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【時事】国費留学生 情報整理

これも事実誤認があまりに多いので、少し情報を整理しようと思います。多分、論調としてネット上で喧伝されるのは「日本人には厳しいのに、外国人留学生にはとても甘い制度」とか「中国人にのみ優遇措置が取られているのではないか?」というものかなと。実は、巷に転がる「外国人留学生優遇説」はほぼデマです。

結論から言うと、中国人にのみ甘いなんて事もないし、日本人が冷遇されていることもないし、上位エリートの国費留学生は確かに厚遇されているけど日本からの留学生も海外で同じような待遇を受けている訳です。「その辺で遊びまわっている外国人留学生にお金が支給されてて日本人は奨学金で苦しむとかずるい」なんて構図ではないですね。

「文部科学省」および「独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)」のデータベース等を元に読み解いてみましょう。当該資料の年度は「なるべく最新のもの」をソースとして用意したいのですが、年度が若干分散します。そこはご容赦願います。

※なお、自治体からの奨学金や民間奨学金などの制度は別口でありますが、そこまで網羅するのはなかなか難しいので「国費」に照準を絞ってます。


01. 受入留学生区分

ODAについても、留学生についても「一緒くたで語られる」がデマ拡散の大きなポイントだと思っています。実際はもっと細かく区分されているし、精緻なプランニングがなされていたりするんですが。
難しいのが「国費留学生が日本の税金でただで学んでいる」だけ聞くと、それはそれでファクトなんですよね。ただ、それは全体の一部でしかなく「ほとんどの学生は私費」や「日本人が海外留学する際も、当該国の支援を受けている」や「若くて優秀な人材は各国争奪戦」というところまで含めて考えた方が、全体像が見えてきます

では、その留学生にはどんな種類があるのかを確認しましょう。


01-01.  国費留学生数

一番手厚い待遇なのが、この国費留学生。まあ、エリート中のエリートさんですので「そこらへんの留学生みんながこの待遇」ではないですね。

国費留学生制度は(以下、制度の歴史についての記述なので割愛)これらの国費留学生に対しては往復航空券のほか、大学院、学部、高等専門学校の各レベルに応じて奨学金が支給され、授業料も免除されることとなっている。また、財団法人日本国際教育協会を通じて、渡日一時金の支給、宿舎費補助、医療費補助等の援助措置が講じられている。

文部科学省 留学生受入れ制度

01-02. 外国政府派遣留学生

これは「諸外国が人材育成のため、相手国経費で、日本で学ばせたい学生」というものですね。そのため、国費留学生とは別区分ですね。

【外国政府派遣留学生(受入)について】
諸外国の中には、当該国における人材養成を推進するため、当該国政府の経費負担により留学生を派遣することとし、日本政府に対し、その受入れについての協力を要請するところがあります。日本政府は国際協力を積極的に推進する立場から、これら各国の要請に応じて協力しています。
現在、我が国は、マレーシア、タイ、シンガポール、アラブ首長国連邦、サウジアラビアからの政府派遣留学生の受入れについて、日本語等の予備教育や大学等への連絡・調整等必要な協力を行っています。(この他、新規の受入れを中断しているところがあります。)

文部科学省 外国政府派遣留学生

01-03. 私費留学生数

勿論、大多数はここです。95%くらいの外国人留学生さんは「自らの意志と経済的負担で」教育を受けています。

私費留学生は、自らの意志と経済的負担で我が国の高等教育機関において教育を受ける者であるが、近年の円高等の事情により我が国における留学環境は厳しいものになっている。(過去の経緯はとりあえず省略)医療費についても補助措置が講じられている。留学生の大部分を占める私費留学生に対する奨学金支給等の支援事業については、近年、公益法人や地方公共団体においても実施されるようになってきておりその数も増大しているが、いまだ不十分であり、今後の充実が期待されている。

文部科学省 留学生受入れ制度

02. 留学生の数

ここ、注意しなくてはならないのが「コロナ禍なので、数値の変動が激しい」点。自然なカーブじゃない時期ではあります。が、直近のデータが一番実情に近いと思うので、ご留意ください。


02-01. 海外から日本へ

まずは留学生の総数確認、および「国費で賄われている人数」の確認が必要ですね。それぞれ、どのくらいいるのかを確認してまいりましょう。

1989年から2022年までの推移です。一番上の方で推移している赤い箇所が「外国人留学生数」で、そのすぐ下の緑の箇所が「私費留学生数」です。ここ、近いですよね。つまり「大多数の留学生は私費」なのです。では、国費留学生はいかほどか?一番下のオレンジ色の箇所が「外国政府派遣留学生」で、そのすぐ上の紫の箇所が「国費留学生」です。一目瞭然、ほとんどの留学生は「私費」です。

独立行政法人 日本学生支援機構(令和4)年度外国人留学生在籍状況調査

詳細な数値は下記の表のとおりです。

独立行政法人 日本学生支援機構(令和4)年度外国人留学生在籍状況調査

表が小さいので、2022年の数値をピックアップしますと下記の通り。

❶ 国費留学生数     :  8,924人 (全体の3.8%)
❷ 外国政府派遣留学生数 :  3,008人 (全体の1.3%)
❸ 私費留学生数     : 219,214人 (全体の94.8%)
合計人数(❶+❷+❸)  231,146人

独立行政法人 日本学生支援機構(令和4)年度外国人留学生在籍状況調査

02-02. 日本から海外へ

文部科学省によると、2021年度で10,999人の日本人が海外留学しています。我が国の今後の発展に寄与してくれる若い人材です。どんな国に留学しているかというと、下記の国が人気のようです。(2020年のデータです)

【留学生に人気の国ランキング】
01位 カナダ       06位 韓国
02位 アメリカ合衆国   07位 マルタ
03位 イギリス      08位 ドイツ  
04位 オーストラリア   09位 フランス
05位 フィリピン     10位 アイルランド

2020(令和2)年度日本人学生留学状況調査結果

02-03. 人数の差異は若年層の労働力になっている

海外から日本へ留学:231,146人(2022年)
日本から海外へ留学:10,999人  (2021年)

つまり入国する学生さんの方が22万人ほど多いんです。日本から海外に留学する学生さんの場合、彼らが外国にいる間は国内産業にてアルバイトなどの経済活動は出来ません。生産年齢人口が毎年減少し続けるこの日本において、若年層の労働者は必要なのですが、彼らがその一端を担っています。ここ10年程、コンビニや各種ショップで「外国人のアルバイト増えたなぁ」と感じる事多いですよね?あれは「若い労働力」として日本で頑張ってくれている形です。外国人流入に対しての忌避の声は多いですが、実際はこの高齢化社会で既に「社会の一員として日本の産業を支えてくれている」形。
(※1年の誤差はソースが見つかったか否かの問題です。後者の2022年データが見つかったら挿し替えます)


03. 国費外国人留学生数内訳(国別)

おそらく多くの人が「中国人留学生に多くの国費が流れているのではないか?」という懸念を持っているのではないでしょうか。外国人留学生数(令和2年5月1日現在)の解説がありました。

Q:国費外国人留学生制度においては、中国人留学生が大半を占めているのではないですか。
A:国費留学生総数は、令和2年5月現在で8,761人です。このうち中国籍の国費留学生は834人と国費留学生全体の9.5%程度であり、国費外国人留学生制度の予算の大半を中国人留学生に支給しているということはありません。
なお、国別の留学生総数と、そのうち国費留学生数の割合についても中国は0.7%であり、全体の平均(3.1%)と比しても低い割合となっています。

文部科学省Q&A

わざわざ中国名指しでQ&AがWebsiteに掲載されているので、もしかしたら複数の問い合わせがあったのではないかなと推察します。

以下、少し詳細な形で検証。


03-01. 各国ごとの国費留学生の割合

上述のQ&Aの解説です。
・中国人国費留学生数 / 中国人留学生総数
・ベトナム人国費留学生数 / ベトナム人留学生総数
といった形で「その国の留学生のうち、どのくらい国費留学生がいるのか」の数値がこちらになります。中国人は留学生総数は多いですが、そのうち0.7%しか国費待遇ではないです。全体平均3.1%を下回ります。

タイやバングラデシュは国費率高いな。優秀な学生さんなんでしょうね。

筆者作成  引用元:文部科学省 国費外国人留学生の受入人数について

03-02. 国費留学生の国別内訳

こういう話題は概ね「中国が得している!中国を排斥するべき!」という論調になりがちなのですが、どうもそれも違うようですね。留学生総数で一番多いのは中国なのに、国費受給している人の比率は9.52%に過ぎません。
中国人留学生121,845人 / 全留学生数279,597=43.6%
全留学生の43.6%が中国人なのに、彼らの中で国費待遇になっている比率は9.52%です。マイナス乖離34.08%です。

全然優遇されてないじゃん…

筆者作成  引用元:文部科学省 国費外国人留学生の受入人数について

03-03. 台湾はどうなのか?

さて、上記のリストに「比較的、位置が日本に近い台湾」がないのが気になる方も一定数いらっしゃるのではないでしょうか?実は、国費外国人留学生制度の対象者は「日本政府と国交のある国の国籍を有すること」が条件であるため、台湾の学生は対象外。

ですが、実は救済措置があります。台湾からの留学生には公益財団法人日本台湾交流協会を通じて、昭和48年度から国費外国人留学生制度による支援と同額の支援を実施しています。50年ほど、この制度は続いているんですね。令和2年度予算は約6.5億円。在籍者数は下記のとおりです。

【台湾からの留学生受け入れ / 国費留学生同等】
平成29年度 大学院:230人、学部:51人、計281人
平成30年度 大学院:242人、学部:51人、計293人
令和元年度 大学院:222人、学部:50人、計272人
令和 2 年度 大学院:226人、学部:52人、計278人

文部科学省

04. 日本人学生向け支援(給付型)

04-01. 外国政府等による給付型奨学金

「日本の政府は外国人を優遇してる!」という論調もお気持ちはわからなくもないのですが、実は「外国政府も日本人留学生に給付型奨学金」は出しているのです。生活費や往復の渡航費あたりは国によってまちまちですが、日本人だけ損をしている構図ではないですね。

【ヨーロッパ】
アイスランド、アイルランド、イタリア、ウズベキスタン、英国、オーストリア、オランダ、スイス、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ロシア、EU
【中近東】
イスラエル、オマーン、クウェート、トルコ
【アジア】
インド、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、中国、ブルネイ・ダルサラーム、マレーシア、モンゴル、台湾
【北米】
アメリカ合衆国、カナダ
【中南米】
コロンビア、メキシコ
【オセアニア】
オーストラリア

外国政府等による奨学金

04-02. 日本の給付型奨学金(非留学)

日本で学ぶ日本人の学生さんは「外国人留学生に比べて冷遇されているのか?」も併せて確認しましょう。

財務省 令和5年度 文教及び科学振興費について
文部科学省 令和5年度予算

令和5年度予算の高等教育の修学支援新制度(授業料等減免・給付型奨学金)は5,311億円です。給付型奨学金は2,601億円。国費外国人留学生予算は224億円。まあ、当たり前のことではありますが「日本人向けの給付金が圧倒的に多いです。(これを記載したのはあるデマが出回ったからです。06の箇所で後述します)


05. 岸田総理「わが国の宝とも言える留学生」

05-01. 留学生円滑入国スキーム

まずは元の発言を確認しましょう。2022年の3月、確かに岸田総理は「わが国の宝」と発言しています。

【2022年3月3日】留学生円滑入国スキーム
「多くの留学生が4月の新学期を迎え、希望通り入国できるかどうか不安に感じておられます。新型コロナによりこの2年間、15万人の留学生が来日を心待ちにしている状況です。わが国の宝とも言える留学生が国民の安心を保ちつつ、円滑に入国できるよう『留学生円滑入国スキーム』を設け、ビジネス客が比較的少ない平日を中心に、空席を活用して優先的に入国できるよう支援いたします」

産経新聞

留学生円滑入国スキームは「コロナ禍で、留学生が飛行機の座席を確保して円滑に入国できるための措置」でした。これはビジネス客が少ない平日を利用して優先的に受け入れるスキーム。当時、在留資格を得ながら日本に入国できていない留学生は約15万人いるとされ、優先入国が認められました。(2022年5月に終了)


05-02. 何故「留学生がわが国の宝」なのか?

まず、アジアは軒並み出生率が低下しているようです。グローバルサウスの人口増とは対照的に、近隣諸国は概ねこの問題に悩まされています。

(2023年)1月17日、中国国家統計局は、2022年末の中国の人口が2021年比で85万人減少し、14億1175万人だったと発表しました。人口世界一は中国ではなく、インドになりました。中国の人口減少は、1961年以来、実に61年ぶりのことで、出生数は前年比106万人減の956万人で、6年連続の減少であり、人口1000人当たりの出生率は過去最低の6.77人でした。中国でも少子化が深刻化しています。少子化については、実は東アジアで深刻になっており、中国や日本に限らず、韓国や台湾、香港、マカオでも深刻な問題となっています。

日本少子化対策機構

東アジア合計特殊出生率(人口比で生まれた子供の数を表す指標)
1位:韓国(0.84)
2位:香港(0.87)
3位:台湾・マカオ(1.07)
4位:中国(1.28)
5位:日本(1.34)
※2020年データです

日本少子化対策機構

これが何を意味するのかというと「若い人材は近隣諸国どこも不足している」です。他国に生まれた人材でも、各国欲しがっているのが現状。

その辺で遊んでいるような「有象無象な学生」ではないんです。大学院のトップの人たちばかり。英国の高等教育専門誌「Times Higher Education」が毎年、世界の大学ランキングを発表していますが、これでいうと東大でも39位。とりあえず上位50校抜粋しますと下記の通り。

ELEMINIST 出典:Times Higher Education

東大以上の頭脳を持つ、若き担い手がアジアにも多くいるのです。これからの時代は、そんな頭脳の争奪戦。勿論、日本の若き頭脳も「宝」なんですが、こういった留学生も「宝」じゃないですかね。


06.過去のファクトチェック記事

X上でさんざん目にされたかとも思うので、おさらい的にチェック。


06-01. 外国人留学生に毎年380万円を返済不要で支給

金額も違えば、全留学生に当てはまるようなミスリード。


06-02.学生支援機構「450万円貸して600万返済させている」

これも金額おかしいですね。上限金利いっぱいの場合はこうなるのですが、JASSOや政府はそんな阿漕な事はやっていません。


06-03. 「日本人への奨学金が70億」のミスリード

これが意外と悪質です。まずはこの動画をご覧ください。

コミュニティノートが付いている通り、「平成31年4月の動画」と「令和4年6月13日」の動画を繋ぎ合わせて作った動画なのですね。小野田議員本人からも切り抜き指摘されているけど、消されていない…

【日本人学生の給付型奨学金の決算額】
 平成29年度 70億円
 令和02年度 1585億円
 令和04年度 2525億円
【外国人留学制度の決算額】
 平成29年度 180億円
 令和02年度 155億円
 令和04年度 184億円

これ、平成29年から令和2年の間に「日本人学生の給付型奨学金」がやたら増えていますよね?これは安倍政権時の「給付型奨学金制度」の新設が起因です。

07. まとめ

簡単にまとめると下記の通り。
・中国人留学生は別に優遇されてはいない
・日本人の学生も冷遇されていない
・国費外国人留学生は全体の3%程度
・残りは私費留学生ばかり
・私費留学生は「日本にお金を落としている」
・私費留学生は「日本の労働力にもなっている」
・日本人も海外で補助を受けている
・今は若い優秀な頭脳の争奪戦

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