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高知の人口から考える3: 労働供給制約社会

2040年の日本が直面する危機的な人手不足の状況を論じた「働き手不足1,100万人」の衝撃(リクルートワークス研究所)。同著を読めば、働き手が絶望的にいない未来像をよく理解できる。日本は、基本的な生活を維持するための労働力が確保できない社会、つまり供給制約社会になる。悲観論に終始することなく様々な解決策も提示してくれているので、興味ある方は是非読んで欲しい。(私が運営するシェアオフィスにも置いている)

さて、未来ではなくまさに今この問題に対処しなければならないと思う県が私が住む高知県だ。課題先進県とはよく言ったものである。

この課題を考える上で、一つのチャートを確認したい。高知県の人口統計と国立社会保障・人口問題研究所の人口推計をもとに、2024年と2050年の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に対する高齢者人口(65歳以上)の人数の割合を自治体別に表したものだ。計算式はいたってシンプルで、生産年齢人口を分母とし高齢者人口を分子としている。つまり、主な働き手である生産年齢人口1人に対して高齢者が何人存在するか、今と未来で把握できる

またご参考までに、計算根拠となる生産年齢人口と高齢者人口を掲載しておく。

高知県庁HP「高知県推計人口」(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/t-suikei/)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」(https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp)より筆者作成

さて、上記の棒グラフから確認できることを列挙してみよう。

  • 全ての自治体で2050年に向けて当該数値が上昇する。

  • 2024年時点で高知県全体ではこの数値は0.7。生産年齢人口1人に対して高齢人口が0.7人ということなので、働き手がまだ多い。しかし生産年齢人口ベースでは過半数以上が集中する高知市の影響が大きい。高知市はこの数値が0.5だ。

  • 2024年時点で既にこの数値が1を超えている自治体が確認される。すなわち、生産年齢人口より高齢者人口が多いということだ。最も高いのが大豊町の1.8、次に高いのが仁淀川町の1.6。働き手1人に対して、高齢者が1.6〜1.8人いるということだ。

  • 2050年には高知県全体でこの数値が1になる。生産年齢人口と高齢者人口が県レベルでほぼ同数だ。

  • 高知市では生産年齢人口がどっと減る一方、高齢人口は微増するため当該数値が0.9になっている。しかし、高知市は生産年齢人口のうち、実際は働き手とみなせない高校生や大学生を多く含むため、実態は1.0を超えていると思われる。

  • 2050年にこの数値が2を超える自治体が出てくる。最も高いのが東洋町で2.3。町だけでなく市でも2を超える自治体が存在する。例えば、室戸市は2.1になる。働き手1人に対して、高齢者が2.1〜2.3人いるということだ。

この表を見ながら考えられる仮説は以下の通りだ。

  • あらゆる産業、特に労働集約的な産業で人を雇用することは極めて困難になる。住民視点でみれば、今まで以上にあらゆる業種の店舗が身近になくなり生活が不便になる。働き手不足で物流や交通の運転手が不在となり高齢者の移動手段がなくなる。

  • 自動運転やドローン宅配が社会に実装されたとしても人口密度が極端に低い地域での導入が経済的に可能か疑問だ。自動運転は高速道路での大量輸送や密度が高いエリアでの周遊バスのようなサービスは実現化されると思うが、人口密度が低い地域での導入はビジネス的に困難と思う。宅配のラストワンマイルの人手がいないため、もしかしたら自宅までの託送ができず郵便局や役場に受け取りBoxが設置されるかもしれない。

  • 産業間の人の奪い合いが政治的な論争になる。インバウンドが殺到しているニセコでは、観光業が賃金を一気に上昇させたことで人手が集中した結果、介護施設では人手が足りなくなり廃業に追い込まれた。(目下高知全体で取り組んでいる)観光振興を図ろうとする勢力と医療福祉を重要視する勢力の間で希少な人的リソースを巡って論争が起きる。高齢者がマジョリティを占める高知の中山間地域体ではその傾向が強くなる。

  • 医療や福祉でもサービス提供が極めて困難となるため、医療・福祉のキャパシティがある都市部の高知市に移住する。その結果、想定よりも中山間地域から高齢者の人口流出が起き過疎地域ほど人口減少が加速する。

  • 余談だが、つい先日、不動産業者から「この民家のオーナーの老婦(といっても70前)は、この一軒家を売りに出して高知市内のサービス付き高齢者向け住宅に移った」と聞いた。その一軒家が所在するのは、路面電車やJRの駅、スーパー、役場も近くにある中山間地域にしては便利な場所だ。それでもシニア、特にお金がある高齢者が満足して暮らせるサ高住は皆無だ。先述したように高知市は生産年齢人口が減少する一方、高齢者人口が微増する。中心市街地の不動産が流動化し始めた(ついに地主が土地を手放し始めた)今、不動産デベロッパーは福祉事業者と組んでサ高住のような物件の供給を市内中心に増やすことが想定されるため、田舎から市内に移り住む高齢者は増えるかもしれない。

以上、高知県の今後について、今回は生産年齢人口と高齢者人口の比較という切り口で考察をしてみた。働き手が中山間地域と呼ばれる過疎地ほどいなくなる現実を定量的に理解できたと思う一方で、その地域を後世に残していくためには、今の政治の仕組みでは限界を感じる。

私は現在39歳だが、年を重ねる度に自分の心は過疎エリアに向かっている。美しい川で漁をする喜び、お山のてっぺんで気心知れた方々と飲み交わすお酒、気が遠くなる年月の中で形成された自然の景観を目にする時間、人生の本当の豊かさを感じるのはそうゆう時だ。

なんとか中山間地域と呼ばれる過疎地域で人の営みを続けていく道を模索したい。しかしこれは全く簡単ではないようだ。以下の書籍によれば、自分もビジネスマンとして身につけてきたフレームワーク、現状と明確なあるべき姿を考えた上でそのギャップを整理して原因を潰していくという「ギャップフィル型の課題解決」のアプローチでは困難のようだ。そして課題先進県だ。行政がよくかき集める先行事例は世の中にほぼ存在しない。この課題には、まずゴール/目指すべき姿の見極めをした上で、現状とゴールのギャップを埋める解決策のアイデアを思考の飛躍によりひねり出す必要がある。つまり、「ビジョン設定型の課題解決」のアプローチが有用なようだ。

「あきらめたらそこで試合終了ですよ。」とどこからか聞こえてくる。クリエイティビティに富んだゴールと解決策を考えていきたいと思う。

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