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高知の未来:都市と疎空間で考える

1. 都市と疎空間

戦後から続く地方の人口流出。人口の流出が止まない地方では、人口減少が課題となり、いつしか都会と地方、あるいは都会と田舎という二項対立に分けて、人口減少に起因する様々な課題や対策を語るようになった。都会への一極集中の是非を議論したり、都会から田舎へ移住を促すという議論もこの二項対立で論じられてきた感がある。

しかし、高知の今後を考える上では、この都会と田舎という単純化された思考の枠組みを取り払う必要があると思っている。つまり、もう少し解像度を上げて課題の本質に迫るべきだ。

辞書を引けば、田舎とは、地方、あるいは都会から離れた所という意味だ。その意味で「高知県」も田舎だ。しかし県内の人口の半数近くが集中し全国の中核都市の中でも比較的人口が多い高知市とそれ以外のエリアではあまりにも状況が異なる。よって、都会と田舎という二項対立で考えても本質が見えてこないし、課題と打ち手が異なってくるのは明白だ。問題の本質は、都市と即空間に区別することで見えてくる。

疎空間という言葉は、マッキンゼー、Yahoo!Japanを経て、現在は慶応義塾大学教授であり、Zホールディングス株式会社シニアストラテジストの安宅さんの書籍や記事で知った言葉である。

疎空間とは、言ってみれば人口密度が極端に低い過疎地域だ。廃村になった場所もあるし、かろうじて人が居住している地域もある。限界集落と言い換えてもいいかもしれない。以下の記事内で、安宅さんは「人口密度50人以下の「疎(そ)」な空間を疎空間と呼んでいる。」と述べている。

2. 風の谷の運動

そして安宅さんは、都市集中型の未来に対するオルタナティブとして「風の谷の運動」を展開している。「風の谷」は、「風の谷のナウシカ」に出てくる土地だ。腐海に侵食された未来にあって、人間が住む美しい自然景観の土地だ。

風の谷が目指すのは、現在日本のあちこちに存在している疎空間に人を一気に移住させるとか、現代社会に背を向けたヒッピー文化を確立するということではない。風の谷のHPには、風の谷の運動が目指すべき方向性が以下のように記されている。

私たちが目指しているのは、都市しかない未来に対するオルタナティブづくりとして、圧倒的な空間価値を持ち、都市にも負けない魅力と知的な生産性を持つ、そういう空間を生み出すことです。これはいわゆる村おこしでもなければ、リゾート開発でもありません。

風の谷HP: https://aworthytomorrow.org/

つまり、未来では都市化がますます進展すると想定する一方、都市とは異なる魅力や知的生産ができる空間を疎空間(過疎地域や限界集落)に創造することを目指している。もちろん、安宅さんや風の谷は、都市を否定しているのではない。都市への人口集中は、様々な意味で経済的に(エコノミクス的に)理がかなっているからだ。人口減少局面において人口が分散し続ければ、インフラの莫大な維持コストを負担できない。すなわち、経済的に非効率なことを続ける余力はないと言うことだ。

さらに、環境負荷も都市が圧倒的に良い。自然豊かな田舎の方が環境負荷が小さいと思う人がいるかもしれないが、その実は違う。人の居住だけを考えれば、都市の方が環境効率が高い。これまで東京都心や名古屋市、高知市、2万人規模の町、アフリカの成長都市と様々な環境で暮らしてきたが、その主張にはそうだろうとうなずける感覚がある。移動手段で考えると分かりやすい。都市では大量輸送が可能な電車が最もポピュラーな移動手段として使われる一方、田舎では4人乗りの自家用車に1人で乗って通勤する人(私もその1人だ…)が多い。

環境効率に優れた都市というのはもちろん先進国の都市が中心だ。2014年から3年間暮らしたアフリカのアンゴラという国は大都市だったが、都市内の移動手段は、自家用車か古い乗り合いバスだったため、排気ガスがひどかった。

上記のように、風の谷の運動は、都市への集中をエコノミクス的には良しとしつつも、都市集中型の未来に対するオルタネイティブとしての疎空間を後世に残していくべきだと真剣に検討し行動しているところが意義深い。人間が適度に介在することで豊かな自然を後世に残すことができるからだ。そしてまた、疎空間=ユートピアではなく、将来現実的に起こり得る激甚化する自然災害への備え(Diseaster ready)や地球規模で拡大する感染症への予防的な対応(Pandemic ready)という意味合いもあるようだ。

3. 都市と即空間で考える高知の未来

では高知において、具体的にどのような方向性を考えることができるだろうか。以下の風の谷のマッピングを活用させて頂き、考えを深めたいと思う。

資料: 風の谷のHP https://aworthytomorrow.org/story/

このマッピングを自分なりに解釈すると、都市だろうが即空間だろうが、人口減少時代をサバイブしていくためには、ダイナミックな知的生産や多様な集まりと出会いがある空間でなければならない。その上で疎空間は、自然との馴染みや美的刺激(自然景観の美しさ)のある空間である必要がある。それのため、この要件を満たす疎空間はイケている開疎空間と表記されている。

4. 都市の高齢化が進展する高知市

以上を踏まえると、高知の都市部とそれ以外の中山間地域(過疎地域)に分けて今後の方向性を考える必要がある。まずは都市に当たる高知市だ。人口の一極集中が進む高知市は、もちろん「さびれた地方都市」ではなく「求心力のある地方都市」を目指すべきだが、どうすれば良いのだろうか。

高知市が目下直面している最重要課題は、人口減少と都市の高齢化につきる。次のグラフを確認してみよう。

高知市の人口は2024年2月1日時点で316,990人。これが26年後の2050年に241,483人に減少すると見込まれている。しかしそれでも人口が20万人を超えているので都市としては決して小さくはない。国土交通省によれば、「人口規模20万人を境に高次な都市機能が立地する」という。百貨店(高知大丸)が消失する可能性はあるが、都市としての機能は今と2050年では大差ないのかもしれない。

国土交通省資料をもとに筆者作成
https://www.mlit.go.jp/common/001179884.pdf

余談だが、この国交省の資料は人口規模ごとにどのような事業所(例:小売)が存在するか確認する上で参考になる。今回その資料に県内のいくつかの自治体の2024年2月時点と2050年の人口を記入してみたので、今後の生活や移住を考える上で参考にしてもらえればと思う。

高知市の話に戻りたい。人口減少以上に深刻と思われるのが高齢化だ。65歳以上の高齢化率が31.3%から42.4%に上昇する。75歳以上の後期高齢者でみると、17.8%が27.0%だ。高知市は、4人に1人以上が75歳という都市になる。しかし比率だけで物事を考えていると、本質を見誤る可能性がある。31.3%から41.2%へと約10%高齢化率が高まると聞くと、ますます高齢化社会だねという感想ぐらいにしかならないが、実数で見れば65歳以上の約10万人に対して現役世代が極端に少ない状況が浮かび上がってくる。

2050年の高知市の生産年齢人口(15歳以上-65歳未満)は、国の推計では116,728人とされている。このうち、15-19歳、20-24歳は労働力としてあまり当てにできない年齢層だ。高知県の令和5年度学校基本調査(*)によれば、中学卒業後の高校進学率は99.0%、高校卒業後の大学等への進学率は56%だ。以前の投稿で考察した通り、これらの世代は、高校卒業後に県外の大学に進学し大きく減少が見込まれるし、県外から高知大学などの県内大学に進学してくる大学生が多く含まれる。
* *1 令和5年度学校基本調査 確報値 -高知県分【概要】-https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2023082100176/file_contents/file_20231219283930_1.pdf

15-24歳の人口は労働力としてはほとんど当てにできない。よって、25-64歳までの人口99,958人と良くて15-24歳の人口の半数8,360人を合計した108,318人が実際の生産年齢人口ぐらいなのだろうか。とすれば、2050年に高知市は生産年齢人口(15歳以上-65歳未満)と高齢者人口(65歳以上)がほぼ等しい都市になる。

すでに女性の社会進出やシニア人材の活用というのは、これ以上頼ることができない打ち手だ。2040年の日本が直面する危機的な人手不足の状況を論じた「働き手不足1,100万人」の衝撃(リクルートワークス研究所)の最初の方にそのことについて詳しく触れられていいる。

特に高齢化が年々進展している高知市はそうだろう。DXやロボティックスなどのテクノロジーの活用は期待しつつも、医療や介護といったエッセンシャルワーカーに割く人的リソースを大幅に減らすことは難しいのかもしれない。逆に言えば、その他の産業で人手を確保することは極めて困難になる。

ほぼ等しくなる生産年齢人口と高齢者人口の人口構成は、地方における民主主義と政治についても考えさせられる。有権者の半数が65歳以上、議員の大半が65歳以上という中で、後世のための未来に向けた政治をどう実現できるかという問いだ。(※ 実際、その課題に直面しているのが高知県の中山間地域だ。生産年齢人口(定義通り15-24歳の人口を含む)が65歳以上の人口より少ない上に、首長も議員の過半数以上も65歳以上、議員選挙では定員割れという自治体も存在する。)

こう考えを進めていけば、諦めムードで試合終了になってしまう。しかし、それではいたって面白くない。最近とある人との議論でとにもかくにも面白がるというスタンスが大事だと気付いた。今高知が直面している課題は簡単ではないし複雑だが、この状況を面白がりながら活路を見出したい。

5. 高知市の未来を考える

「人口は嘘をつかない」ため、このまま成り行きでいけば、中核都市の高知市といえども働き手が激減する中で高齢化が同時進行することを確認したが、その未来を変える手立てを考えてみたい。

まず未来を変えるために、風の谷の運動論から得たヒントを元にすると、以下の2つの点が大事だ。

  • 住民票ベースの人口ではなく一時的な滞在者を含めた人口に重きを置く。これには従来型の観光客を含まない。消費メインでサービスを求める観光客数を追うことは供給制約社会においては非現実的だ。人生における暮らしの一部、例えば数週間、数ヶ月を高知に滞在する人を増やす。

  • 世の中の人々、特に都市部に住む人たちの高知に対する認識を変える。観光客への訴求ポイント、例えば鰹のタタキ等の食やお酒、自然、歴史では不十分だ。全国津々浦々まで食と自然と歴史が豊かなのが日本だ。高知は時に陸の孤島と言われる場所だ。全体(日本)の中で目立つ必要がある。風の谷の運動で示された、都市に住む人たちの感性に響き多様な人々の交流・出会いが生まれる都市、つまり求心力のある高知市像を考える。

私は、高知市には、大きな都市構想、グローバルとは言わなくてもリージョナル、東アジアぐらいでどのような都市を目指すのか、グランドデザインみたいなものが問われていると思う。メガシティの東京や大阪とはもちろん、他の地方都市とも異なる都市像。交流や出会いがあり、知的生産の一部を滞在中にできる場所だ。

6. Spaceport City, Kochi

高知は、実はあるものにうってつけの場所になると確信している。そう宇宙港(Spaceport、以下ではスペースポートと記述)だ。

スペースポートとは、文字通り地球から宇宙に飛び立つ港だ。この港から宇宙に人や物資を送るロケットが発射される。宇宙飛行士だけでなく民間人が宇宙へ行く時代になりつつある今、今後宇宙港は多くの人の利用が見込めるし、その周辺には宇宙や未来を感じられる体験施設も期待できる。

スペースポートの構想を描き宇宙関連産業の振興を企図しているのが、一般社団法人 Space Port Japanだ。概念だけではよく分からないという人のために、コンセプト図なども掲載してくれているので、下のウェブサイトを参考にして欲しい。Space Port Japanには、様々な分野の企業だけでなく、この分野で取り組みを始めている自治体も加盟している。この中に高知の名前が無いのは実に残念でならない。

https://www.spaceport-japan.org/

宇宙ビジネスは、巨大かつ成長著しい産業だ。巨額の資金が動き、各国や民間企業が凌ぎを削って開発を推進している。投資用語で「国策に売りなし」という言葉があるが、宇宙は半導体と同じく国策になる。(※少し古いが、宇宙ビジネスについて理解したい人には以下書籍がオススメだ。)

このスペースポートを都市ビジョンの中核に据えたのが、Spaceport City, Kochiという都市ビジョンだ。高知市と隣接する南国市、県、そして国が一体となって構想する。2市の2024年2月時点の人口は362,768人(高知県全体の55%)。2050年時点では274,591人(高知県全体の61%)になる。

Spaceport City, Kochiのビジョンを構想(ほぼ妄想)した理由は以下の通りだ。宇宙分野の専門家では無いので、素人意見としてご容赦いただきたい。

  • 高知県の地理上の位置。ロケットの射場は一般的に東および南いずれかに開けている場所が望ましいと言われる。その点、高知県は広大な太平洋に面しており、南から南東にかけて大きな海がひろがっている。

  • 高知港(新港を含む)/高知市と高知空港/南国市の近接性。スペースポートを造るとすれば、高知空港周辺が最適な場所だろうか。航空・宇宙行政を一体的に行えるし、仮説の域を出ないが、空港周辺は騒音と南海トラフ地震の津波リスクにより過疎が進んでいる上、公園や広場もあるので用地確保が比較的しやすい。そして何より高知空港と高知港は車で10分ほどの距離だ。船でロケットを高知港で荷揚げしすぐに発射場がある高知空港周辺に運搬できるというのは強みだ。

  • スペースポートから歓楽街のある高知市へのアクセスの良さ。スペースポート候補地の高知空港周辺から高知市まで車で30分だ。宇宙産業で働く方々や、宇宙への旅行者が旅前旅後に地球の食の豊かさを楽しめる。ここは、種子島ではなく2050年でも27万人の都市圏だ。飲食などのサービス産業の存在というのは重宝されるはずだ。

  • 地球上の高速移動のハブ的存在。ロケット射場というのは、宇宙へ人や物資を運搬する場所というだけでなく、もう一つ大きな可能性を秘める。長距離フライトの代替サービスだ。現在のフライト時間が10時間以上かかる国までは長距離輸送ロケットで行く時代が来る。高知から欧州やアメリカ、南米やアフリカまでロケットで宇宙空間を経由して1時間で行けるなら日本における高速移動のハブ的存在になれるかもしれない。

  • Spaceport City, Kochiでは、最先端のテクノロジーや未来志向のデザインが多く取り入れられる。イノベーティブな人たちやSF好きな人、デザインが好きな人だけでなく、「宇宙が大衆化」する21世紀には宇宙というコンテンツ自体が多くの人を惹き寄せ高知を訪れる。

広大な海を眺めながらまだ知らぬ外の世界に夢を馳せる。20世紀までに海が果たしたこの役割は宇宙に引き継がれるかもしれない。その意味でSpaceport City, Kochiは求心力のある都市となれる可能性がある。

7. 高知でのイケてる開疎空間

求心力のある地方都市に次いで考えるべきは、人口密度が極端に低い疎空間、高知で言えば中山間地域と呼ばれる過疎地域だ。しかも役場などの公的施設や商店が存在している場所ではなく、かつての集落、もしくは何とか存続している集落が該当すると思われる。

そういったエリアをダイナミックな知的生産や多様な集まりと出会いがある空間、かつ、自然との馴染みや美的刺激(自然景観の美しさ)のある空間、つまりイケている開疎空間にできるかどうかという問いだ。

この取り組みは、行政主導では難しいのかもしれない。予算やリソースが限られる中、各自治体は今後ますます効率的な対応を迫られる。人口減少で公的サービスの縮小も行われるだろう。そんな中で一つの集落だけに予算を投じる政治的な意思決定を行うことは困難と思われる。したがって、高知にイケている開疎空間を創ろうとなれば、民間主体で取り組む必要があると思う。克服すべき課題は主に4つあると考える。

オフグリッド(特に電気と水)
人口減少で今後深刻化する問題の一つにインフラの維持管理がある。例えば、安宅さんの指摘によれば、電気の配送電網の維持が困難になる。仮に電力会社が都市部の利益で過疎地の配送電網を維持してくれたとしても、大規模災害が起きた際には復旧が困難になる可能性が高いため、オフグリッドの道を模索する必要性を唱えている。

高知でも太陽光パネルを大規模に設置するメガソーラーが一時期大きな問題となったが、開疎空間に必要な電力はさほど多くない。建物の屋根等に設置する太陽光パネルと今後低コスト化が期待される蓄電技術があれば、オフグリッドを実現可能なのだろうか。

一方、電気に次いで必要不可欠と思われる水道はどうだろうか。高知県の過疎地域はこの点は問題ないかもしれない。21世紀は水の世紀と言われ水を巡る紛争が顕在化しつつあるが、高知は水に恵まれている地域が多いからだ。現在でも沢の水や湧き水を利用している地域がある。先人の知恵と、雨水を活用する最新のテクノロジーを合わせれば、上水問題は電気ほど難しくはないかもしれない。下水も、特殊な浄化装置を活用すれば汚水排水をなくすことが可能になるかもしれない。オフグリッドの分野は、すでにイノベーションが起きており、日本ではARTHという会社がオフグリッド型モジュールのWEAZER(以下参考)を既に開発している。また、ChatGPTは先進国から新興国まで先進的な事例を提示してくれた。もしかしたら、グリッドが未発達な地域、例えばアフリカにおけるイノベーションを高知のような日本の過疎地域で活用すること(リバースイノベーション)も検討できるかもしれない。

通信環境
先述したように、イケている開疎空間の要件の一つは、ダイナミックな知的生産や多様な人の集まりと出会いがある空間だ。人口減少時代をサバイブしていくためには、人口が集中する成功した都市や求心力のある地方都市との間に、人の往来を造る必要があるからだ。そのためには、安定した通信環境が求められるのは言うまでもない。特に都市で働くITやクリエイティブ業界、その他の知的生産に従事する人たちに訪れてもらうためには重要だ。高知の中山間地域でも光回線を利用できるところは増えたが、国道から入り込んだ集落では光回線や一部の携帯通信も使用できない場所もある。しかし最近では、技術革新が著しいStarlinkなどの衛星インターネットサービスなども出てきているため、光回線が行き届いていないエリアも通信環境は劇的に改善されるかもしれない。

デザイン(ランドスケープ・建築)
開疎空間といえども、都市在住の人々の感性に響くハードのデザインが求められる。それは都市が作り出すトレンド追従のデザインとは異なって良いはずだ。自然との馴染みや美的刺激(自然景観の美しさ)が大事な点だからだ。

幼少から高知で育ち外の世界を見てきて思うのは、高知の景色の多くが全国どこでも目にするものと変わらないこと。商業施設やロードサイド店舗、戸建てからマンションといった住宅はどこにでもある建築デザイン(中には個性的なデザインも一部ある)だ。空間デザインを意味するランドケープも同様だ。まちや空襲による消失や南海地震での倒壊といった理由もあるが、高知市でさえ、まち全体やランドスケープを意識しているとはいえない。再開発も遅れているため、バブル期に建築され老朽化した商業ビルも多い。

高知市でさえこのような状況にあるため、中山間地域の状況は推して知るべしの状況だ。役場等の行政の建物はこの10年くらいで比較的新しくなったものの、民間ベースの投資が進んでいない。デザインという意味で例外的なのは、梼原町かもしれない。山深い梼原町の木材を活用した隈研吾氏の木造建築群を見に観光客、外国人観光客がわざわざ足を運ぶ。

人を集客するにはソフト面も大事だが、ハード面のデザイン視点も重要だ。高知の開疎空間らしく自然と調和するランドスケープデザインと建築デザインを考える必要がある。

コミュニティ
高知の開疎空間が多様な人々の集まりの場になるとしても、常時居住する人々の数は限られる。つまり、過疎地域であることは変わらないため、市場は小さいし、そもそも商業やサービスに従事する労働者の数も少ない。よって、訪れる人達がお金でサービスを享受するという消費活動メインの地域にはなれないと思われる。その点、現在過疎地域でも力を入れている観光振興とは対照的だ。

そうなると、開疎空間とは、少ない住民と都市に居住する人々、あるいは都市に居住する人々同士がそこに滞在し都市とは全く異なる生活を行う場所と言えるかもしれない。一定期間の滞在中、作付けや収穫などの農作業や、山菜採り(高知は山菜の宝庫)、渓流釣り、イノシシなどの害獣駆除、インフラの保全(雑草とりから簡単な道路補修まで)といった作業を休暇中やリモートワークの合間にわざわざ時間を使って行う。都市住民の時間価値としては割に合わないが、労働では満たされない自己実現やマインドフルネス、クリエイティブに貢献する創作時間として認識される。

とすれば、開疎空間とは、(住民票を有する)住民と訪れる都市住民が形成するコミュニティが主体となるのかもしれない。開疎空間を維持可能なレベルのコミュニティ人口を都市部から呼び込み、コミュニティをどう運営していくのかが課題になる。

資金
民間主体で活動を行おうとすれば真っ先に課題となるのは資金だ。上記の考察を踏まれば、デザイン性の高いオフグリッド型の滞在施設などの建築物を新築やリノベーションするには相当な資金がいる。当然、投下資金は回収する必要があるので、事業計画を作成して収益活動を営む必要がある。

この流れでいけば、誰もが思い浮かべるのが宿泊施設だが、多額の初期投資を数年〜数十年の収益で投資回収する点に加えて労働集約的なビジネスモデルであるため、開疎空間では困難かもしれない。流行りの一棟貸しも固定費がかからない分、収益的には良いが、地域を持続的に「経営」していくためには長期視点で関わってもらえる人が妥当だ。宿泊(消費)ではなく滞在だし、地域活動があるからだ。言ってしまえば関係人口だが、生活の軸足が置かれている2拠点や多拠点の居住者といった表現が適切だろうか。

企業の株主のように、将来的な開疎空間の滞在者を資金の出し手に加えることができればこの問題は解決するかもしれない。つまり、資金の出し手=滞在施設利用の権利者となる。プロジェクトに賛同してくれるデザイナーや進化する生成AIを活用すれば、高知における開疎空間の構想と具体的な滞在イメージを提示し資金拠出に繋がるかもしれない。

8. まとめ

本稿では、安宅さんや風の谷の運動を参考にしながら、高知の未来を都市と疎空間に分けて考察してみた。

高知における都市=高知市は、求心力のある地方都市として都市ビジョンを掲げる必要性がある。妄想レベルであるが高知市の都市ビジョンとしてSpaceport City, Kochiをひねり出してみた。

一方、疎空間=高知の中山間地域は、人口減少や高齢化による政治的な解決策の限界から民間主体で過疎地域を多様な人たちが交流し自然景観の美しさがあふれる開疎空間にするためには、様々な課題を解決する必要性がある。

人口が…高齢化が…財政が…悩みをあげればキリがないのが高知県。こうゆう状況だからこそ前向きに面白がるスタンスでいこうではないかと思う。おそらく今の高知県にとって必要なのは、坂本龍馬ではなく、幕末の思想家、吉田松陰だ。彼ぐらいぶっ飛んだ思考と強い意志で人々に行動変容を促せる人物でないと解くのが難しい難題かもしれない。彼の「諸君、狂いたまえ!」とはよく言ったものだ。これは現代で言えば、スティーブ・ジョブズのStay hungry、Stay foolishだろう。

私も、知行合一ではないが、突破できるアイデアを閃いたら行動に移したいと思う。

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