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大人に読んでほしい絵本

絵本は、子どものためのもの。
そんな思い込みも、昨今の絵本ブームでだいぶ薄れてきたように思います。
とはいえ、実際に絵本を手に取って楽しんだり、自分のために購入する方は、まだまだ少ないかもしれません。

あー、もったいない、もったいない。
お客さん、人生損してまっせ。 
(ガラの悪い客引き 笑)

一度その魅力に気づいたら、本屋さんにズラリと並んだ絵本のコーナーは宝の山。
大人だからこそ、より味わい深く、心に染み入る絵本もたくさんあります。 


今日は、大人の方にこそ読んでほしいオススメの3冊をご紹介いたします。




★『へそまがりの魔女』
安東みきえ 文 / 牧野千穂 絵 
アリス館


暗い森に住む年老いた魔女は、人嫌いのへそまがり。呪いをかけることが仕事です。
ある日、魔女の家に迷いこんだ一人の少女。
優しくされたことがなく、だれかを慕ったこともない少女は、魔女と暮らすことになるのですが…。


本屋で手に取り、一目惚れして家に連れ帰った絵本です。

繊細なタッチで、モノトーン。そこに赤の挿し色だけが加わり、非常に印象的でぐっと引き込まれる絵です。
登場人物は動物のみで、とてもリアルながら、洋服を着て二本足で立っている姿は、よりファンタジックな世界観を生み出しています。 

ある日、少女は木イチゴの実を取りに出かけたきり、夜になってもなかなか帰らず、魔女は心配のあまり妖力を無くすほど動揺します。
それまで少女に対して素っ気ない態度だった魔女が、初めて本心を見せるシーンです。
そして少女もまた、初めてだれかに心配されて、胸があたたかくなる経験をするのです。

魔女と少女の間のぎこちない関係が、少しづつ変わってゆき、生まれてくる優しい絆。
そして、呪いの本当の意味がわかった時、心をじんわりとあたためてくれ、ふたりの幸せにしみじみと嬉しくなる素敵な一冊です。


良いことの裏には悪いこともくっついてくる。
ふたつはうらおもて。
良いことがほしかったら、
くっついてくる悪いこともひきうけなければならない、
ほんの少しは。

『へそまがりの魔女』より



★『The Snowman』
Raymond Briggs
HAMISH HAMILTON
(邦題『ゆきだるま』 評論社)


ある雪の日。
少年がゆきだるまを作ります。
すると、その夜ゆきだるまが動き出し、不思議で楽しい秘密の時間が始まるのでした…。


キャラクター商品が出たり、短編アニメも作られた、ゆきだるま界のスター(笑)ですが、意外と絵本はちゃんと読んだことはないという方も多いかもしれません。


この絵本の最大の特徴は、マンガ形式になっていてコマ割りされていることです。
ただ、字はいっさい無くセリフもありません。
なので、自由に想像を膨らませて、自分だけの『ゆきだるま』の世界を楽しむことができます。


絵は、ほんわかとしたタッチで、淡い優しい色使い。ゆきだるまの表情や仕草が愛らしく、時にヤンチャな子どものようです。


圧巻なのは、少年とゆきだるまが手をつないで走りながら、空へ飛んでいくシーン。
流れるような動きと躍動感に溢れ、何度読んでも心躍る瞬間です。
見開きで一枚の絵となるページも、大型絵本ならではの迫力があって、空を飛ぶ爽快感を増しているように思います。

そして、楽しい一夜に心奪われた読者ほど、ラストシーンの切なさに胸がつまるでしょう。


絵本は子どもだけのものではない、大人でも楽しめる。そう気づかせてくれた、私にとっては絵本の魅力を知るきっかけとなった本です。
お気に入りの場所で、じっくり読みたい一冊です。



★『アンジュール ある犬の物語』
ガブリエル・バンサン
ブックローン出版


始まりは、車の窓から捨てられる一匹の犬。
必死で後を追いかけますが、車はみるみる遠ざかり、犬は見知らぬ場所で一人ぼっちになってしまいます。
あわや事故にあいかけたり、浜辺を彷徨い歩いたり、孤独な犬の旅路が淡々と描かれてゆきます…。


『アンジュール』は字のない絵本。
ラフなデッサン画のような絵で、色もついていません。
無駄なものは全部削ぎ落とし、本当に大切な線だけを残して描いたような絵です。
なのに、不思議と犬の表情はとても豊かに感じられ、後ろ姿だけでも心情が痛いほど伝わってきます。


特に浜辺を彷徨うシーンでは、遥か遠くに犬の姿がぽつんと見えてるだけなのですが、それでも犬の悲しみ、孤独がありありと感じられ、胸が締めつけられます。
よせてはかえす波の音、犬の悲痛な遠吠えまでが聞こえてきそうです。


ラストのとある出会いのシーンでは、やっと小さな希望に火が灯り、犬の幸せな未来が予感されて、なんとも言えない読後感に包まれることでしょう。


絵本で、こんなにも心を揺さぶられ感動するんだ!ということを教えてくれる名作です。
犬好きの方なら、最初の車を追いかけるシーンだけで、もうウルっとくるかもしれません。
私のように(笑)




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