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【KX物語 第6話】kさん、「想い」をなくしたことに気づき、変わり始める。

 心が騒いでいます。心の中のもやもやがどんどん大きくなるのを感じています。

 あなたには、そして、会社のメンバー一人ひとりには、
 ワクワクしたり視野が広がったり
 化学反応が生まれたりするような

 つながりが生まれているでしょうか?

という声に、kさんの心はかき乱されています。
・・・またワクワク、かよ。会社の人間と一緒にいても、ワクワクなんてするわけないだろうが、、、
 自分にそう言い聞かせようとしながら、大きな引っ掛かりが心の中で生まれているのを、kさんは感じています。
 そんな心の乱れをさらにかき立てるように、スクリーンが映し出されます。また次のシリーズが始まるようです。こんな問いかけの文章が、スクリーンに浮かび上がります。

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会社の人たちと、社会をどうしたい、会社をこうしたいといった“ビジョナリーな話”“青臭い話”をよくする
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 kさんは、迷わず、スクリーンから抜け出てくるように目の前に現れる4枚のカードのうちの一番右に手を伸ばし、そのカードに書かれている言葉を声を出して読み上げてしまいます。
全く違う!
 そして、何度も首を横に振りながら、うなだれていきます。
・・・ビジョナリー? 青臭い? ないない。いつもみんなKPIの数字の話とか、競合の話とかばっかりだよ、、、
 そう独り言を口にしながらも、kさんの頭には、名刺の裏に書かれている会社のビジョンワードが浮かんでいます。
・・・それっぽいことを言葉にして掲げているのに、、、その言葉を形にしたときの気持ちはどこに行っちゃったんだよ、、、それとも、最初から所詮はきれいごとだったのかよ、、、
 続いて映し出されたのは、こんなセンテンスです。

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会社の人たちとの会食などのインフォーマルな場では、仕事で実現したいことやキャリアビジョンといった“未来の話”をよくする
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 この質問にも、迷わず「全く違う!」のカードに手を伸ばしかけながら、kさんは少し考え込んでしまいます。
・・・行ってないなあ、、、会社の人たちとの飲みなんて、コロナになってから一度も行っていない。でも、行ってる人もなんかいるみたいだよなあ、、、みんな何話してるんだろう、、、
 kさんの頭に、コロナ前に同僚たちと飲みに行った時の様子が浮かんできます。
・・・今もやっぱり部長の悪口かな(苦笑)、、、でも、グチばっかり言ってたけど、最後の方には、何か青臭い話もしてたよなあ、、、
 そして思い出します。今の部署に異動してきたばかりの時のことを。歓迎会の席上で、kさんはかなり熱っぽく語ったのです。
・・・初めてでちょっと緊張していたし、カッコつけたくもあったし、酒の力もあったし、、、でも、あの頃は、いいチャンスが巡ってきたって思っていたんだよ、確かに。
 そんな出来事を思い出しながら、kさんは問いかけに答えていきます。ほどなく、またスクリーンが消え、薄暗がりの中から再び例の声が聞こえてきます。

 ここまでの10の質問に答えて、
 あなたは今、何を感じているでしょうか?

 kさんは、自身の感情が少し変わっているのに気づきます。もやもやしているのは変わらないのですが、先ほどまでのどんよりとした気分とは違います。でも、その気持ちは言葉になりません。そんな変化を感じながら、kさんは例によって、シリーズのテーマに想いを馳せ始めます。
・・・このシリーズは、ビジョン、かな。ビジョンっていう言葉が何度も出てきたしな。
 そう呟きながら、kさんは薄暗がりの中で、次の言葉を待ちます。その気持ちに応えるように、声が聞こえてきます。

 あなたには、想い、、、が、生まれているでしょうか?

・・・想い、か。そういえば、その言葉も何度か出て来ていたな。妄想、なんて言葉も出てきたし。
 例の声は、こう続きます。
 
 あなたには、そして、会社のメンバー一人ひとりには、
 どうありたい、こうしたい、
 こうなってほしい、というような

 想いが生まれているでしょうか?

・・・生まれてないな。いや、生まれていたんだけど、どこかへ行っちゃった、、、
 そう呟きながらも、さっきまでの心の乱れは少し落ち着いています。kさんは、自分の中に起きているそんな変化の正体が、少し分かってきたような気がしています。もやもやの原因が、何となくですが分かってきたような気がしています。
・・・それは、つながりがなくなっちゃったからなのかもしれない。想い、前はあったよなあ。ワクワクするまで行っていたかどうかわからないけど、「こんな事をしたい」って前向きに思っていたし、それは、あの時のメンバーと仕事をしている中で生まれていたんだと思う。あの時のメンバーとは、確かによく雑談していたもんな。でも、異動して、コロナになって、今の部署の人とは、表面的な付き合いしかしていないかもな、、、
 やがて、スクリーンが再び映し出されます。また次のシリーズが始まるようです。
・・・これで5回目のシリーズだよな。確か50問って言っていたから、これが最後のはず、、、
 現れたのは、こんな問いかけです。

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この会社は、社員の意志や選択を最優先していると思う
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 これにも、迷わず「全く違う!」のカードに手を伸ばしかけ、その手を一度引っ込めます。
・・・してないよね。最優先しているのは社員の意志じゃなくて、会社の意向だよね。だから私の想いも、なくなっちゃったんだよね、、、
 そう考えながらも、引っ掛かりが生まれています。かつて心の中にあった想いは、なぜなくなったのだろうか。会社に奪われたのだろうか。そんな引っ掛かりを持ちながらも、問いかけに答えていくと、またさらに引っ掛かりのある文章が映し出されます。

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この会社の全体的な仕組みは、とても画一的で、新たな考え方ややり方をなかなか受け入れてくれない
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・・・受け入れてくれないよな、、、
と思いながら、「その通り!」のカードに目をやりながら、少し考えてしまいます。
・・・私ごときが何か言ったって、何にも変わるわけないよな、、、
そう思いながら、また少し心が騒ぎ始めています。問いかけに対する答えかたに、迷いが生じながらも、回答を続けていきます。
 やがて、またスクリーンが消え、薄暗がりの中から再び例の声が聞こえてきます。

 ここまでの10の質問に答えて、
 あなたは今、何を感じているでしょうか?

 kさんは、言葉を見つけられずにいます。同じ声に対して「どんよりしていますよー」と投げやりな感じで答えていた先ほどまでの自分と今の自分の違いに、少し戸惑っています。その戸惑いをさらにあおるように沈黙が続きます。kさんの頭の中は、この小屋の内の薄暗がりと同じように、もやがかかったようになっています。
 やがて、沈黙を破り、声が聞こえてきました。

 あなたは、ヘンタイ、、、しているでしょうか?

(つづく)


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