現実世界の同一平面上に、こんな業界やこんな仕事があったのかと思うことは絶えない。そうしたことを知るのは純粋に楽しいし、話を聞くのも嬉しいし、自分のキャリアとして心惹かれることもある。

webサービスの本人確認に特化したAPIと業務アウトソース、とか
ECサイトの購買と在庫発注を直結させるプラットフォーム、とか
メディアレップって誰やねん、書店取次って何者やねん、短資会社って……とかとか。

既知の仕事や企業を検索していくポジションサーチ的な活動とは別に、そうした発見のニュアンスを含む出会いを狙いに行くことが、ジョブハンティングなんだと思う。ハンティングの中で誰もしていない新しい仕事を見つけて、自分で刈り取ることもあるだろう。twitterで話題の「レンタル何もしない人」とかはハンターの異端児なんだと思う。

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夢と志を持って自分で事業を始めましょう!あるいはスタートアップに転職しましょう!という話がしたいわけじゃない。ハンティングという言葉の滋味を、新薬とカラーのほかに「仕事」にも持ち込んでみたかった、というnoteだ。

・そもそも知るのが楽しい、いろんな話を聞きたい。転職とは別の話
・発見した仕事に飛び込んでみる。収入は二の次。好奇心の赴くままに
・発見した仕事を試してみる。本業とは別に、副業の範囲で
・収入も家族も、条件を満たせる仕事が見つかるまで探索を続ける

ハンターの足取りはさまざまである。

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