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ユヴァル・ノア・ハラリ Unstoppable Us

僕の要約:
人類には超能力がある。だから、見ず知らずの他人と協力することができる。

  私たちがオオカミを追い払い、チンパンジーを動物園に閉じ込めることができるのは、私たちが非常に多くの人々と協力しているからです。一人の人間が一匹のチンパンジーに勝つことはできませんが、千人の人間がチンパンジーの夢にも思わないような信じられないことを成し遂げることができます。他のどの動物よりも協力できるのは、私たちの秘密の超能力のおかげです。見ず知らずの人とさえも協力することができるのです。

The Sapience’s Superpower より(訳)

『人類の物語  ヒトはこうして地球の支配者になった 』 というタイトルで、翻訳出版されています。翻訳アプリを使いながら原著で読みました。

著者のハラリ氏は、ヘブライ大学の歴史学の教授。世界史に関する著作が多い人ですね。ベストセラーの『ホモデウス』や『サピエンス全史』で知られています。今回、ハラリ氏がこどものための本を書いた、ということで読んでみました。

印象的な部分、というか本書の最大の主張だと思いますが、人類が地球を支配できているのは、人類が見知らぬ他人とも協力できるからだ、と著者は語ります。他人とも協力できるから、新人はネアンデルタール人を退場させることができた。そして、あらゆるものを生み出し、月にもとぶことができた。

ではなぜ見知らぬ他人と協力できるのか、それは人類だけが持つ超能力(Superpower)による。
それは何?

実は、超能力は私たちがいつも使っているものなのです。ただ、私たちはそれを超能力だとは思っていません。多くの人は、それを弱点とさえ考えています。それは、ドラムロールをお願いします! - 実際には存在しないものを夢想し、あらゆる種類の架空の物語を語る我々の能力です。伝説やおとぎ話、神話を作り出し、それを信じることができるのは、私たちだけです。

The Sapience’s Superpower より(訳)


面白いのは、本書が積極的に「人類が地球を支配していること」を考察の出発点にしていることですね。あんまりみんなそういうことをはっきり言わないように思いますね。人類よおごるな、おのれの小ささを知れ、という論調の作品の方がたぶん多い。ハラリ氏ももちろん人類が万能だと言いたいわけではないでしょう。でも「今」から過去を考えるならば、人類の今のありかたを説明する必要がある。今は、人類は地球を確かに支配している。

それから著者は、わたしたちの中には原始時代の記憶が残っていて、それが行動に影響を与えることを指摘します。

とくに「速い思考」、「遅い思考」の議論が当たり前のようにふまえられています(ダニエル・カーネマン)。

自分の理解でいわせてもらえば、速い思考は、直感。省エネで非論理的。、遅い思考は論理的で非効率な推論、ということだろうと思います。ハラリ氏はこどもに、この速い思考の世界を積極的に説明しようとしているようにみえる。

「夜、モンスターがこないかと怖くなったことはありませんか?」
「アイスクリームなんて体に悪いのに、食べたくなりますよね?」
「火っていつまでもみていられますよね?」

こどもにも経験がある身近な疑問に、ハラリ氏は人類の太古の記憶が関係しているといいます。

しかし、ある古代人は火に興味を持ち始めました。
「棒や石と同じように火が使えれば......」と、炎が舞うのをじっと見つめることが好きな人もいるのでは?
これも古代人の記憶です。人間は最初、火に対して非常に慎重で、離れたところから観察していました。おそらく、雷が木に火をつけると、その周りに座って光と暖かさを楽しむことができることを発見したのでしょう。そして、木が燃えている間は、危険な動物も近づかないのだ。

The Sapience’s Superpower より(訳)

海外の歴史学では、心理学や行動経済学とのコラボがもはや普通なんだろうと思います。あとバイオ系も。いろんな学問からの歴史学へのアプローチがあって、本書はそれらとのコラボの成果を踏まえている、とあとがきにある。そういう成果をこどもにも積極的に伝えるべきものとしているのが興味深い。

速い思考と遅い思考。これは日本の歴史教育ではあまりふれられないことのように思います。でも、歴史を語るときに、僕はあった方がいい視点だろうと思います。

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