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タイガーマスク。正体がバレたからって、何も去らなくとも。

 今回の記事は、アニメ、漫画作品「タイガーマスク」のネタバレを含む。
 「タイガーマスク」未見の方で、ネタバレは困るという方は読まないでいただきたい。

 私が幼稚園の頃から小学校低学年の頃(1969~1971年)放送されていたアニメ「タイガーマスク」。
 男子の間では超大人気だった。
 原作は梶原一騎氏。
 氏の代表作を3つ挙げるとすれば、「巨人の星」、「あしたのジョー」、そしてこの「タイガーマスク」となるだろう。
 この3つの中で、私はタイガーマスクが断トツに好きだった。
 普通の人間がマスクをかぶって強いプロレスラーになる――まるで、ウルトラマンや仮面ライダーのような変身ヒーローのかっこよさがタイガーマスクにはあったのである。

 タイガーマスクになるのは、伊達直人という22歳の青年。
 身長181cm、体重87kgという設定だから、プロレスラーとしてはかなりの細身だ。

 伊達直人という名前は「タイガーマスク運動」というチャリティ活動でかなり有名になった。
 タイガーマスクのアニメや漫画は知らなくとも、タイガーマスク運動や伊達直人の名前を知っている人は多いだろう。

 タイガーマスク運動は、「タイガーマスク」という作品の中で、伊達直人が恵まれない子どもたちに寄付活動をしていたことに由来する。
 伊達直人は自らも戦後生まれの孤児で不遇な生い立ちだった。
 そのため、自身が稼いだファイトマネーを、自分同様の境遇である孤児たちのために寄付していたのだ。

 アニメ版と漫画版では最終回が異なる。
 漫画版ではなんと伊達直人は子どもをかばい、交通事故で亡くなってしまうのだ。
 だが、アニメ版ではリングの上でマスクをはぎ取られ、日本中に正体がバレた上で、プロレス界を去る――という終わり方だった。

 私はこのアニメ版の最終回が大好きだった。
 当時の変身ヒーローは、正体がバレると去らなければならないというのが定番だった。
 その意味では、タイガーマスクは正に特撮の変身ヒーローだったのだ。

 だが、今にして思うのだが、伊達直人は何も正体がバレたからといって、皆の前を去る必要はなかったのではないか。
 そりゃあ、孤児院「ちびっこハウス」の子どもたちの前では、それまで「金持ちのキザにいちゃん」として振舞っていたのが実はタイガーマスクだったんだよ――というのはバツが悪かったかもしれない。
 しかし、子どもたちは、金持ちのふりして、実は必死に戦って得たファイトマネーを自分たちに提供してくれていた伊達直人のことを、尊敬こそすれ、軽蔑することはないと思うのだ。
 最初はお互い照れ臭いかもしれないけれど、去ることはあるまい。
 また、伊達直人に思いを寄せていたちびっこハウスの先生、若月ルリ子の気持ちを、直人も自覚していたはずである。
 残されたルリ子も気の毒だ。
 まだ22歳なのに、プロレス界から足を洗い、今後伊達直人はどうやって生計を立てていくのだろうと単純に思う。

 アニメ大国ニッポン。
 いろいろな作品の後日談が、何年か後、あるいは何十年か後に作られることがある。

 たとえば「ハクション大魔王」。
 これも私が幼稚園から小学校の頃の1969~1970年にアニメが放送されていて、やはり私は大好きで見ていたのだが、最終回ではハクション大魔王たちは100年の眠りに就いてしまう。
 これでもうハクション大魔王たちには会えないのかと思いきや、21世紀に入っていくつかの続編が作られた。
 そのうちの1つ、2020年に放映された「ハクション大魔王2020」は、私が幼稚園のころ眠りに就いたそのハクション大魔王の直接の続編だったのだ。
 たしか100年の眠りのはずだったが、50年でなぜ目覚めたのかについての説明はなかった。
 なかったが、当時子どもだった主人公のカンちゃんが、今ではおじいちゃんになり、ハクション大魔王やアクビたちとドタバタを繰り広げるのはその孫という、リアルタイムで物事が進行しているのは、カンちゃんと同じくらいの歳で、やはり同じように孫もいる私にとっては嬉しいものだった。

 さて、タイガーマスクだが、こちらも続編は作られている。
 しかも、ご丁寧なことに、漫画版の続編と、アニメ版の続編の、両方があるのだ。
 一方の作品では伊達直人は亡くなっているから、この2作品は両立しえないわけで、2作品の関係は言わばパラレルワールド。
 ただ、どちらにも伊達直人は登場しない。
 回想シーンにしろ何にしろ、続編版の主人公と伊達直人との間に、何らかのつながりがあり、伊達直人からの直接の遺言なり委託なりを受けて、新作のタイガーマスクが活躍――というように描かれていたら、私としては嬉しかったのだが、そうはならなかったようだ。

 タイガーマスクは、現実のプロレスラーも存在する。
 私は子どものころ、本当にタイガーマスクというプロレスラーが登場してくれたら、どんなにか人気が出るだろうと思っていた。
 ただ、あのアニメや漫画で描かれた虎のマスクを、実際に立体化するのは不可能だから、その理由をもって現実のタイガーマスクは登場しないだろうと思っていた。

 状況が変わったのは私が高校生のときだ。
 1981年、本物のタイガーマスクが新日本プロレスに登場したのである。
 私は、真っ先にマスクを確認した。
 あの、アニメや漫画で描かれた、「まんま虎」のマスクをどう立体化したのだろうと興味津々だったのである。
 見て「なるほどなあ」と感心した。
 「まんま虎」のマスクではなかったのだ。
 白覆面のプロレスラー、ザ・デストロイヤーや、仮面ライダーに出てくるショッカー戦闘員がかぶっているマスクがある。
 まあ、普通のマスクだ。
 それを、虎模様にし、耳を付け、たてがみを付ければ――虎覆面の出来上がり。

 頭にかぶり物をしてプロレスを行うわけである。
 なので、現実のプロレスラーであるタイガーマスクの覆面は軽いものでなければらならない。
 だから、ザ・デストロイヤーやショッカー戦闘員がかぶっているマスクのように布製である必要がある。
 また、安全上、視界が確保されなければならない。
 だから、目のところが大きく開いている。
 呼吸も確保されなければならない。
 激しいプロレスを行うわけであるから、息ができなかったら大変だ。
 現実に登場したタイガーマスクの覆面は、次々改良が施され、鼻と口元が大きく開いたデザインに落ち着いた。
 実際のタイガーマスクの「中の人」を務めた佐山サトル氏の身体能力の高さもあり、タイガーマスクは大人気となった。

 タイガーマスクの中の人が佐山サトル氏であることは周知の事実だった。
 新日本プロレスの他のレスラーやスタッフ、観客もみんな知っていた。
 知っている上で、夢を共有し、楽しんでいた。

 現実には、この佐山サトル氏のように、覆面レスラーの正体はみんなが知ることになるケースが多い。
 アニメや漫画のタイガーマスクのように、他の人が一切その正体を知らないということは、実際には不可能だ。

 そういった意味でも、現実に照らし合わせれば、正体が最終回でバレた伊達直人が皆の前から去らなければならない理由は何もなかったのである。
 隠れて悪いことをしていたのならばともかく、伊達直人は隠れて良いことまでしていたのだ。
 だが、当時のヒーローは、正体を伏せるものであり、正体がバレれば、皆の前から消え去らなければならない存在だった。
 なぜかは分からないが(いや、どの作品でもそれなりに去る理由の説明はされるのだが)そうだった。

 平成や令和になると、変身ヒーローの正体がバレても、それまで同様みなといっしょにこれからも過ごす――という描写が増えてきた。
 やはり時代の変化だ。
 それにそもそも、去らなければならない必然性は無かったわけだし。

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