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ロスバンド

北欧ノルウェーの映画を観る機会なんてそうそうないから、これは絶対観たいと思っていた『ロスバンド』。そうこうしているうちに公開から1ヶ月以上経ってからの鑑賞になってしまった。

Twitterでの評判はちょくちょく目にしていた。青春音楽ロードムービーなんて盛りだくさんだなあと思っていたが、実際盛りだくさんな映画だった。

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ケンカばっかりの親と音痴なのに自覚のない親友アクセルに悩む主人公グリム、好きな女の子を振り向かせたいアクセル、親に放置され友達もいない孤独なティルダ、親の仕事を継ぐために夢を諦めたマッティン。そんな凸凹4人組が、ロック大会に出場するためにトロムソへ向かう。

あらすじや設定だけでもこれほどまでに濃い。しかし不思議と胃もたれはしない。グリムとアクセルが組んだバンド名は「ロスバンド・イモターレ」なのに…なんて。笑

不思議と胃もたれしないのは、ストーリー構成と設定のバランスだろうか。これだけのキャラクターにこれだけの設定があれば、誰かしらの葛藤は回収されずに終わってしまいそうなものだが、そんなことはない。強いて言うならティルダの家族の話が薄くも感じられるが、彼女の大人びた様子からなんとなく両親について想像がつくので補完できなくもない。

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そして年齢設定。4人みんなが同年代じゃないところも上手い。グリムとアクセルは幼馴染、そこに加わるのは少し歳下のティルダと少し歳上のマッティン。このバランスが絶妙。自分の家族とも向き合いつつ、ちょっとだけ人生の先輩であるマッティンが、3人を見守るような立ち位置になっている。ティルダの事情に真っ先に気づいているし、不幸のどん底に沈むアクセルを励ます姿も良いお兄ちゃんという感じだ。マッティンは弟なのだが、マッティンのお兄ちゃんがしょうもないので……。下の子のがしっかりしている兄弟姉妹ってけっこういるものだろう。

ロードムービーの始まりはなかなかに唐突だが、中だるみもなく疾走感さえある。ノルウェーの美しい自然とロックミュージックがちぐはぐなようでなかなかクセになる組み合わせだ。4人組も魅力的だし、トロムソまでの道中で出会う人々もひとクセもふたクセもあって面白い。

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中でも私はマッティンに随分熱を上げている。面倒見が良くて、運転も上手くて、歌も上手くて、なんて素敵なお兄ちゃんなんだと、終始にやけながら観ていた。日本の作品だったらティルダがマッティンに恋をしてしまう展開になってしまいそうだが(実際、ちょっとヒヤヒヤしてた)、そんなことはなく安心した。グリムもアクセルもマッティンも、ティルダにとっては初めてできた友達だ。そこに変に恋愛的展開をもってこなかったあたりにもかなり好感がもてる。この映画での恋愛担当がアクセルなのも良い。もしマッティンに彼女がいる設定だったら泣いてた(私が)。

マッティンを演じるJonas Hoff Oftebroは両親も兄も俳優というなんとも華やかな家族構成だ。そしてなんとこの『ロスバンド』ではお父さんと共演している。マッティンの父親アスラクを演じているのがJonasの父Nils Ole Oftebroだと、パンフレットを読んでから知った。親子共演、ノルウェー本国では話題になったのではないだろうか。

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ただの音楽映画かと思いきやド派手なロックミュージック、ノルウェーの豊な自然の中を走り抜ける爽やかなロードムービーかと思いきやいきなり始まるカーチェイス。グリムとアクセルとティルダを見て、登場するのは子どもだけかと思ったら現れるちょっとお茶目で超かっこいい整備士のお兄ちゃんマッティン(どんだけマッティン好きなん)(設定では17歳です)。笑えて泣けて、家族とも友達とも恋人とも楽しめる心温まる素敵な映画。私の中ではアカデミー賞総なめにしているのだが、ノミネートすらされていないのが惜しい。北欧からの素晴らしい贈り物である。

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