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小説「彼女は頭が悪いから」と先入観(ネタバレなし)


私は東大生の将来をダメにした勘違い女なの?
深夜のマンションで起こった東大生5人による強制わいせつ事件。非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。
現実に起こった事件に着想を得た衝撃の書き下ろし「非さわやか100%青春小説」!


この本は、実際の事件を元にフィクションで描かれた小説です。

ハッピーエンドというわけでもなく、とても後味の悪い小説でしたが、非常に示唆深い作品でした。

いつか県内の大学に進学することになったら、我が子にも読んでほしいと思います。

というより、都会の大学に夢を抱いて上京した20年前の私もこの小説の世界観を知っておきたかった。

20年前、私が東京の大学に進学した時には今の世の中ほどインターネットが発達していなかったので、大きな犯罪に巻き込まれることなく学生生活を終えられましたが、これからの世の中で大学生になる人達は、きちんと学んでおかなければならない。

これからはとても難しい世の中だと思います。


物語に出てくるのは

都会の教育熱心な親のもとに育ち、優秀な大学に通っている大学生。
そんな将来有望で優秀な大学生の周りに群がる人々。
田舎から都会に出て行く普通の大学生が出てきます。


親の背景や心情なども合わせてとても丁寧に綴られていて、実際の事件をもとにノンフィクションではないけれど、事実をもとに、筆者が背景を想像して書いた小説で、自分も他人も強い先入観を持って暮らしていると再認識させてくれました。


上記URLは平成31年東京大学入学式での上野千鶴子さんによる祝辞で、この本について触れています。

あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。


この本を読んで、自分の日々の生活が先入観だらけだと改めて感じたこと。

例えば、自分は医療従事者として働く中で、しょっちゅう受診して湿布や塗り薬を過剰に要求する生活保護の方に対し、「本当に必要なの?」
と、思うようなことが多々ある。

入院を繰り返す生活保護の方に対しても、「本当に入院する必要はあるのか?」と考えてしまう時がある。

もちろん、先生が精査した上で処方していたり、入院させたりしているので、必要性はあるはずです。

生活保護になりたくてなった人ではないかもしれない。

医療費の無駄としか思えず理解できない発言をする人でも、自分が常識だと思う医療システムについて教えてもらったことがないのかもしれない。

私はこの方々の背景を想像できているか?

生活保護を受けている保険証を見ただけで、患者さんご本人と会話する前に私の心の中にレッテルを貼っている部分はないか?

私は自分が今の生活ができるように、自分で努力してきただけでなく、親や周囲の環境が背中を押してくれたから。

そんな周囲の力をもらえなかった人の立場に立ったことがあるか?

見下すとまで言わなくても、バイアスがかかって見えている部分はあるのではないかと強く感じました。

相手を理解しようとしない凝り固まった価値観が、小説のなかに出てくるような事件を生み出してしまっているのかもしれない。



では、我が子がこれから加害者にならないように、被害者にならないようにするためにはどうしたらいいのか?私なりに考えてみました。



「都会の大学は怖いから選ばないように」「危ないことはさせないように」など、子供を無菌室に隔離するのではありません。

致命傷にならないように怪我をする経験です。

具体的には、マイノリティーの経験ではないかと思う。

例えば、イスラム教が多数派の国や、ヨーロッパなど日本人もしくはアジア人が少数派の国で過ごすことで、自分がマイノリティーとして暮らした経験をさせてあげたい。

自分の常識が他の人にとって非常識であること。他の人の非常識も正しいかもしれないということを、自分で体験できる機会が大切なんじゃないかと思います。

インフレが進み、外国に行くことは難しくなってくるかもしれない。

でも、いろんな形でマイノリティーを経験させてあげる機会をつくりたいと強く思わせてくれる、いろんなことを考えさせてくれた素晴らしい作品でした。

こちらは東大がなぜこのような環境になっているかを考えている本です。こちらも同じように読んでみたいと思います。

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